第9話

「貴由も一緒にお風呂一緒に入ろ?」

「あ、はい………………って、え??」


 莉愛さんの手首の捻挫が治った翌日の放課後。


 鼻血大量噴出で良く死ななかったなーってくらい、濃密過ぎる『お世話』をさせて貰ったこの1週間。込み上げる欲望や妄想の奔流に、なんとか耐えきった俺に、さらなる試練がやってきた。

「な……なんで?」

「??……や、貴由もびしょ濡れでしょ?風邪引くよ?」

「あ……いや、まあ…確かにビショビショですけど……え!?」

 この日、学校の帰り道で突然の大雨に見舞われた俺と莉愛さんは、とりあえず学校から近い彼女のマンションまで全速力で走った。しかし、雨の勢いが強かったせいで、たどり着いた時にはすでに、制服はおろか下着に至るまでぐっしょり濡れてしまっていたのだ。

 まあ、莉愛さんには俺の制服の上着を頭から被せ、なるべく身体の影に庇いながら走ったから、彼女に関する被害はかなり抑えられたと思うのだけど。


 その分、俺はバケツで水を被ったような状態になった、という訳だ。


 俺としてはコレで風邪を引いても、むしろ名誉の負傷と思うだけで後悔はない。

「じゃあ、俺はここで…」

「寄っていきなよ、貴由」

 もうここまで濡れてしまってたら、あとは歩いて帰っても同じ事だ。莉愛さんは無事に送り届けたことだし、俺はこのまま家まで走るか──と半ば投げやりに考えつつ、一旦雨宿りしたマンション玄関前から歩き出そうとしていた俺を、

「雨が小降りになるまで私の部屋へおいで」

「え………い、良いんっすか…」

 莉愛さんの手が制服の裾を掴み、ことりと可愛く小首を傾げて部屋へ誘ってくれたのだ。もちろん俺に『否や』があろうはずがない。なにせ今の莉愛さんは少しだけ雨に濡れて水滴を落とす黒髪や、凹凸のハッキリした身体に湿気で張り付く制服がエロいったらなかったのだ。

 こんなあられもない姿、滅多に見られないんだし、出来たらもうちょっと見ていたい。そんなスケベ満載の下心もあった俺は、ちゃっかり莉愛さんの後について、彼女の部屋へとお邪魔してしまったのだが。


「あ、いえ、俺は莉愛さんの後で…」

「良いからおいで。私が出るの待ってたら風邪引く」

 例の如く制服を俺の目の前で、無造作に脱いでいく莉愛さんに見惚れていたら、この思いもしなかったまさかの展開に!!!!!!!!!

「は……は、はい……」

 一応、断りを入れようとした。だがそれが俺に残された全身全霊かつ全力の自制心だったらしく、さらに追撃で『おいで』と誘われると、もはや断る言葉すらなくした俺は、フラフラと彼女の後に付き従っていたのである。

「お…お邪魔します……」

「ん。どうぞ」

 ふおお!!もう見られないかと思ってた、莉愛さんの全裸が目の前に!!

 何度見ても見飽きない、見飽きることなんてありえない、均整のとれた白く美しい少女の裸体。綺麗で豊かな乳房、くびれた細い腰、へこんだお腹、つるつるで何もない恥丘。そして、穢れない美しい花園を内包する秘裂。

「どうしたの、貴由も早く脱いで」

「えっ………あ、は、はい」

 言われて改めてハッとした。そうだった!!今回は莉愛さんだけじゃない!俺も脱がなきゃならないんだった!!!!やべ!?勃起してたりしねえよな!?と、慌てて股間を確認すると、まだ何とかセーフだった。これもこの1週間の鍛錬の成果かな!?

