第11話 北斎の回想-その参
おみちの手紙から目を離し、北斎は炬燵の中で仰向けに寝返った。何を考えているのか、
その
「
「べらぼうめい。だから、言ってるじゃあねェか。あいつとは絶交したんだ。喧嘩別れしたんだ。
「ふんっ。絶交したなんて、嘘を
「………」
「いいかい。もう随分と前の話になるけどさ。お父っつぁんが
「………」
お栄は知っている。
餓鬼のように憎まれ口を叩き合い、口汚く
実際、北斎と馬琴は何度喧嘩しても、すぐよりを戻し、互いになんのかんのと言い訳を
「ふんっ。いけすかねえ。うんざりだ。もう絶交でえ」
「おおっ、こっちから願い下げだね。二度とオメエと仕事なんかしねえ」
などといがみ合ったあとも、しれっとした顔で読本『
〽いま別れ、道の半丁も行かないうちに、こうも逢いたくなるものか。
お栄の口から
北斎は押し黙ったまま、天井の暗がりを凝視している。
老絵師の落ち窪んだ
それは生涯、武家としての
突然、北斎が上体を起こし、長煙管をくゆらすお栄に言った。
「筆だ。
「おやっ、何か描くのかい」
お栄はすぐさま北斎に筆を渡した。墨はせっかちな北斎が思い立ったときに描けるよう、大きな硯でいつも
筆を手にした北斎は、厚い
「おやっ、何を描くってのさ」
お栄は
北斎はそんなお栄に構わず、筆を勢いよく疾駆させた。何かに
一幅は狂言の
お栄がその絵を見て、したり顔で言う。
「ふん、そうか。馬琴さんに対するお弔いだね。殊勝にも鎮魂の絵ってえわけだ」
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