猫島~九度、君と出逢えたしあわせ~
柴犬丸
アカとシロ
※この作品は安易な繁殖を推奨するものではありません。
猫ちゃんの去勢・避妊・室内飼育を推奨いたします。
あくまで創作物としてお楽しみください。
*******
ここは猫島、数ある猫の楽園の一つ。
「よーう! ひさしぶり!お前ら今日も暇そうだな」
カモメが飛び交う漁師町の港。
ポカポカとした日差しの下、俺は港の埠頭の陰にある猫たちの集会場へと向かう。
俺は猫島出身の猫。
名前は…
「俺はアカ、夏、三毛、ムサシ、巨人、チッチ、ぼたん、キキ、秋丸だ!」
「おやおやアカかい、久しぶりだね! 今生もまた逢えてうれしいよ。しかも今度の名前は秋丸か…、雅な名前でうらやましいぜ」
そう言って昔なじみの猫『沢庵、鈴、タマ、もやし、先生、ござ吉』は笑った。
猫は九つの命を持つというらしいが、この猫島では俺たちはその通り、九回記憶をつないで生まれ変わっている(…おそらくだが)。
まあ確証なんてある訳ねえ、誰も生きたり死んだりするのを正確にカウントしてるわけじゃねえからな。ろくに目も合かねえうちにカラスにさらわれたりしても一回は一回だ。
「こりゃまた、今回はずいぶん美形に生まれたじゃねえか」
「お、やっぱりそう思う?」
俺は調子に乗ってその場でくるりとターンした。
ふわふわとした茶の縞模様に青い瞳、ピンクの鼻と肉球。どこからどう見ても美少年!って感じだ。
「今生の俺はモテモテまっしぐらだと思うわ」
「そりゃあいいねえ。俺は前回みたいな小股の切れあがった色っぽいメス猫を期待してたんだがなあ…」
「はっはっは、前回の俺はふるいつきたくなるくらいの美女だったからな! 残念だったな!」
そうそう、俺は前回の生ではメス猫だった。
俺たちは死んで生まれるたび、見た目も性別もぜーんぶ変わる。
引き継がれるのは記憶だけ。
でもやっぱり一番最初の性別ってのがなんとなく後を引くもんで、俺は男でも女になってもずっとこんな感じ。
仲間内でもフルネームで呼び合うのは長くて面倒なので、大体初代の名前で呼び合っている。だから俺は『アカ』だし、こいつは『沢庵』だ。
沢庵とひとしきり話した後はまた次の猫に向かう。
ここは猫の楽園だから猫はたっくさんいるので、こうして生まれ変わってきてから挨拶するだけでも一苦労。そもそも猫だから急ぐことなんかしないし、のんびり昔話に花を咲かせたりなんかして『どこそこの誰々が近々子供を産むってよ』なんて話を聞けば『次は誰が還ってくるのかな~』と心待ちにしてみたり。
話相手に困ることはない。
もともと目的を持って生きてるわけじゃないしな、腹が満たされりゃあ満足。
餌も十分。なんたってここは猫島、猫の楽園だからな。
でもそうだ、俺とトクベツ仲の良かったあいつはまだ生きているだろうか。
「なあなあ、あいつ…シロ…ええと…『シロ、冬嗣、トラ、コジロウ、ローズ、阪神、サリー、ララ!』…今どこにいる?」
仲間にそう訪ねると【最近は西の広場でよく見かける】と答えが返ってきた。
よかった、まだ生きていた。
前回俺が死ぬときも、あいつに一声掛けてから逝ったんだっけ。まだ生きているなら今のうちにこの姿と名前を教えてやらなくちゃならないな!
