031 博士

 博士は菓子を見ると大変機嫌が良かった。

 ジョットたちが皆で一箱用意してきた菓子の紙箱を差し出して叩頭し、ご教授いただきたい旨の口上を述べると、年老いた官服の博士は頷き、にこやかにしていた。

 本や巻物がそこかしこに積まれた部屋の中央に博士のための文机と円座があり、その下座にいくつかの客座が用意されていた。戸口で叩頭したあと、ギリスはジョットたちと並んで、その客座に座っていた。

 博士は英雄たちの石のある顔を、満足そうに見回している。

「皆、元気そうで何よりだね。君たちはいつも賢く、礼節をわきまえているから、きっと立派な英雄になるだろう」

 何度も頷きながら博士は弟たちを褒め、遠慮なく包みを開いて菓子の箱を開けた。

「商業区のアットワースの菓子ではないか。遠いのにご苦労さんだったねえ」

「いいえ師父アザン、派閥のデンから師父アザンにお持ちするようにと頂きましたので、僕らは持ってきただけです」

 ジョットたちは控え目にそう答えた。博士はそれにも鷹揚おうように頷いていた。

「そうかそうか。君らの兄上デンはどなただったかな」

「エル・ユーレランです師父アザン

「英明なる紺碧こんぺきのユーレラン!」

 師父は円座に胡坐した自分の膝を叩き、やけに大声で言った。

「君は良い兄上デンを引き当てましたよ。良かったですね」

「はい……デンが僕の詩を気に入ってくださって」

 恥ずかしそうにジョットの一人が言い、それがどうも、この六人の親玉だった。通路で最初に声をかけてきたのも、このジョットだった。

 子供部屋にも序列がある。誰が誰より強いか、この王宮では厳格に定められているのだ。

 こいつがこの場でギリスの隣に座れるのも、このジョットが六人の中で一番強いからなのだった。

 ギリスはぽかんとして、やけにもじもじしているジョットの横顔を眺めた。

「君は詩作もするのかね。結構結構。今度持ってきたまえ、私も読んでみたい」

「いいえ、まだまだ全然、師父アザンのお目にかけるようなものでは」

 恐縮するジョットを好ましそうに頷いて見て、博士は箱の中の赤い菓子をぽいっと口に放り込んでいる。

 サクサクと軽い音がして、果物の匂いがした。

「これは美味い。エル・ユーレランによくよくお礼を申し上げておいてくれよ」

「はい。デン師父アザンにお懐かしいとお伝えしろと」

 ジョットがそう言うと、博士は菓子を食いながら頷き、軽く涙ぐんで、官服の長い袖で目頭を押さえていた。

「そうかそうか。君の兄上デンは良い生徒でしたよ。英雄譚ダージも素晴らしい。氷結術師でねぇ……」

 涙声で話す博士に、ギリスはそうなのかと驚いた。

 エル・ユーレラン。そんな奴が同じ派閥にいたか。

 しかも自分と同じ氷結術師とは。

 知っていても良さそうなものだが、ギリスにはその英雄の記憶がなかった。

 このチビどものデンなのだから、ギリスよりは年上の魔法戦士のはずだが、そんな先輩デンは派閥にいくらでもいて、いちいち憶えていられない。ギリスにはこれまで興味がなかったのだ。

