第2話

数年前に抱いていた“わだかまり”。


でも心のどこかで、あれは何かの間違い、私の勘違いだったんだ・・・と思いたかった。しかし、それを確かめる勇気はなかった。


Kさんとの思い出は思い出として、心にしまっておこうと思った。そして、あるきっかけから始めたFacebook。昔のSジム時代の仲間たちと、次々に繋がっていく楽しさ。


「Kさんが絶坊主さんの連絡先を教えてほしいとの事でした。どうでしょう?」


ある日、ジムのOB会があったらしく、かつてのジム仲間のMさんからメールをもらった。


(あー、やっぱり私の勘違いだったんだ!)


Kさんが私とコンタクトをとろうと思ってくれている。それだけで、充分だった。


その瞬間から“わだかまり”は影も形もなくなった。


「モチロン!」


本当に嬉しかった。


翌日、見慣れない番号からの着信。Kさんだと思った。


「絶坊主くん・・・ですか?」


懐かしい声。15分くらい話しただろうか。


「Kさん、少し会えないですか?」


たまたま私はその頃、仕事でKさんと同じ県にいた。しかし、あと数日で私はこの県を離れてしまう。


今しかないと、内向的な私にしては珍しく積極的に誘ってみた。忙しいKさんの都合も考えず、失礼かなと言ってから思った。でも、Kさんは快くOKしてくれた。


もう人生の半分過ぎているかもしれない歳になってつくづく思う。


すべての事は偶然なんかじゃなく、必然なんだと。


だから、あの“わだかまり”も私の人生を少しだけ楽しくするために与えられたものなのかなと。こんな風に神様からのギフトがあるたびに生きる活力が湧いてくる。


若い時にも神様からのギフトはあったのかもしれない。


しかし、“感謝する”という受け皿が若かりし頃にはあまりなかったから、気づかなかったのかもしれない。幸せって自分が踏んづけたり、蹴とばしたりしていた足元に転がっているんだなぁとつくづく思う。


Kさんと会う前日は緊張してあまり眠れなかった。駅で待ち合わせて、久しぶりに会うKさんはこちらが驚くほど穏やかな顔をされていた。当時の雰囲気と変わっていなかった。


Kさんは30数戦も歴戦の強者と戦っているから、もっと凄みのある雰囲気をしているのかと思っていた。しかし、話しているときにふとした瞬間の表情や目は、やはりこちらがひるむ程の凄みを感じた。


所属していた関西のジムの第一線で活躍していたからこそ話せる私の知らない話。そしてKさんは、驚くことに世界的に有名な世界チャンピオンとも戦っていた。日本人で戦ったボクサーは1人いるけれど、それは、その世界チャンピオンが有名になる前。


Kさんと闘った時は、複数階級制覇していたバリバリの頃。最後まで倒れることを拒みレフリーストップで負けた。


しかし、現地のファンからは英雄視されるくらいに素晴らしいファイトだった。後にナンバーというスポーツ雑誌で、そのチャンピオンが特集された時のインタビューでKさんのことはよく覚えていると言っていた。


あれだけ歴戦の強者と対戦しているチャンピオンが覚えているくらいの選手だったということ。私は我がことのように嬉しかった。


ただ在日韓国人ということで、日本ではあまり注目されなかった。私はそれが悔しかった。


それに辰吉選手との秘話など、いちボクシングファンのようにKさんの話を聞いていた。


たまに、異なる意見になり白熱する場面もあったけれど、それも昔さんざん殴りあいをしてわかりあえているからこそ遠慮なく話せた。


3時間があっという間に過ぎた。お互い次の日仕事もあるし、帰ることにした。


Kさんとはそれ以来会ってないけれど、年に数回短い文面でメールのやり取りをしている。


心の根底で繋がっている。そんな感じだ。


帰り際、Kさんが言った。


「絶坊主くん、これは冗談じゃないんだけれど、僕、何年か前、探偵ナイトスクープに手紙だしたんだよ。」


話によると、「〇〇をやっている、元ボクサーの・・・」と、私を探して欲しいとの依頼をしたらしい。


いやもうホントに言葉で表現できないほど嬉しかった。


というかキダタローさんよ~!


ゲップ連続何回できるか?みたいな、しょ~もない依頼うけるんやったら、Kさんの依頼受けろっちゅ~の!


あ、キダタローさんはあの当時、局長とちゃうか。(笑)


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神様からのギフト 絶坊主 @zetubouzu

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