***
翌日、俺は西の広場へ向かった。
こちらにもたくさんの猫がのんびりと寝転んでいる。
俺は今日も片っ端から挨拶を交わしながらシロを探した。
お、いたいた。
「シロ、冬嗣、トラ、コジロウ、ローズ、阪神、サリー、ララ! まだ生きてるか!」
「ああ…なんだアカか。久しぶり、また逢えたね。」
そう言って笑うのは灰色の毛足の長いメス猫だ。前回の生で最後に見たときよりもずいぶん老猫になっている。
「良かった、まだ生きてた! 今回も逢えてうれしいぞ!」
「ほんとにね。腐れ縁もなかなかどうして、ここまで来ると驚かないね」
そう言ってシロはのっそりと体を起こし、アカの側へとやって来る。
シロは俺と一番仲の良い猫である。だいたい同じ周期で生まれ変わっているから『同期』って言うのかな? たしか4回目ぐらいの時からお互い気が合うっていうんでつるんでいる。
「ちなみに今回は『秋丸』って名前をもらった」
「へえ、おしゃれな名前だねえ。でも似合ってるよ、えらく可愛らしい容姿だし、これはイケメンに育つね」
手放しで褒められて悪い気はしない。
「ふふん、いつのまにか俺の方が少し年上になったし、お前が次の回でまたメスに生まれたらつがいになってもいいぞ」
「ぬかせ」
そうクツクツと笑いシロと俺たちは連れ立って見晴らしの良い木陰に向かう。勝手知ったる猫島の地理だ、もう9回目の猫生の俺に知らないことはない。
「でもまた今生もこうして逢えて良かったな~」
「そうだね、僕が事切れる前に逢えてよかったよ」
「こればっかりは巡り合わせみたいなものだからな」
「うん」
一度の猫生、寿命はそれぞれ。
あっという間に9回命を使ってしまうものもいれば、長生き長寿を極めて長老を歴任するやつもいる。
「いよいよ九回目だわ」
「そうだね」
自分の猫生をどう使うかは自由。
誰も口出したりはしない。
なんとなくだけど、それが俺たちのルール。
でも、俺にとってはこいつが唯一の例外。
名前だってちゃんと最初から言える。
シロ、冬嗣、トラ、コジロウ、阪神、サリー、ローズ、ララ。
それで俺が…、
アカ、夏、三毛、ムサシ、巨人、チッチ、ぼたん、キキ、秋丸。
気づいた?
俺とこいつ、名前が正反対なんだよね。
『名前が逆だね』って気づいたのはムサシとコジロウの辺りだったかな? その辺りからなんだか面白くなって生まれ変わった時は毎回名前を確認している。
あんまりちゃんと数えてないけれど、もう二、三十年は一緒にいるんじゃないかな?
「そういや、俺たちってオスの時はオス同士、メスの時はメス同士になることが多いなあ…つがったことないもんな」
「そうだったっけ?」
「そうさ」
お互いオス猫の時は、嫁さんの紹介なんかもしたし、メス猫に生まれた時も一緒に子育てをした。
4回生、5回生くらいの頃になるとだいたいの猫が生前のつがいの関係性を持ち出したりして仲をこじらせるのだが(恋の季節にガチ喧嘩をしている勢はだいたいこの世代)、俺たちはそんなトラブルに巻き込まれたり、不仲になったことは一度もない。
「そういや恋の問題で争ったことも無かったね」
恋のケンカは『前の夫と夫と夫と、もと妻と妻と妻だったが今はオスメス逆になってたりなんだったり』…みたいなことでややこしくていけない。
「そうさ、無かったよ。むしろ俺とお前は別の相手でトラブっててよく愚痴を言い合っただろ」
「そういえばそうだわ」
懐かしい。
たしかに若いころは結構ヤンチャもしてた。
「7回生あたりから、執着みたいなものはあんまり無くなっちまうもんな~猫生、何事も『なるようになれ』って感じ」
「そうだね」
そう言って目を細めるシロを眺める。
俺がべらべらとしゃべってシロはそれに相槌を打つ。今は老猫だから受け答えもゆっくりだけれど、俺たちはずっとこんな感じ。
今ならちょうどオスとメスなのになぁ、もったいない。
俺はまだこんなに小さいガキだから。
「でも、さ」
「ん?」
「さっき言ったこと考えておいてくれよ」
「ああ? 何?」
「つがいのこと」
今まで言えなかったことを意を決して伝えた。
【他猫の猫生に口を出すのはご法度】
それが俺たちのルール。
でも最後の猫生だからさ、俺は一番仲のいいお前と添い遂げたいよ。
「次、メスに生まれ変わったらね」
そう言ってシロは笑った。
「やった!」
相手がシロだから断られるとは思っていなかったが安心した。
性別がどちらで生まれてくるかは運だが、確率は二分の1だ。悪くない。
「まあ、別につがわなくたって一緒にいることに変わりはないんだけどね」
「それはそうだけど」
