第47話 王都

 シェラは、衣装を素早く選んだ。着ている服を脱がずに、重ねて身につけた。

 俺が立ってみていると、

「コウヘイも、早く!」と、いいながら、大きめの衣装を選んで、俺の頭の上からかぶせた。

 女物の服だと抗議すると、今はこれしかないからと、無理やり着せられた。


 ふたたび、地下倉庫に戻ると、シェラは、倉庫の出入り口の引き戸に顔を寄せ、外の様子をうかがった。

 たぶん、探知魔法だろう……何かの呪文を唱えると、その姿勢のまま、しばらく眼をつぶっていた。

「外は、大丈夫みたいよ……」

 シェラは引き戸の右側の壁、周囲より少し色の薄いブロックに、手のひらをあてた。引き戸が、ゆっくりと開いた。


 倉庫の外は、すぐ前が左右に広がる石の廊下だった。左のほうに、上に向かう階段がみえる。

 俺は、魔力で強化された聴覚をフルに使い、階段を上った場所の状況をさぐった。

 石畳の道を走る馬車の車輪の音、道を行き交う人々の靴や草履の音、馬や牛のひづめの音。

 雑多な音が、王都の繁栄を表しているようだった。


 ――特に、問題はないな。

 俺は、階段のほうを指さし、シェラに合図を送ると、ふたりで階段を上った。

 上った先には、隙間から光がもれている木製の両開きのドアがあり、外の様子をうかがいながら、慎重にドアを開けると、いきなりまぶしい陽のひかりと、喧噪のなかに踏み込んだ。


 

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