第7話 お栄の決意-其ノ参
幼い頃からお栄の
以来、絵を描くこと以外にさしたる興味はなく、まして
当然、当時の女の
台所へ立つ気など
時折、
当初は様子見とばかりにだんまりを決め込んでいた姑のキンが、頃はよしとばかりに戦いの火ぶたを切った。
「お栄さん。ご飯の炊き方どころか、お茶さえ
「いいかい。
「せがれの吉之助は、北斎さんの娘なんてありがたがっているけど、わっちにすればお前さんは疫病神みたいなもんさね。あーあ、頭が痛いよ」
こんな小言や嫌味を吉之助がいないときを見計らって、口にするのである。
お栄もついイライラして、ある日の店
「お前さんの絵は、所詮、小器用なだけの旦那芸だね。いわば道楽さね。余計なお世話をしてあげるけど、絵師なんてものは
絵師としての技倆は、お栄のほうがはるかに高く、吉之助は黙らざるを得ない。
次第に夫婦間にもぎくしゃくとしたものが立ちこめてきた。
それでも季節はめぐる。
ある夏の日、お栄は縞の着物に
日照りつづきで、風が吹くたびに
「寒ざらし白玉ァ、ええ~、
お栄は思わず冷たい白玉を
水売りの背中をむなしく見送ったお栄は、くやしまぎれに桶の水を両の手ですくい、汗ばんだ顔を勢いよくバシャバシャと洗った。
冷たい水の感触が肌に心地よい。
お栄は、それから
「ベロ藍だ。あの空の色は、お父っつぁんのベロ藍だ。わたいはこんな
独り言のようにつぶやいたお栄の手から、
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