第46話 逃亡
シェラは取っ手をつかむと、呪文を唱えた。
魔法陣が、一瞬オレンジ色に輝いた。
シェラは、取っ手をひっぱる。わずかに板が持ち上がった。
俺もよこから、シェラの手に重ねるようにして取っ手をつかみ、一緒にひっぱった。板が、はめ込まれている
入り口から射し込む、わずかな明かりで、かすかに穴の底がみえた。
すぐに入ろうとするシェラを制して、俺は、なかに飛び込んだ。同時に、穴の内部の壁全体が、黄緑色の光を放ちはじめた。ホタルの発する光に似て、熱さを感じさせず、柔らかい光だ。
アーチ状の天井を持つ地下通路が、かなり奥まで続いている。光る壁の範囲は定められているのか、通路の先は、途中から真っ暗で、その先がどうなっているのか、どこまで続いているのか、見当もつかなかった。
シェラが壁のでっぱりや、とこどころにあるへこみに、器用に手や足をかけながら、降りてきた。一番下のでっぱりから、えいやっとばかりに飛び降りたシェラを、何とか受け止めた。
あいかわらず、軽い。ろくにモノを食べていないんじゃないだろうか?
「入口には、
俺とシェラが入った入口に、ふたたび蓋がはめられていた。蓋の裏側にも、魔法陣が描かれていた。魔法を使った名残か、かすかにオレンジ色の光を放っており、みているうちに消えた。
「魔法で、あの持ち上げたブロックも元にもどっているはずよ。樽を動かしたのがわかっても、よほど、魔法の解析に長けた者じゃないと、あの入口はわからないわ」
シェラは、いいながら、俺の手をひっぱり、通路の奥に進んだ。俺が、またかかえあげようとすると、顔を赤くして、いいからと断られた。
通路の壁は、人が通るときだけ光るらしく、真っ暗にみえたところまでくると、壁が光り、ある程度離れると、光が消えた。明かりを気にすることなく進めたので、出口に着いたとき、意外に短い通路だと感じた。
シェラは、疲れたのか、肩で息をしている。俺の歩く速度に合わせたからだ。
だから、かかえていこうとしたんだが。
出口は、普通の木製のドアで、開けると、どこかの地下室だった。
地下の倉庫として使われているらしく、俺の世界の柿や栗、梨によく似た果物類が、五カ所ほどにわけられ、うず高く積みあげられていた。
天井の数か所から、魔法で灯された熱を持たない光を発しているランタンのような物が、ぶらさがっている。
「シェスタ大通りに面した、商家の地下なの」
シェラは、俺を先導するように、前に立って広い地下室の壁際に行き、壁のブロックのひとつに手を置いた。
直前まで、その壁には、何もなくブロックが並んでいるだけだった。壁の何も穴など開いてないところに、小さな木製のドアが現われた。
シェラが、そのドアを開けて、なかに入ってゆく。
俺も、シェラの背に張りつくように、警戒しながら、ついてゆく。
「ここで着替えてから、外に出るの」
その小部屋には、女性用の衣装がかけられた衣紋かけのような家具が、壁に沿って並んでいた。部屋のどこにも、次の部屋に通ずるようなドアはなく、四畳半ほどの室内には、衣装と、荷物を入れるためのひも付きの革製の袋しかなかった。
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