032 飴玉の恩

兄者デン、申し訳ありません。大事なお話があったのに、僕らのせいであまり話せませんでしたね」

 博士の学房へやを出るなり、ジョットたちは申し訳なさそうに謝ってきた。

 しばらく博士の講義とも言えない話を聞いて、今日はこれまでにしようと放りだされ、深く叩頭して出てきたところだ。

 ギリスは途中で去るつもりだったが、爺いが最後まで聞けと引き留め、誰の英雄譚ダージがどうやら、千里眼のエル・ディノトリスがどうやらという話を延々と聞かせてきた。

 それに何の意味があるのか、ギリスには分かりかねた。

 どれもこれも、ギリスが既に知っている話であったり、聞いてもしょうがないような存命の英雄たちの英雄譚ダージであったりした。

 博士が自分の好む英雄譚ダージについてしゃべっているだけだ。

 こんな話にお菓子を支払って、毎週通っているというジョットたちが哀れになり、ギリスは呆れて、まだ幼さの残る六人のジョットのにこやかな顔を見下ろした。

「俺がお前らの勉強の邪魔をしたんだよ」

 ギリスは少々反省して言った。急用という訳でもなかったのだから、自分は待てばよかった。

 そう気づくのは、もう言ってしまった後でだ。

 なんでも思いつくとすぐ実行してしまう癖があり、こらしょうがないといつもデンや教師たちにも怒られてばかりいた。

 お前は行動が早いなと褒めてくれたのはイェズラムだけだ。

 しかしそれも、時と場合によるだろう。

 いつがその時かを分かりかねるだけで、ギリスにもさすがに、ものごとに時機があるのは分かっていた。

「僕らも勉強になりました。本当です。そんな大事な用なら、最初から言ってくださったらよかったのに」

 にこやかな筆頭のジョットが、学房から歩み去る通路を行きながら、ギリスより半歩遅れて付き従い、妙に大人びてそう言った。

 ギリスはその顔にある石が、緑がかった乳白色で、翡翠ひすいに似ていると思い、そいつが誰なのかを思い出した。

「お前、飴食って死にかけたやつだな」

 思い出した驚きで、ギリスは相手を指差して聞いた。

 それにジョットも驚いたようだった。

「えっ!? まさかお忘れだったんですか」

「いや……誰だっけ、お前」

 苦笑して、ギリスは仕方なく聞いた。顔には見覚えがあったが、誰なのか分からなかったのだ。

 子供部屋にいた、たくさんの顔のうちの一つでしかない。

 先程の学房での話によれば、こいつもギリスと同じ氷結術の使い手で、魔法戦闘の修練の時には一緒にいたのではないかと思えた。

 王宮の中に魔法使用が許されている修練場があり、魔法戦士はそこで控えめに自分の術を使って、死なない程度の訓練をする。

 そういうことにギリスは興味がなく、義務だから渋々行くだけで、そこで誰とも親しくならなかった。

 ギリスに話しかけてくる者もいないし、魔力の計測や記録をする者たちが恐る恐る働いているだけで、それが結構でございますと言えばギリスは自分の個人房へやか派閥の部屋サロンにさっさと帰るのが常だった。

 計測用に出される課題はギリスには簡単すぎたのだ。魔法の精度や射程を測るための的を凍らせるだけの簡単なもので、ギリスは訓練なしでも高い精度を誇っていた。まだ幼かった子供部屋の頃からそうだ。

