作戦No.0012 激しい攻撃
「シェーロはあの時、敵の狙撃を簡単に止めている」
ストルと仲間全員で魔法の訓練中に狙撃を受け、基地に避難し作戦会議をしているところまで時は戻る。
「うん、なんか飛んできたから…」
あたかも当然、といった様子のシェーロが、誇るでもなく普通の調子でそう言う。
「我々の今の状況で1番安全に狙撃手を発見する方法は、彼女にに偵察をしてもらうことだろうと私は考える」
同じことを大多数が思っていたようで、そのことに反対するものはなく、うんうんと同意するものがちらほら。
「という訳で頼めるか?」
「いいよ!」
2つ返事でオッケーをもらえたために、ここで会議がお開きになりそうな雰囲気が漂い始めるのだが……
「じゃあクレル!一緒に行こ!」
「は⁉︎」
まさか自分が巻き込まれると思っていなかったクレルは自分でも驚くくらい大きな声が出た。
「え?」
「え?じゃなくて!俺、銃弾、取れない」
「なんで片言になってるの?」
ふむ…と、ここですかさずストルが2人の間に割って入った。
「まあ、落ち着けシェーロ、クレルはまだ戦闘経験も少ないし、連れて行くことはリスクにしかならないと思うぞ?」
「違うよ!私は持ち主から離れられないの!」
ああ…そういえば彼女は水晶から生まれた存在であった。ならば…
「そういうのなら仕方がないか…」
「え?その一言でもう陥落したのか!嘘だろ⁉︎俺、行きたくない!」
「四の五の言ってるんじゃない!我が国が負けるか負けないかの瀬戸際なんだぞ!」
「そうだよ、クレルはもう、いくしかないんだよ」
思いっきりストルに手のひらを返されたクレルに、とてつもない絶望感が押し寄せてきた。
「じゃあ、行くしかない…のか?」
もう反論する気も起きないクレルは諦めモードだ。
「よし、良い決断だ。では2人には敵の狙撃手を発見して可能であれば撃破するんだ。もし敵が自分たちの仲間の元へと帰ってしまったのなら、その部隊の居場所を確認してすぐに戻って来るんだ。分かったな」
クレルの肩を掴み、しっかりと念を押して言ったはずのその言葉はしかし、その前の会話で諦めモードに入っていた彼には残念ながら届かなかった。
そうして、クレルたちは送り出されたのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
という話をクレルは、大量の敵がこちらに武器を構えているという状況で思い出したのである。
「そうだった、こんなことしろなんて一言も…」
がっくりと膝をつき、手をついて四つん這いになり絶望を隠しきれない様子のクレルの元に、いつの間にか取り出した剣を右手に持ち、シェーロが近寄ってきた。
「大丈夫?クレル」
心配してくれるシェーロの声は、とても優しい。
背中をさすって慰めてくれている。
そう、敵に狙われながら…
「うん…大丈夫……だいじょう……ぶ?………って!んな訳あるかー!いってえ!!!」
「アウ??!?!」
そのまま、深い闇の中に沈もう…というところでどうやら彼は、今の状況を思い出したようだ。
だが、飛び上がるように立ちあがろうとしたところに、優しく慰めてくれたシェーロがいて、クレルの頭とシェーロの顎が強くぶつかった。
あまりの痛みに両者耐えることができずにその場で倒れ込んだ。
「……た、隊長!」
その成り行きをずっと見ていた敵兵士のうちの1人が、耐えきれなかったようで、オロオロしながら近くにいるヴィスに判断を仰ぐ。
ずっと状況を見ていたヴィスは、ハッと我に返った。
「う、撃て!とにかく、ダメージを当てて敵の防御を割るんだ!」
待ってましたとばかりに四方八方から敵が攻撃を仕掛けてくる。だが、どれもクレルとシェーロには当たらない。
一切ダメージのない彼らは、痛む部分を抑えながら立ち上がった。
そのままクレルは、腰に下げているレクシブを手に取る。
「ぐわっ!」
「ああ…!」
敵の攻撃が一切通用しないことを悟ったクレルは落ち着いて敵に狙いを定め確実に1人1人倒していく。
「むうう…はっ!そうだ機関砲だ!外周のあれもってこい!!!早くしろ!!!!!」
ヴィスが無線越しに何か言っているが、そんなことを気にせずテンポよく敵を撃ち抜いていくクレル。
そんな彼がふと隣を見てみると、シェーロが退屈そうに剣を地面に刺しては抜いて、刺しては抜いて、と繰り返していた。
「ぶー、私なんにも出来ない…」
魔法の盾には効果範囲がある。シェーロが移動してしまうと、クレルが無防備になってしまうため、必然的に彼女は動くことを封じられる。
かっこよく剣を出したところで無意味だった、ということだ。彼女の腰にもレクシブが下げられているが、使う意志がないのでクレルもそれについては何も言わない。
「まあまあ、今の所順調だから少し待っててくれ、な?」
それからしばらく時間が立ち、
キュルキュルキュル
そんな音とともに運ばれてきたものは、クレルや敵兵士が持っている銃の何倍も大きな兵器であった。前方に3つ、急いでいたということが伺える、不規則な並びに設置された。
「な、なあ…シェーロ……」
「ね―、クレルが魔法使えれば私が自由に動けるんだから、早く覚えてよー!」
「ばっ…!そんなこと言ってるばあい……」
ドドドドドド!!!
重厚な連射音が鳴り響く。
射撃音、その攻撃を弾く音、など様々な音が鳴り響き、非常にうるさい。会話も、大声で話さないと相手に届かない。
「ちょっ…これはやばくね?」
「え?なんて?」
クレルの声は届かない。
シェーロは剣をいつの間にか消して両手を耳に当て、音を集めるポーズをとる。
「だ!か!ら!やばくねって!!」
「え!?」
先程よりも声量を上げて叫んでみても、やっぱりシェーロには届かなかった。
あまりにもうるさい音や、聞くことの出来ない言葉。
こんな状況に一番初めにキレたのはシェーロだった。
「ああ!!もう、うるさい!!!」
見えたことをそのまま表現するなら、シェーロはただ1回だけ、邪魔な羽虫を振り払うかのような動きをしただけだった。
それなのに…
「ぐわああああ!!」
「隊長!機関砲がっ!」
爆音の大本である3台の兵器は、またたく間に大きな爆発とともに四散した。
その爆風が、シェーロとクレルの元にも届き、服や髪などをゆらす。
「え?」
クレルは状況を飲み込むのに時間がかかる。
しかし、1番大きく反応したのはクレルではなく敵の方であった。
「て、撤退!!急げ!!ここは放棄だ!!!!」
隊長のような人物(ヴィス)が、そう言うと、その後の展開は早かった。
そこかしこに置かれている、あらゆる移動手段に敵は飛び乗り、散り散りに退散していった。
ヒュオオオ……
突如として静寂が訪れたこの町に、2人は寂しく取り残される。
結局、彼らの初戦闘は、こんな地味な結末を迎えたのであった。
―――――あとがき―――――
私よ、ダリア。
案外早く終わったわね。ならば次から私達の出番が来るのかしら。
ああ、待ちきれないわぁ…
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