第22話 過去への猪牙舟―其ノ弐
なんでもその昔、
舳先の
夏には涼み客でにぎわう大川も、さすがにこの季節になると船影は少ない。時折、米俵などを積んだ高瀬船や
船頭の
お栄は
いつもなら猪牙舟の疾走に心をはずませるお栄だが、野辺送りがあった今日ぱかりは
「このところ、めっきり冷えこんできやしたねえ」
若い船頭が櫓を
「そうだねえ」
と、短く
やがて大きな
そして、その屋敷の裏手には
――われながら、あのお父っつぁんとよくぞここまで来たもんだ。死んだおっ母さんの苦労が骨身に
母親のお
思えば、この大川
どの界隈でも引っ越すこと自体はいとも簡単であった。空家有り
とは言うものの、真夏の炎天下や真冬の寒風にさらされて引っ越すのは辛いものがあった。幾度、北斎が
――だけど、来年、九十になる親父どのに、まだ引っ越す元気は残っているだろうか。できれば、あと何度かは
お栄は心の中でそうつぶやき、大川の上にひろがる空を見あげた。
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