 しかし、今後はそうも行くまい。新星の帰還式の行列に参加してくれる英雄を集めねばならない。

 その数、百名と、スィグルの出立式の時の記録にはあった。

 同じく百名をそろえねばならないのだ。

 晩餐で帰還式を命じる時に、族長は出立式と同様にと言った。

 玉座がそう言うのなら、それは絶対なのだ。今さら半分でいいかと聞くわけにもいかない。

師父アザン、そのエル・ユーレランていうのは、どんな英雄やつなんですか」

 ギリスは横から口を挟んだ。

 客座の中では一番良い、博士の向かいの席にいたギリスを、左右に座るジョットたちがじっと見上げた。

「エル・ギリス」

 菓子の箱を膝に持ったまま、師父アザンは急に怪訝けげんな顔になった。

「なぜ来たのだね? 君にはとおに修了を言い渡したはずだ」

「ちょっと用事があって」

 ギリスは率直に言った。その方が話が早い。無駄な長話は嫌いだと養父デンはいつも言っていた。話は単刀直入に限る。

「手土産は?」

 博士は難しい顔で言った。

「手土産?」

「久しぶりに会うのに手ぶらで来たのかね」

「博士に会うのにお菓子がいるなんて聞いたこともない」

 びっくりして、ギリスはつい大声で言った。

「そうだろうね。君は一度も持ってきたことがなかった」

 非難する目で博士が言ったので、ギリスはあんぐりとして、左右にいるジョットたちを見回した。

 皆、気まずそうに笑っている。何が可笑おかしいのか。

 ギリスは顔をしかめた。

「お菓子がいるならいるって言えばよかった」

「君はもういいんだよ。君の兄上デンが良くできた人で、いつも私の居室に良いものを送ってくれていた。まことに惜しまれる英雄エルだったよ」

 博士は自分の言葉に何度も頷いていた。

 イェズラムのことか?

 イェズの死が惜しまれることにはギリスは異論がなかったが、まさか養父デンが博士にお菓子を送っていたとは、ギリスはそんなことは想像もせずに、この学房に通っていた。

 それももう、ヤンファールよりも前のことになる。ギリスがまだ子供の声だった頃のことだ。

「私はこれから、君の聡明そうめいジョットたちに史学の講義をするのだが、その貴重な時間を割いて君と話すべき、どんな用があるのかな」

「スィグル・レイラス殿下が博士の講義をご所望です」

 とりあえず単刀直入にギリスは言った。

「それは私の仕事ではない」

 博士もきっぱりと答えた。

「なぜですか」

 なぜそんな即答で断れるのかとギリスは呆れた。

 別にタダでとは言わない。欲しいならお菓子を持ってくるじゃないか。そういう目でギリスは博士と睨み合った。

 しかし氷の蛇が睨みつけても、博士は一向にひるまなかった。

「レイラス殿下はご幼少のみぎりに、史学はもう修了なさっておいでだ」

「は?」

 ギリスは自分の知らない事実に驚き、そんな話は聞いたことがないと思った。

 王族も英雄たちも、宮廷の博士たちの講義を受けるのは元服後のことだ。それまでは別の、子供用の教師がいる。読み書きや弓術、算術や乗馬などを教える先生だ。

 部族では、ちゃんとした学問は元服した者の特権と考えられている。

「スィグル・レイラス殿下だろう? あの殿下はここにも勝手にお入りになり、私の蔵書の多くを勝手に読破なさっている。教える必要はない」

「何だよそれ」

 ギリスは驚きのあまり非難がましい声になっていた。

 それなら史学の博士にお菓子をやる必要などない。あいつは博士に何の用があったんだ。

 この博士じゃなかったのかと、ギリスは自分の選択の誤りを悔やんだ。

 とんだ時間の無駄だ。今夜、晩餐の席で新星に博士の手配を知らせるつもりだったのに。

「大抵どの学房でも同じだよ、エル・ギリス。あの殿下はご幼少の頃より頭抜ずぬけて聡明な方なのだ。それゆえに後宮にうとまれて、挙句あげくは人質に選ばれたのだから、もっと慎重になるべきだったね」

 博士はしたり顔で、いかにもそれが当たり前という口調だった。

「宮廷の博士たちには皆、あの殿下には教えるなと、後宮の方からきつい便りが来ているはずだ。スィグル・レイラス殿下は敵にくみした裏切り者ゆえ、部族の貴重な知恵や知識を与えるにはふさわしからずと、お妃様方はお考えだそうだ」

