086 馬車
馬車とは
箱型の小部屋のような物に車輪をつけ、それを四頭立ての馬に引かせる。
乗る者の身分によっては馬が増えて六頭立てとなることもあるが、王宮の門から出立する最も一般的な馬車は四頭立てのものだ。
車内はそう広いものではなく、特に王族用でもない、高級官僚か軍の者達が乗るような馬車だったので、英雄九名を乗せると、中はぎゅうぎゅうの混雑だった。
小部屋の壁のぐるりに腰掛けがついており、後部から乗り込んだ一番奥の角にはフューメンティーナが座っていた。
それと肩を寄せて座る訳にもいかず、馬車内での配席には皆に無言の緊張が走った。
部屋の奥が上座であるのは部族では常識だ。馬車であっても変わりはしない。
それでギリスがスィグルを奥の壁の真ん中の席に押し込んできて、その両脇にギリスとフューメンティーナが座ることになった。
ギリスの
フューメンティーナのすぐ脇には、透視術師のエル・ジェルダインが座り、女英雄にじろりと
「あなた、近寄らないでくれる? 私の
フューメは厳しくジェルダインを頭から足まで
「触りません。絶対」
注意されるのも心外だという青ざめた顔で、エル・ジェルダインは承知した。
供をする
「ごめんね、ジェルダイン……」
何を
なぜ
序列通りに座っただけとはいえ、明らかに怒って見えるフューメンティーナに触りたくはなかった。
スィグルは、自分ももし王族の殿下でなければ、女英雄と肩を並べて座った席で今どんな目にあっていたのか恐ろしかった。
「いいぞ、出せ」
ギリスが背中側の壁を叩き、それを隔てて自分たちと背中合わせになっている御者台にいる者に、出発するように言った。
返事は聞こえなかったが、御者は承知したようで、
急に座席がぐらりとして、フューメは腰掛けからずり落ちそうになっていたが、険しい顔で踏ん張っていた。
近寄るなと言っておいて自分から
「ごめんね……こんなところに乗ることになって」
スィグルは小声でフューメに
自分のせいではないが、他に詫びる者もいなさそうだったので、気を遣ったのだ。
フューメは男ばかりのこの車内に座らされ、とても不愉快そうだった。
英雄とはいえ、彼らの派閥だって男女できっぱり分けられているのだし、部族の他の娘たちと同じく、男と同席するのは恥なのかもしれなかった。
しかし、その一方で彼女たちには建前というものがある。
英雄たちに女はいないのだ。
フューメはそういう、覚悟の顔つきだった。
「いいえ殿下。殿下こそ、このようなむさ苦しい乗り物にお乗りになるなど、お
踏ん張って揺れながら、フューメは気の毒そうにスィグルを見てきた。
「何がお
いかにも平気そうにギリスが言ってきた。
そりゃお前は平気だろうよと、スィグルは内心、毒づいた。
ギリスは末席の
「今食べるの⁉︎ ここで⁉︎」
叫ぶように甲高い声で、フューメがギリスに聞いた。
「腹が減ってるんだよ!」
珍しく怒鳴り返して、ギリスは
美しい花と
持ち運ぶ際に蓋が自然に開いたりしないようにか、蓋には横から溝に差し込む仕組みで、
ギリスはそれを、ぽいっと馬車の床に放り、どうでもいいもののように扱ったが、フューメンティーナは悲鳴を上げた。
「だめ‼︎
フューメが指差した小さな
「本当だ。これめちゃくちゃ美味いよ」
皆が
「なんで先に食べるのよ⁉︎ 殿下におすすめしなさいよ」
明らかに怒っている声で、フューメがギリスに鋭く言った。それでもギリスには全く
「毒味だよ。いきなり食べさせて、こいつが死んだら困るだろ」
冗談とも本気ともつかない真顔で、ギリスはフューメに答えている。
スィグルは、せめてそれを笑って言って欲しかった。そうしたらフューメも笑ってくれたかもしれないのに。
「そんなのもうあなたの
青ざめてはいるが体は元気そうな少年たちを示して、フューメは力説していた。
優しそうな容姿なのに、ギリスにはいつも怒鳴っている気がする。
そうしたくなる気持ちもわからなくもなかった。
派閥の伝来品だという弁当箱の中には、棒状の焼き菓子のようなものが
そこから甘く香ばしい匂いがして、腹が減っているのをスィグルは感じた。
「何これ?」
何かも分からず食っているギリスがフューメに尋ねている。
「
不快そうな顔でフューメが答えた。
「えっこれ?
