作戦No.001 無駄な撤退

死んだ。

絶対に死んだ。


クレルはそう思った。

周囲は炎で包まれている。

既に熱さは感じなくなっていて、意識がどんどん薄くなっている…


クレルは突然、自身の両親のことが頭に浮かんだ。子供の頃の思い出に始まり、軍に入った後の苦悩の日々など、過去の出来事が次々に映像のように流れていく。


やがて、体が立っていることを拒み、無意識に地面へと崩れ落ちた。


「ああ…これが走馬灯か………」


「え⁉クレル!どしたの」


隣にいるシェーロが、こんな状況なのに全くと言っていいほどにダメージを追った様子のない声音でクレルを心配してくる。そこに薄っすらと疑問が浮かぶものの、それ以上のことをクレルは考ることが出来なかった。


「ああ…いい人生……だ…った………」


そっと目を閉じ静かに終わりを迎えよう…としたところでクレルはふと気づく。


「あれ?」


全くダメージがないではないか。なんと隣のシェーロも。

というかクレルとシェーロの周りに炎が無い。まるで周囲に壁があるかのように…


「な…なんで?」


「クレル?何にやられたの⁉攻撃は全部防いだと思ったんだけど」


「お、おお…」


ここまでの情報があれば、流石にクレルも自身が全くダメージを受けていないことが分かる。


そして、ダメージが無いと分かれば、クレルも今までの走馬灯など無かったかのようにスッ…と立ち上がった。

その時立ち上がる際に、クレルの装備のポーチから何かが落ちたものの、下が土のため落ちた音が鳴らなかったためにクレルは気づかなかった。が、たまたま見ていたシェーロはそれに気づいた。


「どうして倒れたの?」


「え?いや、倒れた……?」


「今倒れてたじゃん」


「そぉだっけなぁ!」


自分の行動を振り返ってみると、なんて恥ずかしいことをしていたんだと思った。シェーロに腰抜けなどと思われたくなくて必死にしらを切ってごまかす。


あれぇ、気のせいかな。なんてシェーロがうまく誤魔化されていると、いつの間にか周囲の炎が収まっていた。


「と、とにかく一旦撤退し…」


「ねえ、クレル。これ落としてるよ」


急いで逃げようとするクレルに対し、呑気なシェーロが先程落としたものを拾ってクレルに差し出す。


「あ、ありがとう」


とりあえず受け取ったものの、ひと目見ただけではそれが何なのかクレルは気づかない。


「で、逃げるの?」


「お、おおおお逃げよう!とりあえず逃げよう!」




結局、クレルたちは何も進展がないまましっぽを巻いて逃げることとなった。


―――――――――――――――


「ふう!いやぁ!流石に疲れたよー」


終始変わらず全く疲れを見せないシェーロは、草原の上でクレルと一緒に寝転がっていた。


「ああ…死んだわ。一生分死んだ」


「一生って、1回しか死ねないじゃん」


「うるさい!」


ぶー、シェーロが不満そうにしているが、そんなツッコミを返していられるほどクレルに余裕はない。


「ちくしょう、落ち着いて考えればあんな開けたところ歩いてて見つからない訳がないよな」


そんなことを言いながらクレルは、逃げるときにシェーロから何かを受け取ったことを思い出したので、取り出してみた。

なんと、それは双眼鏡であった。


「………持ってんじゃん!忘れてたわ」


「これって遠くが見えるやつだよね」


「そうだよ!!」


お実はクレルにとってこれは初任務なの。彼自身気づいていないようだが、かなり緊張している。そのためまともな判断ができない。


「じゃあクレルもここから見える?」


先程襲撃された地点より離れているが、ここらが平原であるため未だに敵のキャンプしている町が見えている。敵が攻撃を仕掛けてこないのは純粋に射程の外に出たからだろう。


クレルは双眼鏡越しに町を見る。

町の周りに、景観に似つかわしくない大型の機銃が数個設置されている。


「うわっ、あれで撃たれていたのか?」


機銃とレクシブを見比べ、その大きさの差に驚愕する。

銃が大きければ、弾も大きい。そして、弾が大きければ、攻撃力も大きいのは当たり前のことだ。


「…うん?」


数秒間じっくりと観察したが、どうしても、最後に起きた大爆発の元が見つからない。

焦っていたため記憶がおぼろげだが、威力はなかなかのものだったはず。それを発射することができるものといえば、当然発射台の大きさもかなりのものになる。


しかし、ない。


「シェーロ、あの爆発、どっから飛んできたか分かるか?」


「えっとね、あっち」


シェーロが指をさした方向は、町。


「いや、それは分かるって」


「分かるなら聞かないでよ!」


「お、おお…」


とにかく、どうしたものかと頭を悩ませる。なんとか近づく術はないだろうか…


「盾…?で防ぎながら?」


クレルが思いついたものは、戦車のように、硬いもので身を守りながら進むというものだ。

単純で技術のいらない、いい方法にも思えるが、

しかし…


「盾がねぇ…」


1番重要なものが無い。

自分で提案してみたものの、それが無理だということは自身が1番わかっていた。


ダメ元で、なにか盾になりそうな、銃弾を弾きそうなものがないか辺りを見回してみるが…もちろんそんなものは……


そんな視線は、シェーロで止まった。


「なあ、シェーロ、魔法かなんかで、あれ防げる何かを作れないか?」


「もちろん!それくらい簡単だよ〜」


「………」


今までのクレルが悩んでいた事など意に介さない様子でシェーロはそう言う。


クレルはドッと疲れがこみ上げてきた。



―――――あとがき―――――



リアンです!

なんかクレルが戦ってたね。見るからにビクビクしてる。まあ、あれは怖いよね。とは言っても、読者のみんなは「あれくらいで…」とか思ってるんじゃない?

早く戦いが終わるといいね。


じゃあね!

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