第5話 お栄の決意-其ノ壱
時刻は七つ半(午後五時頃)であろうか。
火の見櫓の
さらに、早鐘に次いで、
擦半鐘とは、半鐘の中を
お栄が表通りへ出ると、西の空の一角がポッと明るんでいる。
子供の頃からお栄は、駆けっこをしても男の子に負けたことがなかった。五十近くの歳になったとはいえ、いまでも足には自信がある。
お栄は裾をからげて、
お栄は駆けながら、叫んだ。
「火事だ、火事だよ。みんな見てみな。炎が見える」
火事と喧嘩は江戸の華、そのまた華は町火消し。
お
ゴォーゴォーと燃え
佐久間町に着くと、
「あぶねえ。近寄るんじゃねえ。どいてろ、どいてろってんだ」
町火消の兄ィの怒声に、野次馬の若いのが怒鳴り返す。
「へんっ、こちとらチャキチャキの江戸っ子だい。火事がこわくて、神田に住めるかい」
だれかが興奮して叫ぶ。
「燃えろ、燃えろ、もっと燃えろいっ」
お栄が猛り狂う炎の乱舞に
「すげえ。オイラも町火消になりてえ」
どこかの
その小僧の姿を見て、お栄は
お栄が思い出したこと。それは、
「あの頃、わたいはまだ若かった。お父っつぁんに押し付けられたとはいえ、あんとき結婚なんかしなきゃよかったんだ。絶対ぜってえ
お栄は胸の中で独りごち、わが身をさいなむように下唇をぎゅっと噛んだ。その瞬間、しびれるような痛みが走り、舌の先にうっすらと
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