「は?」

 ギリスは心底から耳を疑い、身を乗り出して博士の顔を見た。

 髪には白髪が混じり、顔にはしわがある。同じ種族と思えなかった。

 英雄たちには老人はいないせいだ。

 デンたちは皆、若くして死ぬ。年老いた英雄はいないのだ。

 だからギリスには分かりかねた。そんなに長く生きたくせに、今さら後宮の女どもが怖いのかと。

 その高齢としでは、もはや惜しむ命など、ありもしないだろうに。

「恥ずかしくないのか。師父アザン……いやもう師父アザンなんて呼ぶかよ。爺い、スィグル・レイラス殿下は新星だ。次の族長になる殿下だ。それに部族の知恵や知識を与えられなくて、お前ら博士は何のために王宮でろくを食んでる」

 ギリスが啖呵たんかを切ると、ほほっと博士は気味よさそうに軽くのけぞって笑った。

「そりゃすごいね、君。実にすごい」

「すごいんだよ、実に」

 ギリスは険しい顔のまま同意した。それにも博士は面白そうに笑い、箱に残っていた赤い菓子を食べた。

 サクサクと菓子を噛む音がする間、博士は微笑のまま黙っていた。

 それが赤い舌で乾いた唇についた菓子の粉を舐め、ギリスの顔に目を戻してきた。

「君には言ったか忘れたが、私はリューズ・スィノニム殿下の戴冠式にも列席したのですぞ。この学房からの筆頭の席で」

「一番爺いだからだろ」

「そうではない。スィノニム殿下の師父アザンだからだ」

 甘いものを食いながらのくせに、爺いは渋い尊大な顔で言った。

 ギリスは顔をしかめた。

「族長は博士とは縁遠かったと聞いてる。イェズラムから」

 俺を騙せると思うなよというつもりで、ギリスは養父デンの名を出した。それで大抵の者は恐れ入る。

 これまではそうだった。

 しかし博士はしれっと答えた。

「そうとも。あのお方も殿下の頃には、誰ぞ高貴なお方から、リューズ・スィノニムへの教授は一切無用と学房にお達しがあったのでね」

 ギリスはさらに顔をしかめた。

 養父デンもそう言っていたので、その話は嘘ではないのだろうが、親子二代にわたってアンフィバロウの子らを愚弄するとは、今すぐ蹴倒してもいいような爺いだと、ギリスは少々の殺意に目を細めた。