ギリスが不可解そうに反論している。
「まだ、実戦配備はされていないのよ。フューメが考案し作りました、殿下。お召し上がりください」
ギリスの膝から弁当箱を奪って、フューメはスィグルに勧めた。
一応は
「不殺の料理でございます。ご安心ください」
驚いているスィグルが、料理の内容を心配していると思ったのか、フューメはにこりとして教えてきた。
スィグルが作り笑いで手を出す横で、ギリスが身を乗り出して、もう一本取り聞いた。
「何でできてるんだよ、これ?」
それにもフューメはムッとしていた。
同じ器から食うのは無作法だからだ。よほど親しい者なら別だが。宮廷ではそうだ。
でもギリスは気にしていないようだった。
王族だろうが女だろうが、お構いなしの奴だ。
「粉にひいた麦と豆と油と、蜂蜜と干した葡萄と塩と……いろいろよ」
しぶしぶのようにフューメが答える。
「エレンディラの団子と大差ないのに、何で美味いんだろう」
それがいかにも不思議というように、ギリスはしみじみと言いながら、棒状の
スィグルもその棒の端っこを
それでもフューメが心配気にこちらを見ていたので、仕方なく笑って見せた。
美味くも不味くもないとも言えない。
「美味いよ、これ、本当に」
ギリスは真顔でフューメを
「お前、英雄なんかやめても、これで食っていけるよ」
「失礼なこと言わないで。やめる訳ないでしょ」
フューメは黄水晶のような石のある顔を上げ、ギリスにきっぱりと言った。
どこからどう見ても英雄だ。竜の涙が額を飾っている。
それにギリスも頷いていた。
「そうだよな。まあ、そうだけど……」
ギリスは自分が持っている菓子のようなものを眺め、それから馬車に詰め込まれている無言の
「お前らなんて、魔法を取ったら何も残らないよなあ。まあ俺もだけど」
ギリスが暗い顔でしみじみというのを聞いて、スィグルは
ちょうど自分たちだけ食べて気まずいなと思っていた矢先のことだ。
ギリスの
「そんなことないですよ
何かに弾かれたように、ギリスの隣でエル・サリスファーがビクッとして言った。
ギリスはすぐ隣にいる翡翠色の石の少年を、菓子を齧りながら見ていた。
「そうか? お前に氷結術以外の何があるんだよ?」
「うっ……う……」
何も無いのか、サリスファーは喉が詰まったように
「サリスは詩作が得意です、
フューメンティーナの横で行儀良くしていたジェルダインが、穏やかそうな声で教えてきた。
ジェルダインは揺れる馬車の中でも姿勢を正し、指を揃えた手を膝上に置いている。英雄の絵のような
「あ、そうなの?」
それで詩殿にお供したいと、先刻、廊下で話した時にサリスファーが言っていたのかとスィグルは納得した。
まだ年若い者ばかりとはいえ、さすがは最大派閥の英雄たちと言えた。
スィグルはそれに少し安心した。やはり
「いえ、そんな。僕の詩作はまだ全然です、殿下。時々、
恥ずかし気にサリスファーが謙遜しており、ギリスの
「じゃあお前ちょっと何か
ギリスが悪気ないふうに急に求めると、サリスファーはそれにもビクッとしていた。
「え……今ですか?」
「うん」
あっさりと答えながら、ギリスはどんどんフューメンティーナの焼き菓子を食べている。
他の者には勧めないのか、スィグルは気になってしょうがなかった。
「無理です、
低い声でサリスファーが断ってきた。それにギリスはびっくりしたようだった。
「何でだよ。俺はお前の
命令だぞと言いたいのか、ギリスは硬い声だった。
「サリスファーは、音痴なんです、
ずっと黙っていた誰かが、急にそう言った。
サリスファーの隣に座っている者だ。
「誰だっけお前……?」
ギリスが
「エル・カーリマーだよ、ギリス。お前の
あまりの事に黙っていられず、スィグルも思わず叫ぶ声になった。
知識の
そのカーリマーが、よほど
「俺は歌が上手いです、
「そうなの? 自信あるのか」
ギリスが聞くと、よほど自信があるのか、エル・カーリマーは少し大人びた顔でにやにやしていた。