 いつだったかギリスの魔法を見に、長老会の重鎮デンたちが大洞窟のような訓練場にぞろぞろ来たほどだ。

 その時、おそらくはイェズラムもいたのだろう。それすら幼少だったギリスは記憶していない。

 誰がいようが、どうでもよかったのだ。

 幼い頃の自分にとって、大事なことなど何もなかった。いつも、次の飯は何かなと、そればかり考えていた幼年時代だった。

 だから皆もそうなのだろうと、ギリスは信じてきたのだ。

 しかし現実には、自分以外の者たちは実に様々なことを考えて生きている。

「忘れるなんてひどいです……兄者デン

 さすがに苦笑して、翡翠ひすいの石のジョットが言った。

「まあ仕方ないですけどね。兄者デンの記憶に残れるような何かが、僕にはないんですから」

「お前が飴食って死にかけたのは憶えてるぞ」

 ギリスがそう教えると、ジョットたちは可笑おかしかったのか爆笑した。

「ありがとうございます」

 ジョットは軽く腹を抱えて笑っていた。

 その身長はもうギリスのあごに迫るほどだったが、思い出した記憶の中で、このジョットは子供のギリスでも足を持って逆さに吊れるほど小柄だった。

 ひょろりとした白蠟はくろうのような細い足が生えていたのを憶えている。

 それがいつ頃だったのか。

 ギリスが長老会の部屋で菓子をもらって、好きにしろと言われたので、自分が寝起きしている子供部屋に持ち帰り、ジョットたちにくれてやった。

 日頃、子供部屋では甘いものは出ない。それは褒美として使われており、功労がなければ与えられないものだった。

 身体を作るための食事は毎日食わせてもらえたが、菓子や果物は珍しかったのだ。

 持ち帰った菓子をばらくと、ジョットたちは狂喜した。

 その、飢えた魚の池に餌をばらいたような饗宴が楽しく、どんどん食えとギリスはジョットたちに許した。

 それが良くなかったのか、がっついて食った一人が飴玉を喉に詰めたのだ。

 窒息して苦しんでいるのに周りが気づいた時には、そいつはもう青い顔をしていた。

 ギリスは咄嗟とっさジョットの足を持って宙吊りにし、そばにいたチビどもに思い切り背を叩かせたのだ。

 それで偶然、飴玉が喉から転がり出てきて、死んでた奴が息を吹き返した。

 そいつはしばらく施療院に連れて行かれたが、戻ってきてギリスに叩頭した。命の恩人だと。

 でも、もしギリスが飴を与えなければ、死ぬこともなかったのだ。

 だからまあ五分五分だ。死の天使が引き返してくれてよかったなと、ギリスはジョットの幸運をめ、そいつはしばらく長衣ジュラバすそにまとわりつく綿埃わたぼこりのように、子供時代のギリスに付きまとっていた。

 そういうジョットはたくさんいた。

 なにしろ修練場でギリスが大魔法をふるうものだから、皆、恐れをなし、ある者はそのそでに隠れたいと願うのだ。

 強いデンと徒党を組めば、いじめられない。揉め事があればギリスに泣きつき、代わりに乱闘してもらうことで、ジョットたちは身を守ってきた。

 その誰が誰だか、ギリスは感知していなかった。

 いちいち憶えていられるほどの興味もなく、どうでもよかったからなのだが、そうしていると皆だんだんと遠巻きになっていく。

 このジョットも、そうしてギリスのすそまとわりつくのをやめた手合いなのだろう。

 最近では見なくなっていた。

 ギリスが元服して個人房に移り、ギリス自身が養父デンであるイェズラムのすそにまとわりつく綿埃わたぼこりに化けたのだから、さすがに長老会のデンであるイェズラムにギリスと共に追従ついじゅうするには、子供部屋のジョットたちは幼すぎたのだ。

 なにしろ既に幾つも英雄譚ダージを持っているような大人のデンたちが、イェズラムの腰巾着だったのだから、それに子供が混じっていては、邪魔だと怒鳴られて蹴り出されるのがオチだ。

