作戦No.0003 メンバー集合

クレルとシェーロが、街を1周りした後、ストルの指示したレクスドーム前へと集合すると、そこには既に、ラークとリアンがいた。


そしてその隣には、


「…あ?」


伸ばしっぱなしのボサボサ頭を、無理やり後ろに流している、クレルの2まわり以上ある大きさの男が、無愛想にこちらを一瞥いちべつして、ふいっとよそを向いた。


こわっ。


クレルは気持ちが一歩後ろに下がりつつも、その更に隣の人物に視線を移した。


「おう!」


ニカッと片方の口角を上げて笑いかけて明るく挨拶してくれる。その男もやはりクレルより1まわり大きい大男だった。


どうも…


軽く会釈をして、更にその隣を見た。


「ふむ、ダリア。いま来た彼が、クレル君だろうか。となるとストル殿を除いて全員揃ったみたいだ」


見るからにいいところのイケメンだ。クレルより背が高く、スラリとしたスタイル。喋り方は丁寧で、かっこいい。


彼は、隣の女性と話している。


「そうね。隣の可愛らしい子は一般人かしら。軍服も着てないし」


その女性は、先程のイケメンと似た雰囲気を持っていて、凛々しい美女だった。彼女は、クレルの隣りにいるシェーロをみて、優しく微笑んでいる。


そしてその隣には………「やっほー!はじめまして」「わたしたちは」「イストリアと」「ヒストリア!」「「よろしくね!」」


「うわあ!」


いつの間にか、クレルのすぐ近くまで接近して、元気な声で元気に動き回りながら声を掛けてきた、クレルよりも頭1つ以上小さい少女が2人に、クレルは驚いて叫び声を上げる。


「「あははは!おどろいた!」」


笑っている少女2人をクレルは観察してみると、2人は非常に似ていた。


「2人は、双子なの?」


シェーロはそう聞くと、


「そうだよー!」「わたしたちは」「「双子でーす!」」


息ぴったりで、交互に話したり一緒に話したりしている様子を見れば、誰がどう見ても双子にしか見えない。



これで、ここにいるメンバーを一通り見たことになる。クレルとシェーロを含めて、合計10人。


取り急ぎ、この場所から移動したいと思ったクレルは、このメンバーの中で見知ったことのある。リアンとラークがいる場所へと向かった。


「ねーねー」「げんきないねー」


その後ろを元気に動き回りながら双子は付いて来る。しかしそれは無視した。


「なあ…誰なんだ?」


クレルが、リアンとラークの元へ行くなり、ラークがシェーロを指してそう聞いてきた。


「ああ、彼女はシェーロ。水晶が具現化した姿」


「なにそれ!魔法が使えるんじゃなかったの?」


リアンが突然前に身を乗り出して聞いてきた。その勢いのままシェーロのそばまで行き、まじまじと観察する。その後ろを双子が真似をしながら並んで付いていく。


「人にしか見えない!本当に水晶から?人なの?それともなにか魔法で作られた存在?」


「えっと…私もよくわからないけど…人ではない……かも?」


マジマジとリアンに観察されていることに戸惑いを覚えつつ、シェーロは答えた。


「受け答えができるの⁉すごい!なんで??」


「シェーロは普通の人間だよ、むしろ違うところが見つからないくらいに」


「えへへ…はじめまして……、僕はラークっていうんだ。よろしくね」


「ん。ラーク、よろしくね」


「私はリアン!よろしくシェーロちゃん」


「「わたしたちは!」」「イストリアと」「ヒストリア」「「でーす!」」


もう知ってるよ。といいたげな表情でクレルが、双子を見つめた。しかし彼女たちはそんなことに気づくことはなく明るい笑顔をこちらへ向けてくる。



と、




そんな騒がしさの中で、ふと、コツコツ、という足音が響いた。その音が、普通の通行人の足音ではないことを察し、自然にシェーロを中心とした会話がなくなっていった。

そして、静かになったメンバーが向いた方向には、ストルがいた。

どうやら、約束の時間になったようである。


「ふむ、全員集まっているようだな。皆、よく集まってくれた。ベテラン諸君は、これまでと違った内容の作戦に戸惑ったかもしれない。しかし、これがこの戦争で勝利を掴む鍵となる。

さて、前置きはこれまでにして、詳しい作戦内容と行きたいところだが…」


キッ


ストルの鋭い眼差し(そんな鋭くもない)が、先程楽しく話をしていた会場ヘと向けられた。

正確には、その中のひとりである、シェーロへと。


「一般人をこのまま参加させるわけにはいかない。さ、この場から退いてもらえないだろうか?」


キツイ眼差しとは裏腹に、言葉使いは丁寧だ。シェーロはどうしたものかとクレルの方へ視線を向けた。

すかさずクレルが前に出る。


「あ!隊長。彼女は俺の水晶が具現化した姿で」


「む?」


クレルの言っている意味が分からず、すぐに反応できないストル。ついでに、ストルが来る前のクレルたちの会話が聞こえていなかったベテランメンバーが、それぞれ驚いた反応を見せた。


