第57話 世間話

 リンダは、咳払いをして、

「実は、シェラの王都で、ちょっとしたゴタゴタがあってな。それで、この国に来たんだ」

「魔法兵と北の辺境伯の反乱ですな。――聞き及んでおります」

「私は、王族と親しくしていたせいで、反乱軍から、あまり信用されてなくてな」

「なんという! あなたほど、誠実な方はいないのに!」

 男は、怒りの声をあげた。その真剣さは、本物だった。


 やはり、この人は、リンダに惚れている。リンダの方は、どうなんだろう。利用するだけだといっていたが……。

「それで、しばらく、こちらに避難しようと思ってな。私は魔法兵ではあるし、結局、王家と辺境伯、どちらの側からも、うとまれてしまってる。故郷の情勢が落ち着くまで、ミールに滞在させてもらってよいかな?」

 リンダは、普段、聞いたことのない遠慮がちな言い方をしている。


「事情を知らせてくれれば、国境まで迎えに行きましたのに……。リンダ殿なら、いくらでも、こちらに居てかまいません。文句をいう奴がいるなら、私にいってきてください。そういう輩は、永久に排除します!」

「ありがたい! これで、安心して、ここで暮らせる」

「宿は、お決まりですか? 何なら、ここに滞在していただいても……」


 リンダは、あわてたのか、甲高い声をあげた。

「いや、そこまでしてもらわなくても……。これでも、長年勤めてきたんだ。一ヶ月やそこらの宿賃ぐらいは、持ってる」

「そうですか……」

 男は、がっかりした顔で、続けた。 

「――そちらの方は、従者の方ですか?」

 シェラの存在に、まるで初めて気づいたかのように質問する。


「ああ、いまの私の弟子だ……従者のように世話を焼いてくれてもいる。――ああ、紹介しておこう。シェラという。男爵家の子女だが、ゴーレム好きで、家を出て私のもとで修業している」


 シェラは、立って、深々と頭をさげた。

 王城を抜け出して、よく市中に出ているせいだろう。身分の低い者の動作が板についている。――というほど、俺も、この世界の貴族のあいさつなどには、詳しくないが、相手は自然に受け入れているみたいだし、ちゃんと演技できているようだ。

「――ああ、座って。私は、コイル・マーシャル・モームだ。コイルと呼んでくれたまえ」

 俺は、さすがにゴーレムだから、紹介はされないなと思っていると、

「そのゴーレムが、リンダ殿の最新作ですか?」

 と、注意を向けてきた。

 普通のゴーレムより、細身だし、人体変成で、皮膚の色も青味が減り、より人間の皮膚の色に近くなっている。コイルの眼には、不思議なゴーレムにみえているのかもしれない。


「ビエラ師匠の作だ。私は、ここまで人間に近いものを、まだ作れない」

「ビエラ殿の作品ですか! 私も、いつか、ビエラ殿に会ってみたいものです」


 そろそろ、本題に入ってもよい頃合いだった。シェラが、じれているのか、両手を腹の前に置いたまま、もぞもぞ肩や尻を動かしている。


「ビエラ師匠は、居場所が、なかなかつかめない。あの人は、災害からの復旧や防止のために、国中を飛び回っているから」

「残念です。シエタに行く機会があったら、ぜひ会いたいと思ってたのですが……」

「いずれ、会う機会もあるさ。ゴーレム使いを続けていればな。――ところで、こちらの王宮の様子はどうだ……相変わらずか?」

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