作戦No.0016 気まずい雰囲気

宿屋にリアンとラークが侵入する少し前。

そこにある角部屋の一室で既に、クレルとシェーロが一休みしていた。

なぜ同じ部屋なのかといえば、シェーロがそれを望み、クレルもそれに反対しなかったからである。

疲れている、とは言っても今もなお戦闘時の興奮状態が抜けていないせいもあって彼らは眠気を感じていなかった。いや、シェーロに関しては、まるで疲れている雰囲気を出さないのでよく分からないが…

とにかく、特に深く考えることもなくベッドの縁に並んで座っていた。


「………」


「………」


お互いに何か言うことをしない。

精神統一をしているかのように考え込んでいて、クレルはベッドの上で座ったまま目をつむり、まるで石像のように固まっていた。そんな彼をシェーロは心配し、横目に様子を伺っている。



クレルが考えていたことはもちろん、先の戦闘のことだ。

忘れてはいけないのが、彼は新兵であるということ。つまり、あのときに初めて、しかも、何も考える暇も無いままに数10人という人間を撃ち殺した。


これが彼にとってトラウマになる出来事なのかといえば、それは違う。なぜならば彼は取り乱していない。だが、取り乱していないということが、落ち着いているとは限らない。

胸にざわめく、今までに感じたことのないモヤモヤ。

これをどうするべきか、またこれは何なのか、そんなことを瞑想しながら考えていた。



ふとクレルは目を開ける。手に違和感を感じたからだ。

見てみると、その違和感の正体は震えだった。手がかたかたと震えていた。それに気づいたことをきっかけに、今度は全身が震えだす。


「⁉」


すかさず、隣にいたシェーロがクレルを抱き寄せてくれた。

ぎゅううう…っと、大きな包容力で包み込んでくれる彼女に、クレルは頼らずにはいられない。

涙が出てくることはないが、言いようのない恐怖感に駆られていた彼はそれをしてもらうだけで、少しだけ震えが止まった。


そして、そのまま目をつむったクレルは、段々と体を横に倒して、最終的にはシェーロに膝枕をして貰う形で眠りに着く。



「……クレル…今度は…私が………」



―――――――――――――――



「どの部屋どの部屋⁉」


バン!

バン!

バン!


リアンとラークが競い合うように部屋の扉を次々に開けて1番いい場所を探していく。その勢いたるや、「脱兎のごとし」という言葉がふさわしいほどだ。


「やっぱ1番奥の部屋がいいと思うな!」


途中にある部屋を全て開けているものの、あまりこの行為に意味はなく、彼らの目的地は既に決まっていた。


「ね!私もそう思ってた!」


はたと、2人は思った。

同じ部屋に2人はよろしくないのではないか…と、いうことは、どちらかが角部屋を譲らなければならない。

お互いに目を合わせる。


そして、部屋の扉を開ける行為をやめ、一直線に目的の部屋まで走る。

考えることは一緒だ。先についた方が選ぶ権利がある!と。


押しのけあい、転び、文字通り足を引っ張りあう。

そうまでして先にたどり着いた者はどちらか、


バン!!




2人は同時に、きれいに横並びで目的の部屋に飛び入った。同着である。


「今のは私が早かったでしょ!」


「いーや僕だ!」


挙句の果てには言い合いになり、それが数分ほど続いた。

やがて2人共疲れ果て、はあ…はあ…と呼吸をするだけとなった。


「……な…何?」


リアンでもない、ラークでもない声が、呼吸音しか聞こえなかった室内に響く。

疲れた体でゆっくりと2人が顔を上げてみるとベッドの上で膝枕されているクレルと、膝枕をしているシェーロがこちらを見つめていた。


「え?え?何やってるの?」


「え、いいな」


クレルは寝起き直後なのでまだ状況の整理が追いついていない様子。

しばらく全員お互いがお互いを見合ったまま固まっていた。

だが、


「はっ⁉」


やっと状況を整理できたクレルが飛び起きた。


「なぜいる⁉」


ベッドから離れずにシェーロから出来る限り離れる彼に、シェーロは少し不満げだ。


「え、いや、それはこっちのセリフだよ」


「俺らは隊長がここで休めって…」


「リアンもそう言われたの?」


膝枕の件に関して全く気にした様子のないシェーロに、リアンは少し押され気味だ。


「え、いや…私達は……」


なんて言おうか…とリアンとラークは見合う。命令でこの辺りへ来たが、この宿に入った理由は、言わば怠慢だ。そんなことを正直に言うのは気が引ける。


「………」

「………」

「………」

「………」


シェーロはクレルの方しか向いていなかったが、3者がそれぞれ顔を見合わせ頷き合う。そう、これで彼らは協定が締結されたのだ。


『何も無かった』


という、1つの取り決めが…



―――――あとがき―――――



はい、シェーロです。

丁寧な言葉も使えますよ―。

どうやら作者さんが、私のキャラクターをどうしようかで迷ってるらしいの。

明るいキャラなんだけど、ミステリアスキャラを出したい…つまり、快活なミステリアス?よくわからないな


じゃあね

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