作戦No.0019 旅
「さて、お前たちはここから逃げ込んできた兵士に紛れてエルトに潜入してもらう。あの時からだいぶ日数が経っているが、逃げ遅れたと言い通せばなんとかなるだろう。ああ…もちろん歩いていくんだ。それとリアン、絶対にドラードの言うことに従うんだ。失敗したらお前たちが生き残る可能性は0だからな。言っておくが、スパイが見つかったときは…もう…酷いものだぞ…」
ヤーレスの町を出発する前に
「…だからな、あんときは無線機がな、どうせ同じもんだろって思ってこっちの持っていったんだが、まさかの型が違くてな。それでバレたわけだ。いやぁ、あんときは死んだと思ったね。だけど、あのときな、知り合った仲間が匿ってくれて、敵なのにだぜ?あれは命拾いしたな。いやーあいつ生きてるといいなぁ。っておい、聞いてるか?」
「………」
「おーい!」
何日もかかる道のりは退屈なため、ドラードがラジオのように彼の英雄譚を話していたが、それを唯一聞く相手であるリアンが心ここにあらずなためドラードは彼女の体を揺する。
「んえ?」
「おいおい、お前が聞いてなきゃ俺は独り言をつぶやき続ける寂しい人になるじゃねえか」
「あ…ごめん」
「ったくよぉ」
いいか?とドラードはまた、同じ話をリアンに聞かせた。
「へー、無線機ね」
「ああ、今回はまるまる敵の装備を奪ったからな、大丈夫だろう」
そう、彼らはすでにいつもと違う軍服を着ている。この格好で味方に会えば、攻撃されること間違いなしだ。
つまり、敵が味方に、味方が敵になるわけだ。
着替えるだけで…
「んー、気持ち悪い!」
まだ若干湿っている服を摘んで離してを繰り返し乾燥させようと試みるが、まだペタつくことに不快感を覚えるリアン。
「気にすんな。ったく、そんな程度でよぉ」
そう言うドラードが着ている服はなんと全く乾いていなく、ところどころ水が滴っている。軍服が黒を基調としているので軽く洗えば血が目立たないはずなのに、彼が着ている服はなんと、少し観察しただけで血が付いていると分かる。
「そんな程度って、ドラードのそれは酷すぎない?ほんとに洗った?」
「何だと、隣で洗っただろうが、見てなかったのか?」
「見てたけど…」
あのとき確かに彼は洗っていた。洗っていたのだが…10秒もかからないくらいで終わらせてしまっていた。濡らしただけじゃん…とその時のリアンは思った。
「せめて絞ったら?」
「ああ、たしかにな。でも今更脱ぐのもめんどくせぇや」
「重くないの?」
「いいや、全然気になんねぇな」
足取りの軽さを動作で見せつけてくるが、どう見ても水でずっしりと重くなった衣服に囚われているように見える。
「…いや、ちょっと重いかもしれねぇ…」
だから言ったじゃん、リアンはそう思った。
「だから絞ったらって」
「…歩いてりゃ乾くだろ」
「………」
これ以上言っても仕方がないと思ったリアンは、この話題に触れることをやめた。
それからは、ドラードの話をずっと聞かされながら歩き続け、暗くなってきた辺りで野営をすることになった。慣れているドラードがテキパキとテントを張ったり、主に力仕事をして、リアンは食事などを用意した。
こういうことは軍の訓練でやっているので、2人共連携を取りながらスムーズに事が進んだ。
「食いもんが欲しいな」
「あるじゃん、軍用レーションが」
そう言って、リアンは鞄から缶詰をいくつか差し出したが、ドラードはそれをしかめっ面で見て、受け取らなかった。
「そんな人工物じゃなくてよ。もっと野性的なもんがいい」
「野性的って何」
「だからほら…あれとかよ」
彼は辺りを見回して、何かを探している。しばらく時間がかかってようやくリアンはドラードの言いたいことが理解できた。
「ははーん、要は肉が食べたいの」
おう、と肯定する。
「この辺ならなんか…適当な動物捕まえて…」
きょろきょろとしばらく辺りを探しているが、ちょうどこのときは手頃な生き物がいなかった。平原なので、遠くにいるものなら確認できるのだが、それは流石に遠すぎる。
「いないんじゃしょうがないよ。ほら、せめて温めてあげるからこれで我慢して…」
なんて、焚き火の近くに缶詰を置いて温めようとした矢先、キッと、何かに気づいたドラードが突然上空を見つめ、そしてレクシブを取り出し、見つめていた上空に1発撃ち込んだ。
ビクッ!
予想外の出来事にリアンは驚き飛び上がる。その過程で缶詰が1つ彼女の手から離れて上空に打ち上がった。
「…頭、よしよし、いい位置に当たった」
満足げなドラードが、リアンの元へ寄ってくる。ついでに打ち上がった缶詰をキャッチした。
「何やってんだ?」
そう言いながら取った缶詰を差し出す。リアンは唖然とした。
「な…何って、きゅ、急に撃ったらびっくりするでしょ!」
「ああ、悪かったな。ちょっと待ってろ」
悪びれる様子もなく、ドラードは、すぐにどこかへ行ってしまった。
またリアンは唖然としていると、しばらく経って手に何かをさげて戻ってきた。
その手に下げていたものは、なんと鳥であった。
早速それをリアンに差し出す。
「ほら、焼鳥にするぞ」
と、こんな様子の旅を数日間続けて、彼らはようやく目的地であるエルトの街に着いたのであった。
―――――あとがき―――――
私はアウートです。ヴァイエと一緒にレクスの隣にいます。内政、レクスのお世話、色々やってます。
皆さん、本日も読んでいただきありがとうございます。
前にヴァイエが言ってたと思いますが、私たちはまだ謎にしておきたいというのが作者の意志なので、軽いご挨拶を最後にしてお別れといたしましょう。
では
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