第25話 過去への猪牙舟―其ノ伍
猪牙舟が吾妻橋をくぐり抜けると、
寺の境内をこんもりと覆う樹々の
――なんだか
よ。
お栄の胸に不吉な予感が湧き起こり、
――馬琴さん、頼むから
お栄の脳裡に、昨夜、北斎が描いた「狐狸図」が思い浮かんだ。
現世への未練を残して死んだ馬琴の霊魂が、妖狐の
「オン・キリ・ギャク・ウン・ソワカ……」
思わずお栄が
お栄はふとわれに返り、眉をきゅっと持ちあげて、死人の影を振り払うように
それを目にした船頭が、櫓を漕ぐ手を心もちゆるめて
「お客さん、
そこから、ひと呼吸置いて、張りのある若い声がつづいた。
「
「へえーっ。お
「やっぱり左様で。実はあっしも京伝店の朱ェのを腰に
そう語った船頭は、急にしんみりと黙り込み、櫓を握る手にグイッと力をこめた。
京伝店とは、戯作者の
中でも朱羅宇の煙管は「
調子にのった京伝は、
馬琴は蔦屋重三郎の手代となる前に、この京伝の家で門人として居候していたことがある。
京伝は質屋の
その三年後、黄表紙『
しかし、その京伝も疾うにこの世を去った。
若い頃、お栄にちょっとした
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