第2話 原案「シヴァールの冒険」

 俺はあの日の次の日、怒りと苛立ちで「シヴァールの冒険」と言う物語を書き始めたのだ。陽気な少年が女の子を連れて遊びながら冒険をする話だった。

 俺はこの手の明るい青年は書かないものだが、意外とすらすらと書けバカにしたものでもないなと当時は思っていた。

 しかし、俺が自信をもって「シヴァールの冒険」を姉に見せると姉はこういった。

「シヴァールが中心でチヤホヤされてるだけじゃない。そんなにモテたいの?」

「モテたいわ!!」

 つい、本音のようなものが漏れてしまった。

 俺のコンプレックスをいともたやすく触れてくる、おぞましいくらい明るい冷徹さを持つ姉に俺は憤りを覚えざる負えない。

 俺はそれから、毎日のように女の子を増やしては冒険に出るシヴァールのモテっぷりを披露するという話を毎日のように書いた。

 彼は女の子を口説いては、次の町に行っては更にチヤホヤされる。陽気で光の様に輝く14歳にも満たない少年は、他の種族の女の子。妖精、精霊、はてには女神まで彼をチヤホヤしてくれる作品だった。

 今思えば若気が至りすぎて、少し恥ずかしい作品だと俺は思う。


 姉は毎日のように俺の作品を批評し、女の子に対していちゃもんをつけることが多かった。

「結局、この子も冒険に連れて行かないんでしょ?」

「それはそうだろう。シヴァールは女子供を冒険の旅に連れて行くような奴じゃない。これは何だかんだで世界を救いに行く話だぞ?純朴な少年としては危ない旅には連れていけん」

 姉はあっけらかんと言いながら、少し眉をひそめて行った。

「旅の仲間がいないなんて、寂しいものね」

「勇者なんて孤独なものだ。だれが理解してやれるという?俺でさえ理解できん」


 姉は何時もの大きな自分用のソファに寝転がりながら、足をぶらぶらさせて言った。ついでに俺は床に座り小さなテーブルに向かい合って姉を背にして書くのが常だ。

「旅の仲間がいない勇者シヴァールに大きな決断ができるのかしら?」

 俺はその時、その言葉の鋭さが分かっていなかったが、作品の結末が決まったのはこの瞬間だったと思う。少なくとも、ちゃらんぽらんとしていた勇者シヴァールに同性の友達も、遊んでくれる女の子も最後までついてきてくれることはなかった。

 シヴァ―ルの話は短く、女の子と出会って次の町へ行く頃には別れている。

 原稿用紙2、3枚分で済む、筆を執る練習にはもってこいの題材であった。


 それから、幾日か経ち。

 シヴァールは水晶の山を越え、竜が住むという谷を越え、何千年と生きる賢者が住むと言われる丘を登り、最後の難関である雪山を超えて、ずっと新緑が支配する月の湖に達する前の時になった頃。

 俺はそのころになると、姉にこの物語を聞かせるのが日課になっていた。

 冒険章を書くのも板につき、女の子のネタにも尽きなくなってきた。シヴァールは見境が無いと言えばそれまでだが、吸血鬼、幽霊、果てはゾンビの女の子まで口説いては次の町まで連れてって遊んで別れて行った。

 姉は意外と穢れを持つ女の子に関して寛容で、倒すのではなく救ってあげる方が好きなのに気づいたのはこの頃であった。

「へぇ、貴方にも書けるのね」

 そう、認めて来たな。と姉が俺の作品に納得しはじめ、俺の筆ものってきた。


 しかし、この頃の姉には秘密があったのを知らなかった。

 だが俺は、最後の魔王を打ち倒すにはどうすればいいか頭をひねっているばかりが頭を支配していた。

 実はシヴァールは修行をしないのだ。遊びと天才の両方を備え持った彼には、あまり難関というものを作ってやらなかった。

 失敗したな……と思い、姉に打ち切りの話でも持ち掛けようかと、苦しんでいた矢先の事。


 姉が病気であることを知ったのは、金が尽きそうであることを負担に思う母からの仕送りの手紙が一緒に同封された時と同時であった。

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