「あります。俺から魔法を取ったら、歌が残りますよ」
「いいね。歌ってみろ」
「腹が減って歌えません。魔法も歌も、腹ぺこでは無理です」
エル・カーリマーに言われて、ギリスはきょとんとしていた。
ギリスは気づいていなかったらしい。弟たちが空腹ということに。
「食え」
ギリスは横にいたサリスファーに弁当箱を渡してやっていた。
そうして回ってきた食糧を遠慮なく取って、エル・カーリマーがこちらを見てきた。
「発言したついでに殿下に
物怖じする気配もなく、こちらをじっと見てくるエル・カーリマーに、スィグルは
「殿下はなぜ……仮面劇の
エル・カーリマーは自分の額に石のあるあたりを指差し、言いにくそうに言葉を探していた。
「その、石はなぜあるんですか?」
聞いても良いのかと戸惑うように、エル・カーリマーは言った。
率直な
他には今まで誰ひとり聞かなかったのに、エル・カーリマーは聞くんだなと、スィグルは感心した。
ギリスが持ってきた平たい宝石のようなものを、馬車に乗る前に
取り返して
それだけでも不名誉なのに、
なぜそんなことをするのかとギリスに聞きたいところだったが、聞くまでもなかった。
英雄のフリをするためだ。偽物の竜の涙だ。
まさか、そんなことを本物の英雄たちの前でやらされるとは、スィグルも思いがけないことだった。
「こいつも今日だけ
答えに詰まったスィグルに代わって、ギリスがあっさりと説明していた。
「はぁ……今日だけですか」
エル・カーリマーは不思議そうにしていた。
彼らが怒るのではないかと、スィグルは危ぶんだ。
ギリスが持ってきた石は、子供用の
市井には
実は王宮にもいる。スィグルも子供の頃に弟とやったことがあった。
母に見つかって、ひどく長いお説教を受けた。
そういうのは本物の英雄がいないところでやる遊びだ。少なくとも元服後の者がやることではない。
ギリスが持ってきた玩具の石は、侍女から
変装するためにだろう。王族が
それでも、こんな玩具で変装されては、英雄たちは良い気分ではないのではないか。
彼の石は糊で貼ってある訳ではなく、頭の中から生えていて、いずれ命を奪う代物だ。
ふざけてるのかと、不快に思わないだろうか。
「今日は妙な日ですよね。学徒になったり英雄になったり」
カーリマーは手に持っていたエル・フューメンティーナの焼き菓子を不思議そうに眺めて言った。
「俺たちもたまには英雄やめてもいいんじゃないですかね? なあ、ジェルダイン。一日くらいさ?」
焼き菓子を齧って、エル・カーリマーは嬉しそうに言った。
「馬鹿言うな。毎日、英雄だ」
誰の目を気にしているのか、エル・ジェルダインは気まずげにこちらを見ていた。
フューメンティーナを見ているのか、それともスィグルに遠慮しているのかだった。
「俺はやめたくない。一日も」
ギリスが難しい顔で言った。その隣でサリスファーが気まずそうにしていた。
「すみません、
「別に怒ってない」
ギリスはしれっと本気のように答えた。
エル・カーリマーは怒られたと思ったのか、済まなそうに誰にともなく頭を下げていた。
それでも彼がさほど悪びれていないのは目を見たら分かった。
「お
スィグルが父からもらったまま持っていた仮面を、エル・カーリマーが手で示した。
妖しい微笑を浮かべた、高貴な女の顔だ。
「それの歌を」
エル・カーリマーはいかにもよく知っているように言っていた。
「この仮面には何か意味があるのか?」
仮面劇に
ただの美しい顔の
「ありますよ。殿下は仮面劇はご覧にならないんですか?」
不思議そうにエル・カーリマーが聞いてくる。
仮面劇は部族ではよくある娯楽のひとつだが、古典文学を題材とした格調高いものから、市井の暮らしを題材とした卑近なものまで、様々の演目があった。
王子の見るものではないと、幼い頃に母上が言っていた。
父リューズが歌劇を好み、詩人たちや楽師や役者が重用されたため、
だから見ていない。
思いがけない自分の素直さに気づき、スィグルはびっくりした。
普通は見るものなのか?