「ええと…す、すぐ行きますから、莉愛さん、先に入っててください…」

「……??……そう、解った」

 しかし、莉愛さんの見ている前で脱ぐのは恥ずかしかった。例え前世では男同士で、しかも大怪我したナイトーリアを介助する手前、良く一緒に風呂へ入ってたりしていたとしても。

 少女として転生した莉愛さんの、大きくて綺麗な黒い目で、マジマジと身体を見られるかと思うと顔が熱くなった。って、女の莉愛さんが表情も変えず全裸になってんのに、なんで男の俺が裸になるの恥じらってんだよ…。逆だろ、普通!?

「……男は度胸だ!!」

 まあ、女として転生して来ても性格が前世のままだから、莉愛さん相手に少女マンガ的展開は元より期待できないし。だからと言って、好きな女の子と一緒に風呂入るなんて、美味し過ぎるこのチャンスを逃すなんて、今の俺には勿体なさ過ぎてできる訳もなかった。


 なら、覚悟を決めて入るべし。


 妙な気合を入れて俺は濡れた服を全部脱ぎ、莉愛さんの制服と一緒に乾燥機付きの洗濯機へぶち込んで稼働させた。それから一応、軽くタオルで股間を隠しつつ、莉愛さんの待つ浴室へと足を踏み入れる。

「入ります、よ…」

「ん、いーよ。どうぞ」

 勝手知ったる他家の浴室。つか、莉愛さんの部屋に付いてる浴室は、1人暮らしには勿体ないくらい広くて余裕があった。それこそ2人で入っても十分つーか…洗い場もそうだけど、浴槽もかなり広くて大きいんだ、これが。


 ──と、いう訳で。


「ちゃんと肩まで浸かってる?」

「は……はい……」

 雨に濡れて冷え切った身体を、俺はなんと、莉愛さんも一緒の浴槽で温めることとなったのだった。ま…マジなのか、この状況!?

「…………」

「…………」

 広いとは言ってもさすがに2人で入ると、膝同士がくっ付きそうなくらい狭い。

 普段ならたぶん、足を延ばしてゆっくり入れるくらいの大きさだろうけど、今は俺も莉愛さんも互いに膝を折り小さくなって座っていた。おかげで湯の中に浸かる莉愛さんの裸体も、抱え込んだ足でほとんど隠れて見えなかったのだけれど。

「………狭いね」

「すんません…」

 不満そうに眉を顰めて莉愛さんは一言そう零すと、何を考えたのかいきなり立ち上がってしまった。

「…………………………ッッ!!!!!!!!!!!????????」

 すぐ目の前に堂々と晒された、美しい少女の火照った身体。ああ、本当に綺麗だ。莉愛さんは無自覚だろうけど、温まってほんのり染まった裸体は艶めかしく見える。鼻血出そう。ちょっと股間に血が集まってる気がした。ヤバイ。

「足伸ばして。貴由」

「え!!??あ、いやあの」

「早くして」

「は……はいいっっ!?」

 一体何を。もしかして身体洗うのかな?──なんて、ドキドキしつつ、丁度真ん前に見える莉愛さんのアソコを横目でチラチラ盗み見ていたら、見透かしたような黒い目に上から見下ろされつつ命令された。躊躇うことも許されず、かなり強引に。


 まさか、アソコ見てたのバレた!?

 それか、下心察知されたとか??

 うわあ、神様!!!!!!!!!!!!!!

 どうか股間のモノが反応していませんように!!


 必死に神へ祈りつつ俺は、お湯の中で折りたたんでいたいた足を延ばした。必然的に俺の不肖の息子が莉愛さんの視線に晒され、俺は羞恥に顔が熱くなった。

 うう。幸いまだ、ハッキリ解るほど反応してねえけど。

でも、早く隠したい。見つめる視線と、沈黙が辛い。

 これから何が起こるんだ??予想もつかない展開にオロオロし落ち着かずにいたら、

「ん。これなら2人とも足を延ばせるね」

「―――――――――――――――――――――――――――ッッ!!??」

 莉愛さんは再び湯に身体を鎮め、ご機嫌そうな声で同意を求めてきた。

 ぶっちゃけ俺は、返事どころではなかった。

 だって、いや待って。ちょっと待って。

 コレはいくらなんでも拷問過ぎるっしょ!?

