第49話 待乳山追憶―其ノ参
思ったとおり、蚊とんぼは善次郎こと
お栄と目を合わせた英泉は、色の白い細面のお役者顔をほころばせ、人なつっこい笑みを見せた。
広く
しかも、近頃は金回りがいいのか、
風の便りによれば、英泉はここ数年、なかなかの売れっ子らしい。『里見八犬伝』の挿絵を任されるほどで、方々の
風来坊の英泉と最後に顔を合わせたのは、いつのことであったか――と、お栄は考えた。
あれは、たしか浅草
英泉は、どこで引っ越し先を聞いたものやら、
あのとき、あいつは彩管を走らせながら、ぶつぶつと愚痴をこぼした。
――おやっ、善の字にしては珍しいねえ
と、思いながら、わたいは筆を持つ手をつい止めて、聞いてやったのさ。
風まかせのお馬鹿野郎が言う。
「実はつい最前まで、
忘八とは、人の守るべき仁・義・礼・智・信・忠・孝・
英泉はその忘八を根津権現の門前町でやっていたというのだ。
「へへっ、ワ印で稼いだ金をありったけつぎ込んだ結果がこれでさあ。おまけに見世を任せていた
親父どのは、英泉のぼやきなんかにはまったく興味がないといった風情で筆を使っていたが、わたいは無性に気が立って、つい
「ふんっ、万事、身から出た
声を
後で考えれば、英泉から
思わず長屋の外へ飛び出したものの、路地でふと我に返ったら、掌に絵筆が一本。
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