第43話 追跡

 俺は、ゴーレムとして持っている魔力の半分を、足の速度強化に振り分け、同じように出口を走り抜けた。

 会場の外では、辺境伯の私兵とシェラ兵たちが、そこかしこで争っており、怒号や悲鳴、剣や盾のぶつかりあう金属音が、天まで届けとばかりに響いている。


 ランガの姿はみえなかったが、彼の魔力は、ゴーレムの俺の眼には、前方の魔法兵の待機所まで、糸を引くように伸びているのがみえる。

 待機所の入り口にたどり着き、無理に入ろうとすると、全身が跳ね返された。全身の力を込めれば込めるほど、強く弾かれる。結界の一種だろうか? 透明な粘膜のようなものが扉を覆い、どうにも突破できない。


 俺は、正面から入るのをあきらめ、建物の右にまわって採光口を探した。屋根のすぐ下の壁に内側に開けられた採光口があった。

 俺は、すぐさま飛びあがって、採光口の枠に両手をかけた。せりあがって、枠を蹴りつける、木製の枠のもろい部分がはがれ落ち、かろうじて通れるくらいの隙間があいた。

 強引に身体を突っ込んで、後頭部や背中が削れるのをかまわず、通り抜けた。


 狭い廊下に飛び降りると、見失っていたランガの魔力が感じられた。

 ――こっちか!

 俺は、細長い廊下に面した扉のうち、一番大きな扉に体当たりした。今度は問題なく、扉を跳ねとばし、室内に走りこんだ。


「コウヘイ!」

 シェラが、悲鳴のような声で、俺の名を叫んだ。

 とっさに、ふせて右に転がった。


 俺のいたところを、巨大ゴーレムの腕が通り過ぎた。

 ゴーレムの肩の上には、ランガがいた。

 奴のゴーレムは、あの一体だけではなかったのだ。

 シェラは、ゴーレムの後ろの壁際で、数名の魔法兵に拘束されている。


 ランガが俺を指さし、何かをつぶやいた。

 巨大ゴーレムの口が丸い穴のようになり、首の前面、人間なら喉ぼとけのあたりが、ボコっとふくらみ、突き出た。


 耳を突き破り、脳の奥にキリキリ食い込むキーンという音!!!

 さっき会場で聞いた音の、何倍もの音響が襲ってきた。どうやら、音には指向性があり、俺だけに向けて、音を集中している。

 身体全体が細かく振動し、放っておくと、全身が細胞単位に分解されそうだった。


 見上げると、巨大ゴーレムの眼と額の魔法陣が紫に光っている。

 このゴーレムは、俺を敵と判断し、音響を、敵のみに絞り込み攻撃する知能を持っているのだ。

 振動する身体は重く、音をよけなければならない事がわかっていても、ひどくゆっくりとしか動かせない。


 俺は、じりじりと身体を動かし横に移動したが、攻撃音も俺を追ってくる。かろうじて手の先が、音響の外に出たが、そのときには、巨大ゴーレム自体も、迫ってきて、眼の前にいた。


 ゴーレムは両手を合わせ、叩きつけるように俺に振り下ろした。

 そのとき――。

 激しい音がして、シェラの拘束されている後ろの壁が、きしむような音をたてて、ねじれ、崩れた。

 そこには、別の巨大ゴーレムがいた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る