神様からのギフト

絶坊主

第1話

かつて攻撃の激しさから『〇〇の虎』と対戦相手から恐れられたKさんというボクサーがいた。Kさんと私はSジムで階級も同じ、デビュー戦も同じ時期、ファイトスタイルも同じファイタータイプ。



新人王戦も違うブロックで、同階級にエントリーしていた。だから決勝まで残ったら同門対決となる状態。そのせいか、火のでるような打ち合いをして、スパーしていた。



私が憧れていた、カリスマボクサーだったIさん。私はそのIさんが所属しているSジムに入った。



そのIさんが、数十年たった頃、話す機会があった。



「絶坊主とKのスパーを見て、皆・・・・」



あの憧れのIさんが・・・・褒めて頂けるのかと思いきや・・・



「ガードの大切さを教えてもらったよ。」



ズッコケた記憶がある。(笑)

まぁ、それくらいKさんとはバッチバチのスパーをやった拳友だった。



トレーナー同士のほんの遊び心で、トーナメントに勝ち残った方にガウンをプレゼントするという賭けをしていた。結果は私の方が勝ち残りガウンを頂いた。でも、正直、期待されていたのはKさんだった。



“在日韓国人のK判定で破れる”



翌日の新聞記事に、そう載ったくらい期待されていた。



その後、Kさんは仕事の都合で関西に引っ越していった。私はと言えば、デビュー戦を1RKOし、4連勝、順風満帆かと思いきや、3連敗。



そして、負のトンネルをやっと抜け出し3連勝。



次戦で日本ランキングを賭けてのトーナメントにエントリーしていたけれど、試合直前に長年の腰痛から腰椎が疲労骨折し、家業の関係もありそのまま引退してしまった。



私は、これからという時にヤメてしまった自分に納得していなかった。



今になって思うと自分の小ささに恥ずかしくなってしまうんだけど、仲間たちの活躍が羨ましくてボクシング関係の情報を一切遮断した。



数年後、家業の下積みも一段落し、何気に見たボクシング雑誌にKさんの名前があった。



日本バンタム級1位になっていた。おまけにKさんは元世界チャンピオンにも勝っていた。



私はKさんの活躍に触発されて、もう一度リングに上がろうという気持ちが抑えられなくなってしまた。実に7年振りのリング。



試合が決まり、1年後にリングに上がるという時、昔のトレーナーにKさんの携帯番号を教えてもらった。私は久しぶりだし、積もる話もあるだろうし、何かアドバイスなんかもらえたらなという気持ちで電話してみた。



しかし、その一方で、かたや日本ランキング1位の一流ボクサー、かたやA級ボクサーとはいえランキングにも入れなかった無名のボクサー。



劣等感が少なからずあった。



そのせいか「で、今さら何が聞きたいの?」と言ってはないんだけれど、そんなニュアンスのそっけない態度にとれてしまった。



クソっ!



私は電話を切った後に、Kさんの番号が書かれた紙をくしゃくしゃに丸めて捨てた。



悔しさ・・・虚しさ・・悲しさ、なんか、複雑な気持ちだった。もう今後、話す事も会う事も二度とないだろうと思った。



そして数年経ったある日、以前付き人をしていたK社長から封書を頂いた。



“こんなボクサーがおるみたいやで”



封書の中を見ると、新聞の切り抜き記事が入っていた。



Kさんだった。



Sジムの頃と同じ、看護士として頑張っていた。日々、認知症の老人たちの心を癒すべく、一緒に歌を歌ったり、踊ったりと現役の頃の激しいファイトとはうってかわって、穏やかな仕事をしていた。



私は“わだかまり”もあって、そのKさんの新聞記事をくしゃくしゃに丸めて捨て・・・そんな事はできなかった。



いくら“わだかまり”があろうが、仲間が頑張っている事まで、くしゃくしゃにして捨てる事はできなかった。



二度と会う事も話す事もないと思っていたKさん。



しかし、再び繋がる事になるとは、この時、夢にも思っていなかった・・・



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