第45話 抜け道

 俺たちの隠れている林の木が燃え始めた。魔法兵のなかに、手あたり次第、魔法で火をつけまわっている者がいるようだ。

「シェラ! 案内してくれ!」

 俺は、シェラを身体の前にかかえて、林から飛び出した。


 遠くにみえる人影が、こちらをみて、何か叫んでいる。

 見張塔の前に立っていた歩哨は、俺たちが突進してくるのをみると、身の危険を感じたのか、あわててよけた。

 見張塔の扉は、戦闘中のため、開けっ放しになっており、俺は、スピードを落とさず、なかに突っ込んだ。


 入ってすぐ左側にある地下への階段を、シェラをかかえたまま、駆け下りた。

 シェラが、かかえられたまま、魔法で小さな火を作りだし、壁にぶら下がったカゴのなかの松明に火をつけた。

 油の焦げたにおい。

 地下室が一気に明るくなった。

「もう、降ろして……」

 シェラが、少し頬を染めて、俺に抗議した。

 俺は、あわてて、シェラを降ろした。ゴーレムになってから力がついて、シェラ程度の体重なら、かかえていることを忘れてしまうのだ。


 地下室は、一見すると、倉庫のようで、木製の箱や布袋が雑然と積み上げられている。酒樽のようなものも並んでいて、のぞきこむと、ぎっしりと矢が詰め込まれていた。

 壁際には、刃に覆いをかぶせられた槍が、壁から突き出た石のかどに、何本も立てかけられていた。


 シェラは、石の床を、なめるように見つめ、地下室を一周した。

「入口はどこだ?」

 俺は、待ちきれずに訊いた。

「ちょっと待って。せかさないで――」

 シェラは、もう一周すると、壁際に寄せられた樽のひとつを動かそうとした。が、重いのか、動かない。


 俺は、手を貸して、樽をよこにずらした。

 シェラは、しゃがみ込んで、四角い石のブロックの端を指さした。

「これをはずして!」

 俺は、ブロックの端のわずかに欠けたへりに指をかけた。


 ブロックがわずかにより、ななめに上がった。穴が開いているかと期待していたが、金属製の板が姿をあらわした。その中央に四角いへこみがあり、へこみの中に取っ手が作られていた。

 松明の明かりだけでは、みにくかったが、その取っ手のあるへこみを中心に、うっすらと魔法陣が描かれていた。

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