「あったかいね、貴由」

「は…………ふぁいッッ!!」

 柔かいし温かいです。このまま抱き締めてしまいたいくらいに。

 言葉に出来ない本音を脳内で何度も繰り返しつつ、俺は、俺の足の間へ入り込んで座り、無防備な背中を預けてきた莉愛さんの柔らかな身体の感触に、心臓がバクバクし鼻の奥が熱くなるのを感じていた。


 めっちゃ密着!!!!!!!!!!

 イイ匂いのする黒髪が目の前!!!!!!!!!!!

 抱きてえ―――――――――――ッッ!!!!!!!!!!!!


 このまま彼女を抱き締めて、エッチなことをしたら怒られるだろうか。

「莉愛さん、温かいからって、こんなとこで寝ちゃ……ああ、もう!」

 なんて妄想を楽しんでる間もなく、現実の俺はこの時ひたすら焦っていた。なんと、莉愛さんは俺に凭れかかったまま、湯船の中で寝息を立て始めてしまったのだ。

「んん~~……ねむ……」

「莉愛さん!!起きて!!!!!」

 よほど温かいお湯が気持ち良かったらしい。力無く凭れかかってくる身体が熱くて柔らかくて欲望をそそられるけど、こんなとこでマジ寝したら、莉愛さんがふやけるしのぼせるし風邪を引いてしまう。

 欲望より心配が勝った俺は、立ち上がって彼女の身体を湯船から引っ張り出した。

「ほらっ、もう出ますよ!?ちょっ…しっかり起きて!!莉愛さん!」

「んん…………」

 洗い場へ運び出しても、莉愛さんは起きる気配もない。

 湯上りの裸体が美味しそう。こんなチャンス2度と来ないかもだけど、でも、まず彼女の健康が第1との優先意識を持ってしまった俺は、すっかり萎えた一物をぶら下げたままオカンよろしく世話を焼くことに専念したのだった。

「莉愛さん、ちょっと腰浮かせて…」

「んん~~」

 半寝惚けの彼女を抱きかかえて浴室から運び出し、裸体をバスタオルで包んで隅々まで拭きあげる。それから『勿体ないなぁ』と内心思いつつも、ゆで卵みたいにつるんとした裸体に、用意してあった下着や寝巻を着けさせてやった。

 これもある意味『触り放題』なのには違いなかったが……ぶっちゃけそれどころの話ではない。いや、ホント、マジで。残念極まりなかったけども!!!!!!!

「もう寝ちゃってイイっすよ…莉愛さん」

「ん……おやすみ……貴由…」

 寝室まで運び込んでベッドに寝かせ、しっかり布団を着せた頃には俺の方が冷え切っていた。なにせ制服や下着は、まだ洗濯中で俺、素っ裸だったし。

「まあ…莉愛さんと一緒のお風呂入れたから…」

 結果的に後日、風邪を引いたとしても、俺に後悔はなかった。なにしろ大好きな彼女と一緒にお風呂なんて、そうそう滅多にあるラッキーチャンスではないからだ。

「これも無自覚な莉愛さんのお陰かな…」

 掌ばかりか全身にハッキリと残る、密着した莉愛さんの柔らかな身体の感触。

 彼女が前世まんまの性格引き継いでくれて良かったなー、なんて、下心満載でほくそ笑みつつ、ようやく渇いたパンツに妄想で反応しかかってる股間を押し込んでいると、

「りあ~~っ、来たぞ~~!!」

「――――――――――――ッ!?」

 玄関からリビングに繋がるガラス戸が軽快にバーン!!と押し開かれ、そこから両手に買い物袋を下げた笑顔の師団長が姿を現した。

「あっ!!」

「えっ!?」

 愛娘の部屋でほぼ素っ裸のまま一物を緩く反応させた俺と、前世からの莉愛モンペをさらに拗らせた師団長ことパパ琢磨さん。


 ─────死んだ。


 真っ白になった頭の中で俺は、ハッキリとそう自分の死を予感した。

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