でもなんだかうれしい。
胸の奥がふわふわと温かい。
シロが断らなかったってことがすごくうれしい。
不思議だな、シロとはこんなことぐらいで緊張するような仲じゃないのにな。
「これって『約束』だろ?」
「約束? ああ、お前まだそれこだわっていたのか」
「一度やってみたかったんだ」
猫は縛られてない方が自由だろ、なんて皆は言う。
いやそれはそうなんだけど、俺だって他の猫との『約束』なんかはうっかり忘れちまうかもしれないけど、シロ相手だったらちゃんと覚えていられると思うんだ。
…【タローとユキちゃん】みたいに。
そう、タローは俺たち猫の間でもちょっと有名な【九度ある猫生を全部『約束』に使っている猫】。
「そういや、タローはどうした? まだ生きてる? 今もあの家にいるのかい?」
「いるよ。念願叶って『ユキちゃん』を見送ることができたみたい」
「へえ、そりゃあ良かったな!」
「あいつも気がつけば9回目の猫生だったから、ユキちゃんとどっちが先に逝くかハラハラしたって言っていたよ」
「そりゃあ、違いねえ」
たしか…ユキちゃんももう随分と年を取っていたと思うけれど。
「大往生だって」
「そうか…良かったなあ」
「うん」
タローは『人間のユキちゃん』が子供の頃からずっと飼っていた猫だ。
何度生まれ変わっても必ず『ユキちゃん』の下へと馳せ参じる猫の中でも変わり者で、俺たち猫の中でもちょっとした有名猫。
【置いていかないで、私が死ぬまでずっと側にいて】
1回目のタローが死ぬときにユキちゃんはそう言ってひどく悲しんだという。
タローが生まれ変わって新しい姿でユキちゃんの下に戻ると、ユキちゃんはタローの生まれ変わりだと信じて疑わず喜んで迎え入れた。
そんなことを何度も繰り返して八回。
ユキちゃんはタローを亡くすたびに酷く悲しみ、そしてまた現れる子猫をオスでもメスでもかまわず大事にした。
だからあいつの名前はずっと『タロー』なんだ。
【俺が死ぬたびに何度も悲しませて悪いなあ、って思うんだけど、それでもやっぱり一緒にいたいんだ。この気持ちを直接伝えられないのがもどかしい】
タローはいつもそう言っていたっけ。
猫の寿命と人の寿命。
タローは猫生のすべてを丁寧に長生きし、人間のユキちゃんの人生に最期まで連れ添ったらしい。
「良かったな」
「うん」
「なかなかできることじゃないよなあ…」
「ほんとうにそう思うよ」
基本的に俺たちは忘れっぽい。
昨日したケンカもすぐに忘れるくらいだ。
「ああいうのを純愛っていうんだろうね」
タローとユキちゃんのことは2回目の生の頃から見守っていた。
死んで生まれ変わって、偶然や何となくではなく、明確に自分の意思で猫生を生きる。
それはそれでちょっとカッコいい。
俺たちは、少しだけその『約束』という絆に憧れていた。
「だからさ、『約束』な」
「わかったよ。僕もお前との『約束』なら守れそうな気がする」
そう言って互いに笑う。
なんたって腐れ縁があるからな。
しばらくして俺はシロの八回目を見送った。
***
それから数年経っても、シロは還ってこなかった。
九回目の猫生…だったはずなのに。
還ってこない、というならばシロだけじゃない。
猫島自体、子猫があまり生まれなくなったのだ。
島民より猫の方が多くなったとか、そんな話を聞いたのはいつだっけ。
気がつけば仲間にも俺の耳にも小さなカット痕があり、皆子供を作らなくなった。
「最近、還ってくるやついなくなったなあ…」
「そうだな、俺たちもだんだんと高齢化してきたよな」
今日は雨。
俺は島の休憩所で雨宿りをしながら仲間たちとのんびりそんな会話をする。
猫の数が減ったと言ったが、まだまだ多い。人気の段ボールの寝床なんか今日も満員御礼だ。
暮らしの質が良いので俺たちは基本的に長生きになった。
新顔はあまり見なくなったが、別段生活に困ることもない。猫島の暮らしは変わらず平和なままだ。
メス猫を争ってケンカをする事もなくなったし、縄張り意識もあんまりなくなった。ケンカをしないので怪我もない。病気もない。日がなのんびり、こうして寝そべっては仲間とおしゃべりをする。
それに『暇で暇ですることがない!』って訳でもない。
最近はいんたーねっとというものが流行っていて、どうやら俺たちは人気らしい。
俺たちを見に来る為の人間の観光客が来たりしてなかなか面白い。
俺も何度か写真のモデルをしてやったことがあるんだぞ。
なにせ俺はイケメンの美猫だからな。
寝そべって転がったり、あくびをしたりしても喜ばれる。
さすが俺! 人間にもモテモテだぜ!!
