第39話 夜鷹図の女―其ノ壱
北斎は行く手に目を凝らした。
月明かりの下で、五、六人の女が
もし、それ以外、つまり会所以外の
しかしながら、いま夜鷹たちに取り囲まれているのは、同業の女ではなく、男であった。女たちに
――なんだ、なんでい。
北斎が女たちのほうへ歩を進めると、町人風の小男が夜鷹たちに取り囲まれ、平謝りしている様子が垣間見える。
「もうしねェから、許しておくれよ。頼む。なっ、このとおり」
男が土下座して、しきりに詫びを入れるが、女たちは
「そりゃあ、こちとら夜鷹は売り物、買い物さね。でも、見世物じゃねェんだ」
「そうだ、そうだ。女郎の仕事を覘き見するなんて、気味の悪い助平野郎だよ」
「ふんっ、たかが二十四文の安女郎と見くびるでないよ」
一陣の風が吹いて、柳の枝がざわざわと揺れた。
北斎が女たちの群れにさらに歩み寄ると、目の前の小さな稲荷堂から月の光に照らされて、すっと出てきた人影がある。
その細身の影に向かって、一人の太り
「お辰姐さん。この始末、どうつけたらよござんすか」
姐さんと呼ばれた女は、意外にも若い女だった。
夜鷹会所の
お辰という束ねの女が仲間の前で口を開いた。
「そうさね……。可哀そうだが、見せしめのために、ちょいとお
「では、髪切りの仕置きということで……」
お辰がうなずくや、猪首女は左の手で
男が両の手で頭を抱え込み、再び「ヒエーッ」と哀れな声をあげた。
そのとき――。
女たちのうしろから北斎が声をかけた。
「姐さん方、余計なお世話を焼くようだが、そりゃァ、ちとやり過ぎですぜ」
一斉に振り向いた女たちに、北斎が言い添える。
「殴る蹴るならまだしも、髪切りだけは勘弁してやっておくんなさい。
次の瞬間。
「くそったれ。余計な邪魔立てするんじゃないよ」
猪首女が目を吊りあげて喚き、北斎に向かって剃刀を一閃させた。
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