 ギリスはそれを気にしなかった。とにかく養父デンのそばにいたかったのだ。

 いつかは自分も養父デンのような大英雄に。そうなりたい一心で常に養父デンに張り付いていた。

 そしてそれをイェズラムも面白がって許したのだ。

 派閥のデンたちは皆、内心ではそれを嫌がっていたようだが、それも皆のデンだったイェズラムが許すのだから、その下っ端たちが嫌だと言えるわけがなかった。

 そのうちイェズラムも他のデンたちにするのと同様に、ギリスに用事を言いつけるようになり、デンの伝令として顔を知られるようになったのだ。

 そうなるとギリスは長老会の、あるいは派閥の重要な任務を負う魔法戦士だった。

 チビのジョットたちから見て、日用の庇護ひごを求めて徒党を組むべき相手ではなかったのだろう。

 おそらく同じ理由で、ギリスには同い年の知り合いもいない。皆、ギリスを嫌ったからだった。

 それでもなんの不自由もなくギリスは王宮での時を過ごしてきた。

 ずっと年上の派閥のデンたちが、度々怒りののしりながらでも、ギリスの世話をしたせいだ。

 いつかは自分もそのように、年下の者たちの面倒を見るのだと、ギリスは漠然とは思っていた。

 だが、具体的にそれが誰なのかを、まだ考えたことがない。

兄者デン、僕も元服し派閥に属しましたので、いつでもお力になります。いつか教えていただいた氷結術の極意は今も忘れていません」

 翡翠の石のやつが、さも感謝しているように言ってきた。

「お前にそんなもん教えたか?」

 全く記憶にない。それを隠してもしょうがないと思い、ギリスは正直に言った。

 それにジョットは何とも言えない顔になった。笑っているような、怒っているような。

 そしてギリスの袖を引いて立ち止まらせ、廊下に生けてあった花瓶の花を指差した。

 ギリスがそれに目を向けると、バァンと派手な音を立てて花瓶が弾け飛ぶのか見えた。

 中の水が凍り、急激に膨張して花瓶を割るのだ。

 そこに生けられていた花までが、自身の身の内の氷に裂かれてばらばらと落ちてきた。鋭いとげのような氷の結晶がいくつも生えている。

「うわぁ……」

 ギリスはぼんやりと呟いた。驚いたのだ。

 花瓶を割るぐらいのことは、精度があれば誰でもできるだろうが、この刺々とげとげしい氷結術はなかなか良かった。

 ギリスは思わず満面の笑みになり、自分より背の低いジョットを見つめて、抱きしめて褒めたい気持ちになった。

 しかし、そういうことは大人はしない。

 そこでやむを得ずギリスは笑顔でジョットうなずいて見せた。

 翡翠ひすい色の石を額に生やし、ジョットは得意げに照れていた。

「いい感じ」

「エル・サリスファーです」

 めたギリスに差し出すように、ジョットは名乗ってきた。あいにく記憶にない名だった。

「サリス……」

 ギリスは顔をしかめて名前を覚えようとした。今日はたくさんの名前を聞きすぎた気がする。

 そういえばさっきの博士の名も思い出せぬ。どうでもいいことと思いすぎた。

「もうそれでいいです」

 ジョットは妥協したとしか思えぬ顔で頷き返してきた。

兄者デンは、名前を忘れても、魔法は忘れない方だ。技を磨きます」

「エル・サリス」

「サリスファーです!!」

 それで良いと言ったくせに、ジョットは念押しした。

 だがこれは、忘れにくい名前と言えた。サリスファーとは、翡翠の子という意味だったせいだ。

 英雄の命名に飽きた名付け係が、こいつの見た目から適当に付けた名だったに違いない。

「サリスファー、頼みがある。お前の英明なる紺碧のデンに、話がしたい」

「レイラス殿下の帰還式ですね」

 打てば響くとはこのことだった。ギリスは感心して、飴食って死にかけた餓鬼だったものを見た。

「承知しました」

 何も言わないのに、そいつはギリスの目を見ただけで承知した。

 これがジョットかと、ギリスは静かに驚いていた。