たまにそんな人間に誘われて島の外へ出るやつもいるが、そのまま戻ってこないのできっと島の外で快適に暮らしているんだろう。
飼い猫おめでとう! 旨いもの食えよ!
俺にも何件か飼い主に立候補してくる人間がいたが、全て断っている。
だってシロが戻ってきた時、俺が島にいないと困るだろう?
猫島の猫の数がだんだんと減っていく。
子猫が新しく生まれないので全体数が増えない。まあ、たまにひょっこり生まれてくるやつもいるのでゼロではないのだが。
記憶を持って生まれてくる順番なんかももうよく分からなくなった。
猫島以外に生まれたやつもいるし、知らないやつもいる。
以前だったらだいたい数カ月から1年くらいで還ってきたし、猫島生まれのやつはだいたい猫島に生まれた。
たくさん生まれてたくさん死んで、いっぺんに還ってきていたからみんな気にならなかったんだよな。
人間も犬も数を減らしてるって聞くし、こういうのは時代の流れなのかなぁ…なんて思ったりもする。
港の埠頭に座って海を眺める。
寒いのは好きではないが、冷たい風がヒゲの先を揺らすのはちょっと好きだ。天気の良い日は海の向こうに浮かぶ島んなんかがよく見えるんだ。
シロ、シロよ、お前を待って何年になるだろう。
そもそもあいつが本当に8回目の生を終えたのかどうかだって確かじゃなかった。実は9回目の猫生はこの間のやつで、もう記憶を引き継がない違う猫生を送っているのかもしれない。
ため息をひとつ。
それとも海の向こうで九回目の猫生を送っているのかな。
海の向こうにいるのなら、いいな。
海を眺めると頭の後ろっ側が引っ張られるような気がする。
九回目もお前と一緒にいられると思っていたからさ、
正直寂しいよ。
俺たちは初めて『約束』っていうものを交わした訳だけれど、『約束を守る』っていうのはなかなか難しいものなんだなあ。
そう思うと八回もちゃんと約束を守ったタローとユキちゃんは凄いな。
二人ともうんと頑張ったんだろうな。
俺はちょっとだけくじけそうだよ。
もうつがいになんてならなくていいからさ、シロお前に逢いたいよ。
***
今日も島へ観光客が船でやってくる。
観光客は好きだ。
みんな猫に優しいし、この島の外の情報を教えてくれる。
ぽかぽかと温かい日差しが気持ちよかったので、今日は観光客の相手をしてやろう。
港の脇の広場で待機した。俺は少々年を食ったがまだまだ美猫だ、人気はあるんだぞ。
「アカ!」
おっと、久々に若い猫から名前を呼ばれた。
誰だろう。
最近あんまり若い猫に知り合いはいないんだが…。
船の方から桟橋を駆けてくる若い猫が一匹。
「アカ! 久しぶりだ!! 僕だよ! シロだ!!」
「シロ? シロか!?」
突然、シロと名乗る猫が目の前に現れた。
幻じゃないだろうか。
「よかった!! アカ! アカ、夏、三毛、ムサシ、巨人、チッチ、ぼたん、キキ、秋丸だろ! まだ生きてたんだな!! 逢えて本当によかった!!」
俺の名前を正確に呼ぶ。
驚いた。本当にシロだ。
俺のただでさえでっかい目がこれ以上ないってくらいまん丸になる。
「シロ…」
「そうだ、シロだよ!」
もう逢えないかもしれないと思っていたシロだ。
首輪をしていて、ヒゲもぴんとしていて、しっぽの先までつやつやのピカピカだ。
シロは…なんだっけシャム? 顔の真ん中がグレーの洒落た洋猫になってぴょんぴょんと跳ねるように俺の前までやって来た。
「お前こそ…生きてたのか!」
心配、したじゃないか。
胸の真ん中がぎゅうと捻じれる。
「そうだよ! 僕は九回目はこの島じゃなくて海の向こうの家猫に生まれてさ、ここまで来るのは大変だったよ!」
駆けてきたシロと鼻を突き合わせる。
ああ、シロだ、間違いない。
「……」
なんだか俺は感極まって何にも言葉が出てこない。
逢って話したいことはたくさんあったはずなのに。
「遅くなって、悪かった」
「うん、うん…」
もう逢えないかと思った。
なるべく気にしないようにしていたが、俺は随分年を取っていたんだ。
