第83話 狼の餌付け

 ロープをお腹に巻き付け、狩りに出発です。

「ロープをお腹に巻くのは、ちょっと意味が有るんだよ、貧弱だけど防具代り」


「無闇に歩き回っても危険なだけ、辺りを油断無く見回しながら、耳を澄ませ、臭いを嗅ぐ!!」

 狼や熊など野性動物は意外に臭わない、己の臭いを消す術を心得、存在を覚られない努力をしてる。

 だがあの化け物どもは、臭い、私も臭いに気をつけよう。

「寒くても、水場を見付けて、水浴びしないと···自分で臭いの解るって、どんだけぇ!」


「匂う!緑小人の臭いじゃ無い、豚頭?とも違う様な?」

 銃を構え、足音を忍ばせ臭いに向かう。

(ウサギ?···違う!角が生えてる)

 躊躇無く引きがねを静に引きます。

 ドゥン!キュンキュンキュン!

 発射音が響いて行きます。


 仕留めた角ウサギを抱え、走り去り最近居住してる巨木を目指します。


 石を何度も叩き割り、やっとナイフっぽい物が出来上がった。

「完全なドロ縄だね、獲物を前に包丁造り」

 お肉を手にいれた喜びで、雑多な作業も楽しく出来ます。


 大きめの石の上に角ウサギを置き、首の回りを切って行きます、首の骨は手斧で断ちます。


「この角回収、取って置いた方が良いかな、槍の先とかに使えそう」

 手斧で角ウサギの、頭蓋骨を割り角を根本から回収します。


 楽しく作業に夢中で、獣の唸りで初めて存在に気付きます。


「そんなに唸るな!腹が減ってるのか?···喰うか?」

 狼から、目を離さず角ウサギの頭を放ってやります。

「あれっ?持って行かず、目の前で喰うのか?」


 狼から、目を離さずウサギの腹をさばきます。

 ガリガリボリボリ、あっと言う間に頭を食い終わり、狼がこっちを見てる。

 取り出した内臓を、まとめて放ってやります。


「お前結構美食家だな!」

 狼は、心臓、肺、肝臓は喰っても、小腸大腸は食い残してる。

「後は私の食い物、足らんかも知れんが、どっかに行ってくれんか?お前と戦う気がせん」


 私が声を掛けると、餌が貰えるとでも勘違いしたか、お座りしてハッハと、期待の目で見詰めてくる。


「落語『寄り合い酒』の気分だね、大きな鯛が段々無くなって来る」


 両前足肩から切り取り、両後ろ足を股ごと切り取り、胴の部分丸ごと放ってやる。


「おっ!尻尾フリフリ?納得したか?加えて家に帰りな!」

 私の声掛けに、こちらを見てまた食べ始めました。


「お前、もう私と戦う気は無いな?」

 返事は当然無いが、隙を伺ってる感じは無くなってる。


 枯れ木を集め焚き火です。

 部分的に置き火状態(炭火)になった所に、一口サイズの串差し肉を、離して5本差して置く。


「朝腹一杯にして置いて良かった、匂いがたまらん!!」

 気付くと、隣に狼がお座りして、こっちを見上げて尻尾フリフリ。

「お前!焼き肉も喰う気か?」

「フゥ」フリフリ。

「私と同じ位の体形、どんだけ喰う気だ?」


 狼も、予め腹に詰め込んでるので、余裕か?大人しく待ってる。

 何度か、くるくる回して炙った肉は、殺人的に旨そうな匂いを振り撒いてる。


 一本取って、かぶり付く。

「旨ぁ~い!!」狼は、私の大声にビクッとして、見上げて来る。

「しょうが無い奴!一本喰え!!」

 焼けた肉を、くれてやる。

「クワァ!」

「熱いから、気を付けて喰え!」

 私が、ふぅふぅ肉を吹いて見せると、「ブフォ、ブホォ」吹いて食い出した。

「お前以外に頭良いな!」

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