「この仮面は、いろんな意味がありますが、大体は王家の囚われの姫君やお妃様の役柄で使われるものです。頭のおかしい王家の女性なんですよ」
にこやかなエル・カーリマーの説明に、スィグルが呆気にとられていると、カーリマーの斜向かいにいたエル・ジェルダインが低い声で
「カーリマー。言葉を
なぜジェルダインが怒るのか、スィグルにはよく分からない気がしたが、それなのに
後宮って、そういうところだろうか。気の狂った姫や妃がいるような?
「すみません。でも本当なので。一番有名なのは
カーリマーは詫びたが、気にせず続けた。
「筋書きは幾つか種類があるんですが、大体似てます。美しい王家の姫か、お妃様が、後宮の庭なんかで平民の男と出会うんです。道に迷った兵士とか、壁や窓を修繕している
「
スィグルは自分の手に持った仮面が淡く微笑んでいるのを、視界の端に感じた。
「俺は知りませんけど、後宮の窓も壊れる時は壊れるんでしょうね?」
エル・カーリマーは悪気のない顔で、あっけらかんと馬車内で揺れている一同に聞いた。
誰も何も答えなかった。
後宮の内部を知っているのは、この中ではスィグルだけだっただろう。
美しいところだが、別に後宮と他の王宮内に、根本的な違いはない。
窓があれば壊れるだろうし、壁や配管や暖炉が壊れたり、増改築が必要なこともあるだろう。
その際には工人が遣わされるということだろうか。
「姫と平民が恋に落ちるんですが、大体最後は男の方が死ぬんです。斬首とか、
「
スィグルは馬車の揺れに酔いそうな気分で聞いた。
水を飲みたかったが、あいにく馬車にはそんなものは無さそうだ。
「生きたまま壁に塗り籠める刑罰です。死刑の一種で、たぶん後宮にしかないんだと思いますが、姦通罪の処罰として執行されるそうです。本当にあるのか知らないですけど、仮面劇には出てきます」
「どんな歌なの?」
スィグルはカーリマーのいかにも気楽そうな顔を見て聞いた。
「愛しき我が君、この歌声はまだその耳に、届きましょうや。愛しき姫様、聴こえております。死霊となり果て、今もお側に」
カーリマーが突然歌ったので、皆びくりとした。見事な声量だったのだ。
しかもカーリマーは二人分の音域を歌ったようだった。
初めの方は女のような高音の声だったが、途中からは低い男の声だった。
どちらも悲しげに聴こえた。
それを無表情に歌うカーリマーは、歌は上手かったが、歌う人形のように見えた。
でも、とにかく上手い。
自ら歌が上手いと言うだけのことはあった。
「上手すぎるだろ、お前。詩人になれ」
驚いた様子でギリスが叫ぶように言った。
それにカーリマーは、あははと快活に笑った。
「なりたいんですけど、詩作の才能がなくて。サリスと足して二で割れると丁度いいんですかね?」
「二で割るか?」
軽口をきくエル・カーリマーに、ギリスは真剣に答えていた。
確かに二で割る必要はなかった。
詩人は詩作も行い、詠唱もして、楽器も奏でるため、一級の宮廷詩人ともなると、幾つもの才能を兼ね備えていなくてはならないことになる。
歌が上手い上に、詩作もできなくてはならない。
それが建前だが、実際には詩人にも詩作を得意とする者と、伝来の詩の詠唱を主とする者がいるのだ。
その意味では、エル・カーリマーは竜の涙を持って生まれなければ、今ごろ別の衣装を着て、琴を抱き、
でも石を持って生まれたせいで、今はこうして
「すごいね」