正直この冬もだめかと思うこともあった。
「ほかの皆も海の向こうで生まれているよ」
「そうか」
そうだったのか。
俺はこの島の事しかしらないから、仲間たちはもうこの世にはいないのかとも思っていたよ。
俺たちは観光客の来ない小さな猫だけのスペースに移動した。
シロも話したいことがたくさんあったのだろう。家猫として生まれたこと、動物病院で島出身の猫に会ったこと、家を抜け出したこと、ここに来るまでの経緯や交通手段、苦労話を矢継ぎ早に話す。
俺はシロが聞かせてくれる話を、丁寧に噛みしめるようにして聞いた。
「大冒険じゃないか」
初めて聞く世界は全てがキラキラしていた。
どちらかというとおっとりとした性格のこいつがこんなに行動力が合ったことに九回目にして初めて知ったかもしれない。
「悪いな…せっかくいい暮らしをしてたのに」
話を聞く限りシロはけっこういい暮らしをしていたに違いない。
猫島もいい所ではあるが、夏は暑いし冬は寒い。どちらの生活がいいかなんて比べるべくもないだろう。
「いいんだよ『約束』だったろ?」
「うん、逢えてうれしい」
「それに飼い主の元にはちゃんと戻るよ、お前を看取ったら家に帰ろうと思ってる」
「そうか…」
…なら、いいか。
シロの飼い主はきっと『ユキちゃん』みたいにシロのことを探しているかもしれないが、俺にとってはシロの出奔はありがたい。
ぱっと見ても分からないけれど、シロの首にはまいくろちっぷという迷子札(?)の様なものも入っているから、いざという時も大丈夫なのだとか。
「あとさ…残念だけど」
神妙な顔をしてシロが切り出した。
「今生僕もオスだったよ」
「…気付いてた。それに俺よりイケメンになってるじゃねえか」
そう言って二匹で笑った。
久しぶりに腹から笑った。
性別なんてどうでもいい。
お前に逢えたことが一番、一番うれしい!
俺たちの再会を島の仲間達が次々にやって来ては祝福した。
『アカのやつ、ずっと待っていたんだぜ』『こと切れる前に逢えてよかったなー』なんて。 みんな口には出さなかったけど、気にかけてくれていたんだなあ…。
シロは一躍島のヒーローになった。
だってお前、島の外から船に乗って帰って来るなんて普通の猫にはできないぞ。
来る日も来る日もシロの話を聞きに仲間が入れ替わり立ち代わりやってくるぐらいだ。
「そういえば忘れてた」
「ん?」
「僕の今生の名前なんだけど…当ててみてよ」
そう言ってシロは意味ありげに笑って謎かけをした。
名前…?
ええと…シロの名前か…、俺の名前が秋丸だから…。
「…春?」
「そう、春!」
「シロ、冬嗣、トラ、コジロウ、ローズ、阪神、サリー、ララ、春!!」
「そう!」
そうか、春か。
「この名前をもらった時、やっぱり、僕はお前と縁があるなって確信したよ! 絶対、この事をお前に伝えなくちゃ!ってさ」
頑張って島に戻って来たのも俺たちのこの縁が切れないほどに強いと確信していたからだとシロは笑った。
本当にその通りだ。
今や、春。
季節のことなんて考えたこともなかったが、お前が還って来てからずっと世界が輝いている。
耳の先からしっぽの先までが暖かい。風も甘いし地面もふかふか、なるほど春だ。
九回目の猫生。
たくさん待って、寂しくて切なくて。でも、
「お前を待つっていう猫生もなかなか悪くなかった」
九回目の猫生。
たくさん考えて、怖くて勇気を出して。でも、
「お前に逢いに行くっていう猫生は最高に刺激的だった」
【九度目の君と出逢えた幸せ】を俺たちは今、全身で感じている。
終
***
※すべての猫好きの皆様へ
冒頭にも書きましたが、
この作品は安易な繁殖を推奨するものではありません。
猫ちゃんの去勢・避妊・室内飼育を推奨いたします。
あくまでも創作物としてお楽しみください。
猫島~九度、君と出逢えたしあわせ~ 柴犬丸 @sibairo
★で称える
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