「いや、これは魔法が使えるというだけでそんな効果はないはずだが」


少し考えても理解できなかったストルは、そんなことを言った。


「そうだけど……でも、そうとしか言えない事が起こったわけで…」


どう証明しようかと、オロオロしだすクレル。

そんな様子をじっと眺めつつストルはしばらく考えると、


「まあ、そんなことも起こるのかもしれんな。何しろこれはまだしっかりとした試験がされていない。

では話を進めよう。

とにかく、まだこの水晶には不安定な要素が多々ある。一応戦闘に使う上での不具合はないと言われていたが、どこまで信用できるのか…

まあ、つまり、これを使って敵を蹴散らし、まずはこの大陸すべての奪還。次に2大陸の奪取。最後に、敵の本拠地を制圧する。さらにいえば、この行動をすべて我々のみでやらなければならない」


ベテランメンバー全員が、怪訝な顔になるが、何も言わずにストルの次の言葉を待った。


「ああ、もちろん無理なことを言っている自覚はある。しかし、この水晶を使うことで、それが可能になるそうだ」


ストルが手に取り掲げて見せたのは、クレルたちが受け取ったものと同じ水晶だ。


「逆に言えば、これを使えなければ、我々は無謀な戦いで戦死し、我が国は敗北の道を突き進まねばならないということだ。諸君の危惧することはわかるが、状況が状況だ。これにかけるしかない」


頭を下げたり、謝罪をすることはしない。しかし、ストルの心情はたやすく察することができる。全員これ以上作戦について聞くことはなかった。


「これから車に乗って、最初の任務へと向かう。その内容は、孤立した部隊の救出、及び救出した部隊からの任務の引き継ぎだ。

詳しいことは後だ。とにかくあれに乗り込んでくれ」


ストルが指した方にあるのは、ここに来たときの集合の目印となっていた巨大建造物、レクスドームの敷地内にある、1台の輸送車だった。

レクスドームは政治の中心と、軍本部が兼ねられた施設なので、このような軍装備が置かれているのだ。


ストルの司令に従い、指定された輸送車に乗り込むメンバー。最後にストルが運転席に乗り込み、


「準備はいいか、出発するぞ」


説明が不十分なまま、一行は戦闘地帯へと向かうのであった。


―――――――――――――


「さて、やはり生存率を上げるには仲間同士の連携が大事だ。という訳で自己紹介といこう。まずは私から、

名前はストル。この部隊の隊長だ」


沈黙の車内。

運転中ストルが、その沈黙を破った。


輸送車の中は暗く、運転席の後ろにある兵員用の座席は、左右壁側に座る場所が設置されていて、ストルを除き、お互いに向かい合って座っている。


「あー、俺はドラードだ」


ストルに続いたのは、1番運転席に近い場所に座っていた、最初の集合場所の時にニカッとクレルに笑いかけてくれた大男だった。


「……おれぁ…ガスポートだ」


次にドラードの隣にいた、最初の集合場所でクレルに一瞥しただけで他所を見ていた無愛想な大男が、語尾を伸ばしただらしない喋り方でそう言った。


改めてガスポートをしっかりと見てみると、第一印象は「でかい!」の一言に尽きる。常に不機嫌そうな表情で、自分の名前を言ったらそれ以上は何も言わんという意思がひしひしと伝わる態度をとっている。


「僕は、レンホス。僕の一族が剣を大事にするから、剣の扱いにはかなり自身がある。よろしく頼んだよ」


ガスポートによって重い空気になっていた車内を、レンホスというイケメンが爽やかな空気へと変換してくれた。


「私は、ダリアよ。レンホスとは幼馴染なの。私も小さい頃から剣の特訓をしてたから自身があるわ」


車の進行方向右側サイドの自己紹介が終わったので、次は左サイド。

まずは進行方向前側にいた人物から始まる。


「はーい!」「わたしたちは!」「イストリアと」「ヒストリアでーす!!」


最初の集合と同じノリの2人に、場の空気が少し軽くなった。


次はこの双子の隣に座っている、


「私はリアン。家が狩猟の家系で、子供の頃から銃を扱ってたから狙撃には自信があるわ」


そして、リアンの隣に座っていた、


「僕はラーク。よろしくお願いします」


その次に、


「俺はクレル」


簡潔な挨拶で済ませ、最後に、


「私はシェーロ。私自身、自分のことはよくわからなくて、クレルと話をしていて、やっと自分が水晶から生まれたんだって分かったの。でも、魔法の使い方はよく知ってるよ。みんなは使ったことないんでしょ?」


