作戦No.0004 御伽噺

ストルを隊長とする部隊は、輸送車に乗って目的地である要塞基地へと向かっている。


この要塞基地は、国の防衛に重要な場所で、ここを制圧されればもう、首都であるカルボを残すだけとなってしまう。

言ってしまえば、この要塞基地こそが首都を守るうえでの最終防衛ラインだ。




とはいえ、ストルの部隊が要塞基地へと到着するにはもうしばらくかかりそうなので、少し別の話をしよう。


この世界は、グランティオ、カラスティオ、オリシティオ、ゼクスティオの4大陸で構成されていると前に言ったが、それらの他に、「アマルティオ」という大陸が存在する。


そのアマルティオには、大昔に滅亡した都市の跡とその時代に使われていた高性能な兵器、そして並大抵の力では全く太刀打ちできない恐ろしい怪物が存在している。




これから話すのは、そのアマルティオ大陸の文明が消え去った時の、現代に広く伝わっている有名なおとぎ話である。



アマルティオを支配していた超大国アマルティアは、魔法使いの国と協力し、非常に高度な文明を築いていた。

ところがある日、どこからともなくやってきた異常に強力な力を持つ女、「アンテア」が現れ、アマルティオ大陸のありとあらゆるものを破壊してまわった。

このままではまずいと思ったアマルティア国の王は、魔法使いと協力して、一撃必殺の破壊兵器を開発し、王と勇敢な兵士たちでアンテアを押さえこみ、開発した兵器で王と兵士もろともアンテアを滅ぼした。

しかし、大急ぎで作った兵器はその後暴発し、アルマティア国は滅んでしまった。





自らを犠牲にする王の勇敢さを描いたおとぎ話で、少なくともグランティオ大陸に住んでいるものなら必ず子供の頃に1回は聞かされる。




ちなみに、もう1つ有名なおとぎ話は、悪さをする子供に、とても人間とは思えない速度で近づいてきて、どこに逃げようとも必ずぶん殴ってくるという魔女のお話などもある。


物騒なお話に、これを聞いた子供達は震え上がるのだ。




一応、この世界で広まっている有名なお話であったため、ここで話しておこう。頭の片隅にでも置いておいてほしい。




―――――――――――――――



「着いたぞ。ここが要塞基地だ」


ぞろぞろと輸送車から降りるクレルたちに、先に降りていたストルがそう言う。


「あーあ…ったく、ガキどもぁうざってぇ」


うおお…

とガスポートが伸びると、元が巨大なため伸びをすると更に威圧感が増し、ラークがそれを見てギョッとし後退あとずさる。


「車内でのことは置いておけ。とにかく、まずはここのトップに会うぞ」


出迎えのない要塞基地に、ストルはサッサと行ってしまった。


クレル、リアン、ラークはストルについていく。そこにレンホス、ダリア、ドラードと続く。


ガスポートは、伸びをしたあとにそのまま地面に座り込んだ。そんなガスポートに飛びつくイストリアとヒストリア。


「ぬわぁ!」


と言う悲鳴が聞こえてくるが、そんなガスポートと双子のことは放っておいて、ストルたちは要塞基地の中を進んでいく。


しばらく進み、やがて少しだけ豪華な装飾の施された部屋の中へと入ることになった。

そこには20にも満たない程度の軍服を着た兵士たちが整列してこちらを迎える。


その中の1人が列から1歩前に出て、


「プチブロ伍長だ」


「ストル少佐だ」


軽い自己紹介の後、お互いに握手を交わす。


この世界では、地位で態度を変えることはなく、目上の人には敬語…という必要もない。まあ、さすがに国のトップとなれば話は変わってくるのだが。


「私は、私達は撤退し、諸君らにすべてを任せる、そう聞いたのだが…」


プチブロはストルたちを順に見つめた。そんな彼の表情を見ればすぐに何を言いたいのかわかる。なにせこちらは7人(ガスポートたちが外にいるため)しかいないのだ。


「言いたいことはわかるが、何も無策で来ているわけではない。とにかく、ここは我々に任せてくれ」


「………」


「ここを守ったことは素晴らしい。戻れば勲章が授与される。20名…相当な犠牲があったことだろう。よくやってくれた。だが、もう大丈夫だ。後のことはすべて我々に任せるんだ」


「………」


おそらく、相当な戦闘をを繰り広げていたはずだ。伍長という地位は、非常に低い。そんな彼がこの部隊の隊長をしているということは、それ以上の地位の者が全員死んでしまったということだ。

プチブロの後ろで整列している男たちはみな、とても若い。クレルたち新兵と同じ程度の年齢だろう。

しかしクレルたちとは気迫がまるで違う。皆、新兵のような年齢でありながら歴戦の猛者のような雰囲気をまとっている。


「隊長……」


「隊長…」


そんな彼らが、プチブロの判断を待っている。

帰りたい気持ち、ここを命がけで守り切りたいという気持ち。様々な思いを抱えつつ、じっと待つ。


「…了解。我らの部隊は、現在をもって要塞基地防衛任務から帰還する」


「うむ。帰るには、我らがここに来るまでに使った輸送車を使ってくれ。少々窮屈かもしれないが…」


ちなみに輸送車の運搬人数は10名だ。運転席と助手席も含めれば12名になる。


「分かった。お前達………ここの任務は終わったが、まだ戦争が終わったわけじゃない。すぐに戻るぞ」


「「「了解!!!」」」


ザッザッ、と並んで部屋の入口に向かってくるので、扉の前に立っていたクレルとレンホスとダリアが横にずれる。



バタン



扉が閉まる。


先のやり取りで、少しだけ哀愁が残るこの空間が広がってしまった。


そんな中でストルは、


「……ほお、伍長のくせに、やけに統率が取れているではないか」


そう、感心するのであった。



-----あとがき-----


お久しぶりです。

今まで1話5000文字を目指して書いてきました。だがわたしにはキツイ。

という事で2500文字を基準に書いていこうと思います。


クレルたちのいるオリコス国の軍の階級システムは、米軍を参考にしてください。ほとんど一緒です。



でわ!

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