第8話
「ねえ貴由、今日も身体洗ってよ」
「ハイッ、莉愛さん!!!!」
怪我が治ったらもう拝めなくなる。というか、莉愛さんの手首の捻挫は、1週間も経たずに良くなった。嬉しいけど、ちょっと残念。そんな相反する複雑な気持ちを胸に抱えつつ、完治するまでの短い間、ずっと彼女の身の回りの世話をさせて貰ってきた俺なのだが。
「やっぱ利き手が使えないと不便だね」
「そそ……そうですね!!!!!!!」
その介助生活の中でも極めつけの『お世話』が、彼女の入浴のお手伝いを任されたことだった。つーか、ホント、この人無自覚で困る。あと、介助されるの慣れ過ぎでは!?
まあ、前世の莉愛さんときたら、職務面はともかく私生活面では、かなりズボラで面倒臭がり屋だったから──つーか、そのおかげで彼直属の部下だった俺は、自然とズボラな上司を世話することになっていたのだけれど。
前世の俺は初めの頃『なんで俺が…』と不満たらたらだったが、気が付くといつの間にか、積極的に自ら進んで彼の世話するようになっていた。そして、なんと1年も経つ頃には『ナイトーリアのオカン』とまで言われるレベルになっていたのだ!!(いやこれ、決して自慢じゃねえからな?)
改めて思い出すと我ながら残念な過去生だ。しかし、今世で莉愛さんがここまで俺を信頼し重用してくれてるのは、そんな過去生の実績(?)が功を奏したからなのかも知れない。
ありがとう、前世の俺!!
とはいえ最初に入浴介助を頼まれた時は、さすがの俺も本気で頭が真っ白になった。
「お風呂に入りたいんだけど…右手使えないから手伝ってよ」
「ああ、大変っすよね。解ります…って………………………………え?」
手伝う??って、何を??ああ、そうか。ひょっとして服脱ぐのを手伝うのかな??それなら、まあ有難く手伝わせていただきますけど!!──と俺は『その程度に違いない』と莉愛さんの意図を勝手に推し量り、それだけでも内心大喜びしながら、彼女と共に脱衣所へ入ったのだけれど。
「?…何してんの。早く来て髪と身体洗って?」
「髪と身体って……えっ!?」
上から下まで服と下着をすべて脱がせ、天女みたいな莉愛さんの全裸を拝み、大変満足して脱衣所を出ようとした俺に、莉愛さんはこともなげにそう言って浴室へ来るよう手招きしてきたのだ。
「貴由……なに、ぼうっとしてんの」
「え…と、あの、俺が…莉愛さんの髪と身体洗うんっすか?」
「??……そう言ったでしょ」
「え…??そうでしたっけ…?」
「ん。手伝ってって言ったよ」
「いや、そうなんすけど…え?」
おかげで頭が真っ白になった俺は『今何を言われてるかサッパリ理解できん!!』状態に陥ってしまっていた。莉愛さんの声は聞こえてるし、言われてることも理解できるのに、言葉の意味がきちんと頭に入ってこなかったのだ。
それだけ莉愛さんの大胆な頼みごとが、俺の脳に衝撃を与えたということなんだろうけど。
「いやなら良いよ」
「やります!!やらせてください!!」
しつこく応答を繰り返したせいで、莉愛さんは俺が面倒がってると勘違いしたらしい。ちょっとムッとした顔で浴室のガラス戸を閉めようとしたので、俺は慌ててガラス戸を片手で押さえ、ほとんど無意識のまま手早く腕まくり、足まくりをして準備してしまっていた。
『俺が莉愛さんの髪と身体をこの手で!!!!うおおおおおおおおおおおおお!!!』
そこまでしてやっと切れていた脳内シナプスが繋がったのか、俺は彼女の言葉の意味と意図をようやく完全に理解できた。そうして次の瞬間、この奇跡に等しい出来事に俺は狂喜乱舞し、声もなく心で雄たけびを上げていたのだった。
その後のことは……色々と察して欲しい。
俺の一生のお宝みたいな時間だったが、地獄の責め苦でもあったことは明記しておく。
つーか、ううっ、今思い出しても、鼻から全身の血が吹き出してしまいそう!!!!