 それでも博士はまだ嬉しげに菓子の残る箱を見ているばかりだ。

「そう険しい顔をするんじゃない。それでも当代はああして玉座に座しておられるのだから、君の殿下が新星というなら、少しはお知恵を見せられてはどうかね」

「どういう意味だ」

 持って回った言われ方をするのはギリスは嫌いだった。意味が分からないからだ。話は単刀直入にしてもらいたかった。

「ちょっと聞いてごらん。私に。リューズ・スィノニム殿下が、なぜ私を戴冠式で学房の筆頭の席をお与えになったのか、知りたいだろう、うん?」

 さあ聞けという顔で、博士は胸を張っていた。

 何かの謎かけなのか、爺いの得意顔の意味が分からず、ギリスは黙って困惑した。

兄者デン師父アザンのお好きなお話ですよ。お伺いした方がいいですよ」

 ギリスの横にいたジョットが、ひっそりと忠告してきた。うっすらと笑った顔で。

「なぜか教えろ」

「そんな聞き方では教えられんな」

 菓子食い爺いは偉そうに答えた。ギリスはムッとした。聞けと言ったくせに、どういう了見りょうけんだ。

師父アザン、僕らにも今一度お聞かせください。当代の黎明れいめいの物語を」

 急に叩頭して、ジョットたちが言った。皆、平伏して口々に、お教えくださいと爺いに強請ねだっている。

 それにあごを撫でて、爺いは上機嫌だった。

「良かろう。そう乞われては話さぬわけにもいかん。リューズ様と私には格別の繋がりがあったのだ」

 早く言えよとギリスは苛立って爺いを見た。

 それに爺いは差し招くような動作をし、それから頭を下げろと指で示してきた。

 低頭しろというのか。どういう事だ。

 ギリスは帰りたくなったが、それでも新星のためだ。ここで帰らぬ方が良い気がした。

 それで渋々、学房の絨毯に叩頭することにした。

「お教えください、師父アザン

 長老会仕込みの厳かさで、ギリスは頭を下げて爺いに頼んだ。

「良かろう。ヤンファールの氷の蛇のたってのご所望しょもうとあらば。この老官、そなたに分け与える知恵を惜しみはいたしませぬぞ」

「さすが師父アザン

 ジョットたちが口々に小声で言った。

「早く言えよ」

 ギリスは困って言った。

 それに咳払いして、それでももう話したいのか、博士は結局言った。

「スィノニム殿下は仮面劇と英雄譚ダージに目のないお方でな、ご幼少のみぎりより玉座の間ダロワージでの上演によくお出ましだった。柱の陰にな」

 険しい顔で、老博士は語った。

「私も英雄譚ダージには目がなくてね。子供の頃より部族の古い物語が好きであった。それゆえに今も史学の学房の座を温めておる。殿下はよく、私に英雄譚ダージの意趣をお尋ねになり、私は気の毒な殿下に書物をお貸しした」

「族長は字が読めなかったはずだ」

「その通り」

 老博士はもう笑ってはいない顔で、じっとギリスを見てきた。

「そうおっしゃった。字が読めぬゆえ読んで聞かせよと。私は殿下への教授は斬首とおおせつかっておりまするとお断りした」

「断ったんじゃないか」

「私も命は惜しい」

 いっひっひと爺いは笑った。

「だが、共に英雄譚ダージを聴くのならば教授ではない。皆が楽しんで聴くものだ。私は詩作が趣味でね。あいにくのヘボ詩人で宮廷詩人にはなれなかったが、詩人の友がいる」

師父アザンは部族の歴史書十八巻を全て詩篇に訳され、詩人に詠唱させて殿下にお聞かせされたのです。リューズ・スィノニム殿下はそれによって博士の知恵を授かられ、今や並ぶもののない名君におなりです」

 我慢しきれぬというように、急に後ろにいたジョットが興奮した大声で言ってきた。

「これ……君、先に全部言う奴があるか……」

 ひどくガッカリしたように、お菓子の爺いは上座で肩を落とした。

「歌ったの……十八巻ぶん?」

「全てではない。通史の要所要所をな」

 箱に残っている菓子の最後の一個を食べ、博士は美味そうにそれを噛んだ。

 食い終えて紙箱を脇へやると、爺いはまた意地悪そうな狡猾こうかつな顔でギリスを見た。

「レイラス殿下はお父上とは違い、書物はお読みになるのだろう。それにご自身で歩くこともおできになるはず。それなのになぜ君がここに来た」

 爺いの嫌味ったらしさにギリスは口を尖らせた。そんなのわざわざ聞くようなことか?

「なぜって、俺が殿下の遣いだからだ。王族がいちいち自分で来たりしないだろ」

 ギリスはもっともなことを言っているつもりだった。王族が博士の講義を受ける時は、博士の方が王族の居室へやを訪ねる。叩頭するのは爺いのほうだ。

 それなのに、この爺いは何を言っているのか。

 そういう目で見返すと、老博士はまた、いっひっひと笑った。

「その殿下のお父上は、王族でありながら、教えを乞うためご自身でこの老官に叩頭なされたのだぞ。そのお子である殿下が、手ぶらの君ひとりを遣いによこして済ませようとは、玉座に対し不敬であろう」

