第59話 王妃の居所

「シエタ兵とクーデターを起こした魔法兵との争いに巻き込まれたそうだが……こちらから行ったメンバーは、無事帰ってこれたのか?」

「数人の護衛騎士と外交事務官、壊されたらしい大型ゴーレム2体は戻ってきませんでした。皇太子やお供の侍女たちは、転移陣で戻ってこれたと聞きました」


 皇太子は、シエタ兵にもみくちゃにされていたが、どうやら、なんとか逃げ出せたらしい。

 あのゴーレムの不快な音への対策を、あらかじめしていたのだろう。あの音のせいで、シエタ兵の動きが鈍ってしまっていた。その隙に、国王陛下と王妃が連れ去られてしまった。


「これは、内緒にしてほしいんですが……」

 コイルが、声を潜めた。俺たち以外、誰もいないから、別に小声で話す必要はないんだが。

「シエタの国王夫妻も、いっしょに連れてきたらしいのです……」

「――本当か!? 驚いたな。よく連れ出せたな」

「ええ、シエタ兵たちにやられた皇太子殿下が、何の成果もなく帰るわけにはいかないと、無理やり連れ帰ったらしいです」


「しかし、シエタの王族が黙っていないだろう。わたしも知っているが、珍しく王族同士が仲の良い国だぞ」

 コイルは、眉をよせ、両手を広げた。

「副宰相たちは、どうするんだと、騒いでいますが、モロ宰相は動じていません」

「しかし、シエタとの戦争になりかねん……そういう心配はしないのか?」

「どうも、北のアルカナ神国と何らかの約定があるらしく、モロ宰相は、余裕の態度をとっています」


「そんなこと、わたしにいっていいのか? 機密事項じゃないのか?」

 コイルは笑って、リンダを制するように開いた右手を顔の前にかかげた。

「いやいや、――こんな情報、王宮内の人間は、みんな知ってます。さすがに、外の平民に知られると、まずいですが。あなたが、洩らすわけないですし――」

「……そうか、それならいいんだが。地下室にでも閉じ込めているのか?」

「そんな滅相もない。賓客用の部屋に泊まってもらってるそうですよ」

「そうか。上の王女殿下の警護をまかせられたことがあってな。その時に会って、印象がよかったんだ」

「ああ、世話をしている侍女たちも、優しい方々だと、評判は悪くないですよ」


 リンダの声が少し高くなった。

「ほお……侍女たちと親しいんだな。確か、ミール王の趣味で、かわいらしい娘が多かったな」

 コイルは、あわてた。

「いや、わたしの待機室が、侍女たちの休憩室に近いだけですよ。廊下を通っていると、話し声が漏れ聞こえてくるんです」

 リンダは、クスクス笑った。

「ちょっとからかっただけだ。貴兄が真面目なのは、知っている」 

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転移したら、負債を押しつけられてしまった ブルージャム @kick01043

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