 これが魔法戦士の派閥というものだ。

「ご報告はどうやって」

「どうとでも。俺は派閥の部屋サロンか、さっきの爺いの学房へやか、自分の個人房へやにいる。どこかに遣いを出せ」

「はい」

 歩き出したギリスに付き従って、ジョットは頷いた。

「朝夕は新星のところにいて留守だ。遠慮しろ」

「わかりました」

 深く頷いて、翡翠の子サリスファーは言った。いい返事だ。

 ギリスはこのジョットを気に入った。連れて歩いてもいい。

兄者デン、功労があったら弟分ジョットにしてください。お約束を」

「英明なる紺碧の何とかは?」

 翡翠の子にはデンがいるはずだ。ついさっきそういう話だったではないか。

 ギリスは首を傾げて、真面目な顔をしているジョットの石のある横顔を見た。

「そのデンはもうすぐ亡くなります」

 ジョットが言う剣呑な話に、ギリスは顔を顰めた。

 翡翠のやつの後ろを歩いていた、もう一人別のジョットを、翡翠のやつが視線で示した。

「エル・ジェルダインがそう言っています。僕のデンはもう永くないと」

「何でわかる。予知者なのか、お前」

「ジェルダインは透視術師ですよ、さっきそう言ったじゃないですか!」

 翡翠の子はびっくりしていた。その背後にいるジェルなんとか驚いたのか、傷ついた顔をしていた。

「気の毒だけど、僕のデンは石の成長が早かったのです。ジェルダインの見立てでは一年保ちません。それに……」

 翡翠の子は困った顔で、少々青ざめ、ギリスを見上げて言った。

「それに、ギリスの兄者デンのほうが強いでしょう」

「そうだろうか」

 疑問に思って、ギリスは答えた。

 とぼけるつもりはないが、本当にこのジョットの後見になったという氷結術師を知らなかった。

 記憶に残るような術者ではなかったのだろう。それが英明で、紺碧でも、ギリスにはどうでもよかった。

「僕らは兄者デンがいいんです。名前を憶えてください」

「分かったよ。お前だけだぞ、サリス」

 別に忘れてはいなかったが、ギリスがそう呼ぶと、エル・サリスファーは屈辱だという顔をした。

 でも仕方がないのだ。魔法戦士にとって年長のデンのやることは絶対なのだから。

 あとの名前の半分は、こいつがちゃんと仕事をしてから思い出すことにする。ギリスはそう決めた。

「派閥の部屋サロンに戻られますか、デン

 さっそく舎弟面してジョットどもが聞いてきた。

 まさかこいつら、ゾロゾロ付いてくるつもりかと、ギリスはまだちびっこい連中が自分について歩くのを見やった。

 中にはまだ包帯巻いてるチビもいるのだ。格好つかない。

 ギリスは渋い顔になり、どうやって断ろうかと思った。

 まだ用事がある。新星の新しい居室の手配をしなくてはならない。

 その仕事はこの弟ども言いつけるには荷が重すぎる気がした。

 部屋をお願いしますと誰かに言えば、はいはいと言って部屋がもらえる訳ではない。餓鬼の使いでは無理なのだ。

「いや……俺はまだ用事がさ」

 ギリスが言い訳しながら通路を曲がると、そこから先は英雄たちの棲家がある方へ向かう立体交差だった。

 大階段を行き交う人の群れがいくつかあり、そのうちの一つは美しく着飾った女英雄たちの群れだった。

 美しいと言っても皆が男装しており、ギリス達と同じだが、それより少々刺繍が華やかな長衣ジュラバに、ぎょくやら金銀の揺れる髪飾りや華麗な耳飾りをいくつも着けている。

 群れの先頭を行く二人の女英雄エルは大人で、目尻に赤く光る粉で化粧をしていた。

 その目が甘い流し目でこちらを見てくる。

「ご機嫌よう、エル・ギリス。昨夜はご活躍でしたわね」

「今宵もまた玉座の間ダロワージで」

 くすくす笑いながら女英雄はギリスに挨拶をした。

 すれ違うと、えも言われぬ良い匂いがした。

 女派閥の部屋サロンで焚かれている室内香の匂いだ。その匂いを嗅げば、どの部屋の女か分かる。

