第67話 門弟魚屋北渓―其ノ肆
「と、とんでもございやせん。お師匠さんの中では、絵を描くこと以外、すべて瑣末な俗事でございやしょう。
「おうよ。オメエの言うとおり、オイラは気随
――やれやれ、話が牛の
お栄は北斎の長口舌を終わらせようと、貰い物の羽二重団子をそっと父親の前に置いた。
北斎がそれを口に入れるや、お栄は五合徳利の酒を北渓の猪口に注ぎ入れた。北渓はようやく喉を潤せたのである。
口をもぐもぐ動かしながら、北斎がお栄に言う。
「芋坂団子となると、オメエ、
「うんにゃ、山谷堀のお富司さんからの頂き物さね」
お栄の口に「実は馬琴さんのお弔いに行ってきたんだよ」という言葉が出かかったが、それを喉の奥に引っ込めた。
「余計なことをしやがる」
などと、北渓の前で悪態をつかれては面倒だ。
羽二重団子を平らげて、再び北斎
「人の一生は、長いだけが能じゃァねえが、長生きしなけりゃ見えてこねえ
そこまで語ったとき、北斎は急に炬燵へといざり寄り、綿のはみ出した破れ布団を肩から引っかぶって赤茶けた畳にガバッとうつ伏した。
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