俺の名はドクドック

春野 一輝

第1話 最高で最悪の姉

「作家は孤独だ 

 手放しでほめてくれる奴もいなければ

 共感して作ってくれる奴もいない

 大事にしているのは自身だけで

 作品を守ってやれるのも俺だけだ 


 ドクドック 毒殺のダガーより」


「崇高なる。崇高なる。毒殺のダガー」

推敲を重ねた文章をドクドックは手に取り、最初の文章を読み上げた。

俺は読み上げて何とも言えない気持ちになる。やはり、俺の作品は最高だ。

作品の名は「毒殺のダガー」俺が手に塩をかけて書いている作品だ。


そして、俺の名はドクドック。

毎日のように、机にへばりついて原稿に向き合ってるグラスランナーである。

未だ作品は発表しておらず、作家崩れというか、作家ですらないのだが。


「ま~た、根暗な文章書いてんの!」

そう明かる気に俺の気分を害しに来た奴は、俺の姉と言うやつで。

折角な推敲なる時間を費やし、書いた文をめちゃくちゃに批評してくる。

まさに最低な奴だ。

「ええい、五月蠅い。俺は今推敲中だ」

俺は原稿用紙にひたすら今日6時間もかけて書いた文章を見直している最中だった。

「あ!誤字み~っけ、崇高が推敲になってるぞ!」

「グぬ、ぐぬぬ!!」

俺は消しゴムで指摘された点を、ガシガシと文を書き直す。


イライラする。

何故、俺の文章の良さが分からない?

毎回のように揚げ足取りをしてくる連中(と言っても読者は姉だけだが)は何だ?

俺は消しゴムをかけて、俺の作品を手直しする。

もう、毒殺のダガーは書き始めて3年は経つ作品だ。

なかなか完成しない事から、姉から毎回チャチャを入れられて腹が立っている。

俺も完成させない自身に腹が立っているところではあるが。


「いい作品だ」

俺は40枚にわたる原稿用紙を手にして遠くから眺めた。

「ああ、なんて良いプロットだろう。この世界に不満を持つ少年が、ひたすら世界に腹を立てている。彼には妹しかなく、妹にも俺しかいない」

後ろの方であくびが聞こえた。

「バカみたい」

俺は瞬間的に心臓に、毒殺のダガーを心に受けた気がした。

いや、気がしたんじゃない。姉は完全に俺の作品をバカにしている。

「何が不満なんだ!俺の作品の!?」

俺は振り返り、猫の様にソファの上で俺の作品を眺める姉に立って抗議した。

姉は身長が2倍はあり、グラスランナーの中でも背が高い。

俺は逆にグラスランナーの中でも背が小さい方だ。

俺が立つと逆に寝て横になっている姉にでさえ、威圧されているようにも感じる。

「ああ、推敲なる推敲なる毒殺のダガー!完成は何処に?」

姉は感動的に歌い上げる。そして、姉はオペラの歌手の様に歌が上手い。

それはもう、バカにされて我慢ならない位には。

「上手いのが余計に腹立つのだ!」

ドクドックは、原稿を床に叩きつけた。そして自身がやったことを省みて、原稿用紙を大事に拾い集めた。

「くそ、姉め。一体どこがバカに出来るというのだ!俺の作品の!」

「そうよ。だってあなた完成させたことないじゃない。どんなに下手でも完成させて出した人間の方が一歩進んでいるものよ」


「グウウヴヴヴヴォヴォオヴォッヴォオーーーー!!」


クリティカルヒットだ!

2d6で言うなら六ゾロを出して精神攻撃をされたともいう。k30@10はあるな。

俺は我慢ならずに、頭をかきむしり机にガンガンとぶつけた。

「第一、理想の女の子がダメな男を救う話の何がいいの?」

俺は鼻で姉を笑った。

「フン、おじゃま虫の姉め。ならばもう一度、俺の毒殺のダガーを聞かせてやろう」

姉は、はぁ~とわざとらし気にため息を漏らした。

「聞き飽きたわ”これが俺を漏らす特設のタンカ”だっけ?覚えてるわよ」

俺は手を振り上げて姉に殴り掛かった。ボカボカしても、姉は揺るがない。

「ち、ち、ち、ちがあう!」

姉はぴょんぴょんと跳ねて逃げ回る。俺はそれを追う。

「馬鹿な弟ちゃん。都合の良い妹ばかり書いて、貴方に女の子が書けるの?」

「書けるわあ!みていろ、このクソ姉貴があああ!」

ソファの周りを、姉と弟がぐるぐると回る。俺はブチ切れていた。

まさかこの発言後、俺の最初に出したシヴァールの原案に繋がるとは思わなかった。

そう、俺はこの次の日、怒りと苛立ちで「シヴァールの冒険」と言う物語を書き始めたのだ。陽気で女の子を連れて遊びながら冒険をする話だった。

そしてこの会話が何だかんだで、これが俺の日常だった。



この後、あのことが起こらなかったら……と思い返すとそれはそれで怖い。

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