作戦No.002 潜入成功
「ふう…やっと着いたか」
ドラードは、街の境界手前で荷物を下ろし、おでこの汗をぬぐい、一息の休息を入れる。
少し遅れて、リアンも隣に追いつき力なく崩れ落ちる。
「レクシブがこんなに重いとは思わなかった…」
地面に座り込んで、腰に下げているものを恨めしそうに見つめる。
「長距離移動だし、慣れてねえと案外重いかもな。でも、へばってる暇はねえぞ。ここからが本番なんだからな」
そんなことを言われなくてもリアンは分かっていた。この大移動が目的では無いことは。
「でもまあ、そんくらいの方がむしろ逃げてきた感じで怪しまれねえか」
よし、とドラードは意気込み、置いた荷物をまた持ち上げる。
「ほら、いくぞ。いつ撃たれるか分からねえんだから」
「え⁉撃たれるって‼」
慌ててリアンも立ち上がり、ドラードに付いていく。
そんな彼女にはぁ…とため息をついた。
「そりゃ、見張りがいるんだから、この軍服じゃなきゃ今頃俺らは生きてないな」
「ひえぇ…」
リアンは近くにあった街の建物を見上げた。
狙撃用レクシブをこちらに構える敵と、スコープ越しに目が合う。他の建物も、同様にこちらを狙っている。
「おい、怪しい行動をするな。まじで撃たれっぞ」
街の中へ入る。大通りから入ったので視界は開けていて、中では軍用車や軍人があちこち忙しそうに動き回っていた。みんなドラードとリアンを気にする様子はないので構わずこちらもまっすぐ歩き続ける。
「ねえ、もう潜入できたのかな」
「馬鹿。そんな簡単なわけがあるか。見張りが無線で上官に俺たちのことを報告しているだろうし、もうそろそろなんかあると思うんだが…」
キキィ!
ちょうどいいタイミングで彼らの目の前に車両が停まった。前に乗ったことのある輸送車のようなものではなく、4人乗りで屋根なしの簡素な車だ。
バッと扉を開けてさっそうと現れるのは、周りにいる軍人たちより少し立派な制服を着た細身の若い男であった。
「チッ、何だおめぇら」
その上官の第一声で、リアンは思った。こいつはかなり性格の悪いやつだ、と。
「俺らはあっちの町から逃げてきた。車両に乗り遅れたから泊りがけで隠れながら歩いて来たんだ」
「あぁ?チッまた逃げてきたアホどもか。よお、おめぇらよくもまあ、ノコノコとこんなとこまで来れたな?俺を見てみろ、おい、女、オメェだよ。なあ、俺のこの目を見ろってんだ。どんな目をしてると思う?」
「ええ、っと…青?」
確かにその男は、きれいな青い目をしていた。
だがその男が望んでいた回答は違ったようで、思いっきり目を釣り上げて「はあああ?」といった。
「青だって、馬鹿め、俺の目はな。蔑んだ目をしてるんだよ!お前たちをな!分かったらとっととあっちへ行け!」
そうして一点を指差すと、質問を許さぬまま、言うだけ言ってさっさと車に乗って去ってしまう。
「嫌な奴」
「面白えやつだ。口の悪さじゃ圧倒的にガスポートを超えるな。ハッハッハ!」
何故か上機嫌のドラードに冷たい視線を人浴びさせ、暴言祭りの先程の現場に何事かと作業の手を止める群衆の振り払いあの男に指さされた方向へ向かう。
「おうおう、嬢ちゃん可愛そうにな。新人か?あんくらい気にすんなよ」
「あんだけ言われて泣かねえのは大したもんだ。この前なんか、どんくさいやつなんかうつむいて目からポロポロ涙を流して…」
「馬鹿野郎!おめえとあの子を一緒にすんじゃねえ、繊細なんだよ」
「やけにかばうじゃねえか。惚れたんか?」
「バッ、ばっきゃろうぇい!そんな訳あるか」
そんな会話が後ろの群衆から聞こえてくるが、ドラードもリアンもそれを無視し、道を進んでいく。
すると、建物の前に1人、手招きで誘う者がいた。
その男に近づくと、
「よおよお、さっきは散々だったな。来いよ、仲間同士だ。遠慮することはない」
所々に傷の付いた軍服の男は、ズズズ、と手に持っているコーヒーを口に入れる。
「ヴィスだ。過去のことは何も聞かねぇ、これからは俺の部下だ」
ヴィスは握手を求める。リアンとドラードは顔を見合わせた。先程の男と違い、こちらは頼りがいのある上官、といった印象だ。
素直に握手を交わした。
「まあ入れや」
誘われるまま、彼らはヴィスに従った。
この男が前の町、ヤーレスの部隊長だとは残念ながらリアンもドラードも気づかないのであった。
―――――あとがき―――――
もう誰をあとがきに出したのかわからない作者です。
あの口が悪い敵の上官、本当は死ね死ね言うようなキャラなんですけど、本当にいいのかなぁ?
つまりあの男もっと口が悪いです。
とにかく、潜入成功ですね。これからどうなるのでしょうか。
でわ!
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