「ああ、そのとおりだ。大昔に栄えていた種族が魔法を使っていたというのは、おとぎ話ではよくあるが」


シェーロの問いかけには、運転中のストルが答えた。


「あ、私もそう。魔法って聞いたとき、それが浮かんだもの」


リアンの言葉に、隣にいたラークも同意する。


「おい…ほんとうにこんなんがよぉ、つええのか?お?」


「この水晶の使用を許可したのは他ならぬレクスだ」


ガスポートに返したドラード。彼の言った「レクス」という人物は、この国、オリコスの最高指揮者である。


「レクスがぁ⁉︎…意味わからねぇな」


「僕としては、あまり剣から離れるのは避けたいのですが」


「そうね。レンホス、あなたは確かレクシブですら持つのを嫌がってたし」


「今でもまだ良くは思っていませんよ。でも、剣で銃には勝てませんから」


レンホスは皮肉げに笑う。それを、隣にいるダリアが、レンホスの肩をポンポンと叩いて慰めた。


ちなみにレクシブとは、現在軍で使われている、銃と剣の機能を両立させた武器のことである。これは、兵士になれば全員が装備する、標準的な武器なのだ。


「ああ?なに言ってるんだぁ?おめぇが銃使ってるのなんて一瞬じゃねえか!お?」


「そうだったかな?ふむ…?」


ぐでーん、とだらしなく座席に座っているガスポートが、レンホスにそういうが、彼には思い当たる節はない。


「どうせおめぇ、剣でツッコミやがって迷惑だって追い出されたんだろ?違うか??」


「さて、それはわからないけれど、しかしどうやらここにいるメンバーを見たところ、なかなかみんな、癖の強いのが揃っているようだね」


「そうね。」


レンホスが言ったことは、どうやらここにいる皆(新兵3人と、変わらず前を見て運転を続けるストルを除く)が思っていたことのようで、それを否定する者はいなかった。


いや、


「どしたのー?」「なんでみんな見てるの?」


ダリアの「普通じゃない」というセリフで、揃って皆が視線を向けた先は、イストリアとヒストリアの2人の方であった。


「ちぃっ…まさか、おれがぁ、こいつらとおんなじになるなんてなぁ」


「なにそれ!」「ひどい!」


そう言っているが、ガスポートはあまり嫌な顔をしていない。

しかしその言葉に不満を持ったイストリアとヒストリアが、席を立ちガスポートに飛びついた。


「ぐおぉ!お、おめぇら…やめろぉ」


見た目を裏切らず、もっさりとした動きで、まとわりつく双子を引き剥がそうとするガスポートだが、新兵3人が目を見張るくらいに素早い動きで双子が躱すものだから、ガスポートはやられ放題であった。


「あはははは」「こっちだよー!」




ひょいひょいと華麗に躱す姿をしばらくなにもしないまま眺めた。





やがて、


「だあああ!おめぇら!捕まえたぞぉ!タダじゃおかねえからなぁ?お?」


「「きゃあああああ!!」」


側から見れば、親戚のおじさんが子供と戯れているようにしか見えないその様子にも、とうとう終わりが来た。


ガスポートは、楽しそうに騒ぐ双子を両手で1人ずつ確保して、襟首をつかんで持ち上げ、そのまま立ち上がった。


「よおぉし、おめぇらには、すこしこぇえ思いをさせてやるから覚悟しろぉ⁉︎」


「「きゃああああああ!!」」


「おいおい、流石に車内で立ち上がるとあぶねえぞ。離してやれって」


そういいながらドラードは立ち上がり、ガスポートから双子を引き離そうとする。


「おお?おめぇ、おれぇの邪魔するんじゃねぇ」


近づいて来るドラードを、ガスポートは近づけさせないように抵抗する。


「うおっ!危ねえぞ、おい、レンホス、こいつらを離すの手伝ってくれ」


ドラードの要求に、レンホスも立ち上がる、それに合わせてダリアも手助けしようと立ち上がった。


「私たちも手伝う?」


リアンがそう聞くと、


「おお、頼む!」


とガスポートと絶賛もみ合い中のドラードが言うので、リアン、ラーク、クレル、シェーロと次々に参加する。


わいわいと騒がしい車内。


そんな中に、



「おっと、少し揺れるぞ」



ふとストルの言葉が響き、



「「「ああああああ!!」」」


「「「わあああああ!!」」」


「「「きゃああああ!!」」」


「「「あははははは!!」」」


全員揺れる車内に立っていることができずに崩れ落ち、多種多様な叫び声が車内に響いたのであった。



―――――あとがき―――――


長ったらしいメンバー紹介もこれで終わり…ではないけれど、ほとんど登場させたので一気に覚えることはもうしばらくは無いんじゃないかな。


前話から大分空いてしまったことを反省しつつ今回はここで終わりまする。


でわ!

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