 面倒くせえ。

 ギリスは王宮の空気を噛み締めた。

 ここはそういうところだ。

「あんた、後宮の女どもが怖いんだろ」

「ああ怖いとも。私も命をかけるのだから、殿下もご自身で向学心をお示しになるべきだ。そうでなくては、王宮ここで人を動かすことなどできないよ」

「そう言っていいのか、あいつに。俺はそのまま言うぞ」

「好きにするがいい」

 ふふんと笑って、博士はギリスの脇にいたジョットたちに目を向けた。

「悪いね。君らの学問の時間を長々と無駄にして」

「いいえ師父アザン、僕らにも良い勉強になりました」

「君らにとっては今日のことは未来の歴史となるやもしれないね」

 老博士がそう言うと、弟たちはにこにこしていた。

「ところで君の兄上デン、英明なる紺碧のエル・ユーレラン。君は彼の英雄譚ダージを知っているだろうね」

「はい。勿論です。僕のデンですから」

 当たり前だと言うように、ギリスの脇にいたジョットが答えた。

「彼はね、とても苦労したんだよ。生来の魔法がそれほど強くはなかった。氷結術を使い放題のヤンファールの氷の蛇のようにはね」

 ギリスを前にして、老博士は悪口を言っているようだった。

「彼の英雄譚ダージに、慧眼けいがんなる灰色のエル・ダージフが登場するね」

「僕のデンです」

 ずっと物静かだったジョットの一人が、恥ずかしげにギリスの背後から老博士に伝えた。

「そうかそうか。それは大変結構だ。彼も賢明な英雄エルですよ。透視術師だ、そうだね?」

「はい。そうです。僕も同じです」

 恥ずかしそうに小声で答えるジョットの顔に、ギリスは見覚えはあったが、子供時代の大部屋でのことだった。何の術を使う奴なのか、今初めて知った。

「そうかそうか。それは良かった。エル・ユーレランは氷結術師だが、魔法の射程がずいぶんと限られていた。それゆえ彼の友、透視術師のエル・ダージフは魔法の目によって敵の守護生物トゥラシェの乗り手の位置を見定め、エル・ユーレランはそれを友から教えられ、一撃必中の氷結術で敵の乗り手の息の根を止めたのです。でも守護生物トゥラシェに登らないといけないんだよ。怖いよねえ。でも君たちの兄上デンは賢く勇敢だった。それゆえに友情を讃える英雄譚ダージに詠まれた。君たちもそのようでありなさい。個々の魔法がどんなに強くとも、一人が独力で行えることには限りがある。それを皆に教えるのが、詩人たちの詠う英雄譚ダージなのだよ」

 いつ息をしているのかと、ギリスは老博士の朗々たる長台詞ながぜりふに驚きながら聞いた。

 一息でこんなに長く話せる爺いがこの世にいたとは。

 エル・ユー何とかの氷結術がしょぼいらしいことも分かった。だからギリスは知らなかったのだ。

 魔法戦士の序列はおおよそは年齢で決まるが、それは宮廷での建前で、一歩戦場に出れば魔法の強さが序列を決める。ギリスの前を走れる者は誰もいなかったのだ。おそらく、イェズラムの他には。

「エル・ギリス。君はもっと仲間の英雄譚ダージを聴くべきではないか? 新星の射手なのだろう」

 さらっと当たり前のように老博士が言うので、ギリスは目を見張った。

 言ったっけ、それ?

 誰が射手かというのは一応、魔法戦士の間だけの秘密で、長老会が人選して決めている。そんなものがいるとは、石のない連中は知らないはずだった。

「なんで知ってる」

「知ってるわけはない。当てずっぽうだよ。エル・イェズラムが君に万事をよく教えるよう私に頼んでいた。君は良い生徒ではなかったがね?」

「そんなことないだろ。史学十八巻、全部憶えた」

「そんなことは馬鹿でもできるのだよ」

 いっひっひと笑って、爺いは気味が良さそうに言ってきた。

「君がもう一度、私から習いたいなら、菓子を持ってきて叩頭するのだな。その後、ここで聞いた私の話を君が誰に話そうと、私は知らんよ。英雄に教授するのは私の役目で、後宮からお指図のあることではなかろう」

 そうだろうと言うように目配せしてきて、老博士は催促するように手を差し出してきた。

「美味い菓子を持って来たら考えてやるぞ、エル・ギリス。また一から学び直しなさい」

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