第20話 阿檀地の呪文―其ノ陸
日本堤は浅草今戸から西の三ノ輪へとまっすぐつづく。
堤の左右には、
そうした葦簀張りの掛茶屋の陰から、年増女の
「あれまっ、あんな
「しィーっ」
「ちっ、何がしィーってんだ」
「オメエ、
お多福顔の
「えっ、嘘言うんじゃないよ。それって
「なこと、言うんじゃねェよ。へへっ、実はあっしらも、あの先生には
「おまいさんの
「でも、ねェんだ。ほら、オメエと一緒になっ頃、夜毎、よく拝ませてもらったじゃあねェか。あれを
「へーっ、あの枕絵の……
思わず淫らな笑みを浮かべた女房は、亭主の小脇を
北斎のうしろ姿を見送りつつ、亭主が独り言のようにつぶやく。
「
「へえーっ。そうなのかい。そりゃ、たいしたもんだ。でも、どこへ行くんだろうね」
「たぶん、吉原
刹那、その声を掻き消すように、堤の下を流れる山谷堀から風が吹き上げ、葦簀をバタバタとはためかせた。吉原
だが、そうした
ちょうどその頃――。
四谷信濃坂の馬琴の葬儀に列する一人の女の姿があった。
細縞の普段着の上に、地味な
お栄であった。
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