そして、それからの1週間は夢のように過ぎて、莉愛さんの右手の捻挫は無事完治した。
今日のこれが、最後のご奉仕。
喜ばしいこと。喜ばなくてはならないことなのに、やはり少し寂しいし凄く残念だ。
そんな本音は、必死になって覆い隠したけれども。
「次、下を洗いますね。足少し上げてください」
「ん。これでいい?」
今世でも慣れてしまった手つき(笑)で髪の毛を洗い終わると、俺は柔らかなスポンジにボディーソープを染み込ませ、彼女の上半身から順に泡だらけにしていった。
細い腕、華奢な肩、そこだけ場違いなほど豊かな乳房、それからくびれた腰や、なだらかな背中やへこんだお腹まで全部。
『う……っ、莉愛さんの……ッッ』
スポンジで可愛いヘソを軽く泡だらけにすると、滑った泡がつるんとした股間へ伝い流れていった。ううっ、ヤバい!!なんともエッチだ。現実のものとも思えねえ。眼福!!
「……………っ、あ」
「ジッとしてて下さい。暴れるとあぶねえっす」
つま先から徐々に上へと洗っていって、足の付け根まで差し掛かると、さすがに敏感な場所なのか莉愛さんは僅かに身動ぎした。
今の、まさか、感じたのかな?…ひょっとして。
なんて内心は冷静なように見せかけて実は大パニックだったが、俺はこの時、人は歓びもスケベ心もある一定の臨界越えると『仏の領域に入るんだなぁ』と実感していた。
現に俺は夢にまで見た観音様…こと、莉愛さんの尊いアソコを拝謁しながら、鼻血も噴かず淡々としていられたからだ。まあ、たぶん、何もかも終わった後の反動は、これまで通り凄まじいことになるだろうけど。つーか、明日まで生きてられっかなぁ、俺??
何はともあれ……いいか??今、我に返るなよ…俺!?
「終わりましたよ。今、泡を洗い流しますね…」
「う、うん…………」
ほんの少し息が荒くなってる莉愛さんは、白い頬が薄紅に染まって色っぽかった。暴走しかける妄想と欲情。やべえ、さすがに股間が反応しちまってる。俺はそんな自分を見られぬよう、そっと彼女の背後へ回ると、シャワーで泡を洗い流しつつ話し掛けた。
「くすぐったかったすか??」
「うん。ちょっと」
「……それだけ?」
「?………え?」
「…や、なんでもねえっす」
何気ない会話のふりをして彼女の感想を聞く。
そうか。やっぱくすぐったかった『だけ』なのか。でもまあ、そうだよな。別にエッチなことしてた訳じゃなかったし。胸も(スポンジ越しだけど)触ったのにあんまり感じないみたいだから、莉愛さんは性的な行為に、かなり鈍感か不感症なのかも知れない。
「でも…………」
「………ん?」
なんてことを内心で残念に思いつつ、身体の奥を焼く熱を鎮めようとしていたら、莉愛さんはとんでもない一撃で俺の股間にトドメを刺してきた。
「貴由に身体洗って貰うの、なんか解んないけど気持ち良かった」
「―――――――――――――――ッッ!!!!!!!!!!!」
ご褒美でしかない言葉を耳にしつつ、俺がズボンの中で1人達していたことは永遠に秘密だ。
だが、実は、それだけで終わらなかった。
「頼みがあるんだけど」
「はい、なんっすか」
怪我が治って包帯の外れた右手の感覚を確かめつつ、莉愛さんはなんてことない平然とした様子で、『もうお世話できないんだな』とガッカリしていた俺に頼みごとをしてきた。そう、まるで『買い物して来い』とでも言うような気軽さで──
「貴由さえ良かったらさ、これからも手伝ってよ」
「……………はい?」
「着替えとか…お風呂とか」
「はい――――――――――ッッ!!!!!!!」
俺に『否や』があろうはずがねえ。
自分で引くほど早く即答してやったわ。
前世と合わせて33年分の人生で1番、輝いた笑顔を浮かべて!!
「そ、じゃあ、よろしく」
「ふぁい!!!!お任せください!!莉愛さん!!!!!」
ものぐさな所もある莉愛さんにとって、よほど俺の介助が楽で気に入ったのだろう。なんと、俺は怪我が治った後も引き続き、彼女の身の回りのお世話をさせて貰えることになったのだ!!マジか!?
「貴由に世話されるの、楽だし…気持ちイイから」
「こ、光栄っす!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
うっすらと微笑む極上の顔で莉愛さんは言い、俺に最高の褒め言葉と光栄すぎる任務をくれた。嬉しい!!嬉しいけどしかし、どこまで身が持つ自信がねえ!!
好きな女の子の身体を、性欲抜きでお世話するって…なんの人生修行だろうな、これ……?
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