 エル・エレンディラのジョットたちだ。

 年頃からしてエレンディラの直の妹ではなく、そのさらに下に属する者たちだろうが、ギリスにはにこやかに振る舞っていた。

 これまで王宮の廊下ですれ違っても、こういうデンたちが挨拶してくることは無かった。

 どういう風の吹き回しかと、ギリスは花のような匂いのする女英雄たちの香気にくしゃみが出そうになったが耐えた。

「ご機嫌よう兄上デン

「ご機嫌よう」

 二人の姉たちの荷物を持って付き従っていた背の小さな娘たちも、すれ違い様に立ち止まり、ギリスに略礼をしてからデンを追って行った。

 その四、五人いる娘たちの額にも英雄らしい石があり、皆ひどく複雑な髪型に髪を結いあげていた。

 同じ匂いだ、全員。

 エル・エレンディラの派閥の娘たちに違いない。

 その殿しんがりの一人が、ふと思いついたように立ち止まり、ギリスを振り返って言った。

姉上デンが、お茶にお誘いするよう仰せでした。エル・ギリス。夕刻お待ちしておりますと、ご伝言です」

姉上デンて誰だよ」

 ギリスは尋ねたが、娘は真顔で、知らんふりをした。

「ご機嫌よう」

 くるりときびすを返して姉たちを追っていく男装の少女の小走りを、ギリスは弟たちと見送った。

 その姿が軽やかに階段を降り、飛び去る蝶のように下の通路へと消えていくと、弟たちが深いため息をついた。まるでずっと息を止めていたかのように。

「すごいですね、デン。女部屋の連中に挨拶してもらえるなんて」

「僕らなんて、すれ違っても気づいてももらえません。完全に無視です」

 まだ包帯を巻いてるような連中が、うじうじと言った。

「美人だったな」

 今さら驚いて、ギリスは感想を述べた。

 女英雄たちは侍女とは違う。侍女も玉座の間に行けば美貌の者がいくらでもいるが、その弱々しい花のような風情は、女英雄たちの持つ独特の華やかさとは別種のものだ。

「俺、この格好でお茶に行っていいと思う?」

「絶対、着替えてください」

 即答でジョットたちが反対していた。

「なんでだよ」

「だって朝から着てるんでしょ、それ。昼飯食った後、着替えてください。風呂にも入ってから行ってください。靴も新調してください」

 矢継ぎ早にジョットたちが注文を付けてくる。

「どんだけきたねぇんだよ俺は」

「礼儀ですよ、それは」

 初めて聞く礼儀だった。

「いいよ、ジェレフに聞くから」

 お菓子も持っていけ、花も持っていけと口々にうるさく言うジョットどもの勢いに困りながら、ギリスはここら辺でチビどもと別れることにした。うるさくてしょうがない。

 可愛げのある連中だが、こういうのと四六時中一緒にいたいという気がしなかった。

 デンというのも苦労だなと、ギリスは疲れた。

 先程の女英雄たちもジョットたちをぞろぞろ引き連れていたが、王宮では皆そうだ。誰かの後を追うか、誰かに追われて歩くしかない。

「まったくクソ忙しい日だぜ」

 ギリスは歩きながらボヤいた。

 新星に目通りした朝がもう、遠い過去のことに思えた。

 ひどく眠く、そして腹が減っている。そういえば朝飯も食っておらず、それなのに、もうすぐ昼時だ。

 あの新星と出会って以来、ゆっくり飯も食えない。

 ギリスはもう心が折れそうだった。

「もっと忙しくなるよ」

 ギリスが階段を上がろうとるすると、中二階の回廊の手すりを掴み、階段の下を見下ろしている別の一団がいた。

 その中の誰かが返事をしたようだった。

 ギリスはそれを見上げ、知っている顔があるか確かめた。

 知らない連中だった。

デン銀狐エドロワばつです」

 耳打ちする声で、ジョットがギリスに教えた。

 聞いたことある。

 ギリスはそう思った。

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