そうとしか言いようがなく、スィグルは思わず褒めた。
「ありがとうございます」
カーリマーはごく当たり前のように賞賛を受け、答礼していた。
「何でその仮面をお持ちなんですか?」
「……分からない」
父が自分に
父は一体、これを渡して何を言いたかったのか。
「エル・カーリマー、この
「そうです。たぶん。俺の知る限りでは」
カーリマーは不思議そうに言った。
「持ち歩くのは不吉ではないですか? その面。なぜお持ちなのかと」
「届け物だろう」
話を聞いているのかも分からなかったギリスが、長い焼き菓子の最後の一口を食い終え、急にそう言った。
「これから会う奴に伝える伝言だ。工人の男はもう死んでると思ってたんじゃないか、お前の親父は」
ギリスは隣にいるスィグルに首を傾け、そう尋ねてきたが、声を
「お前ら、今日これから見聞きすることは他言無用だ。でも行っていいってエレンディラが言ってた」
ギリスが指に付いた塩気のある粉を舐めながら言うと、ずっと黙っていたフューメンティーナがじろりと
「エル・エレンディラが。いいって言ってた。勉強して来いってさ」
ギリスが言い直していた。一応何かは感じているらしい。
「私もいいの?」
強気で睨む割に、フューメンティーナは遠慮がちにギリスに尋ねた。
「いいよ。お前らが帰還式の先頭にいるならだけど」
「そんなの、私の一存では決められないんですけど?」
つんと済ました顔で、フューメは困ったようにギリスに言い返した。
「決めろよ。お前がどうするか、決めていいんだ。このまま新星に仕えるか、それとも馬車を降りて、王宮まで歩いて帰るかだ」
「どこなのよ、ここ?」
はっとしたようにフューメンティーナが馬車の窓の辺りを見た。
ギリスが
埃っぽい匂いがして、砂牛の
小さな窓から見えるのは、様々な色合いの色漆喰の壁の家々だ。
どれも手の込んだ造りの建物だが、貴人の住まいではない。
洗濯物が棚びく庭が見えた。
「ここどこなの⁉︎」
口元を覆って、フューメンティーナが叫んだ。化け物にでも出会ったみたいに。
「第四層の工人区だ」
ギリスは極めてあっさりと言ったが、第四層は平民の住む階層だった。
貴人の来るところではない。
英雄たちもだろう。恐らく。
「トードリーズは休みを取って自邸に戻ってるらしいんだ。子供が産まれるんだってさ」
それが何でもない事のようにギリスは教えてきた。
しかしスィグルは言葉も無かった。
子供が産まれるところに立ち会ったことなどない。
手ぶらで突然来るような時だろうか。
それに、今さらだが王宮の外だ。なし崩しに心の準備もなく、ギリスに連れて来られてしまった。
揺れる馬車が止まり、到着いたしましたと戸が開かれた。
御者が、乗客を馬車から降ろすための踏み台を扉の外に持ってくるのが見えた。
降りろということだ。
馬車の外には質素な服装の平民たちが見えた。
官僚馬車を
首が折れないのか?
スィグルはその事にも度肝を抜かれたが、
何をするんだ、小さい子供に。
だが子供たちは無言でサッと避けて、走り去っていった。
「ギリス……行くのか?」
ギリスは不思議そうにこっちを見てきた。
「はあ? お前が行くってゴネたんだよな? ここがトードリーズの家だ。さっさと降りろ」
無表情に言い、ギリスはさっさと馬車から降りていった。
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