第42話 反撃

 このまま、シエタ兵たちの逆襲が成功しそうだった。

 が、部屋の一方の隅から、悲鳴があがった。

 シエタ兵が、何人も宙に舞った。一体のゴーレムがシエタ兵たちに襲いかかり、手当たり次第に跳ね飛ばしている。

 そのゴーレムの喉で、キーンという、耳の奥まで響く高い音が鳴っている。

 音は会場中に響き渡り、大勢の人間が耳を押さえ、うずくまっている。


 ……なんだ、これは?

 脳を突き刺すような音に、全身に行き渡らせていた魔力のバランスがくずれ、倒れそうになった。

 俺の手を握ったまま、シェラも座りこんだ。 

 ゴーレムより、人間への影響がひどい。

 俺は着ていた給仕用のベストを急いで脱ぎ、シェラにかぶせた。


 これで、少しは、異常音への防御になるだろうか……。

 シェラに、ここで待っているようにいい、暴れまわっている敵――リンダが、昔同僚だったと漏らしていた、ランガの連れてきた大型ゴーレム――へと、突進した。


 ゴーレムは、突進する俺のことがみえているはずだが、まったく意に介さず、まわりのシエタ兵をなぎ払い、二、三人の腕をまとめてつかみ、宙に放り投げた。落ちた兵士たちは、首が変な方向に曲がり、動かない。ゴーレムは、横たわったままの兵士たちを、力まかせに踏みつける。骨や肉がぐしゃっとひしゃげる嫌な音が、俺にまで聞こえる。


 俺は、ゴーレムの手をかいくぐり、ゴーレムの片足に、全身をぶつけた。

 ゴーレムは、耐えきれず、よろめいた。俺は、すかさず、よろめき傾いたのとは反対側の足先を両手でつかみ、勢いよく持ち上げた。


 ゴーレムから、また耳をつんざくキーンという音が放たれた。が、そのまま、足を持った俺もろとも倒れ、床に激突した。


 俺は、つかんだ足先を放さず、強引にねじった。ゴーレムが起き上がろうと、手足を振りまわした。

 ゴーレムが、もがいて、俺のねじりとは逆方向に足をまわそうとしたとき、破砕音がした。ゴーレムの足首から先が、醜い切断面をさらし、はずれた。


 俺は、取れてしまった足先を放り投げ、ゴーレムの頭部に向かい、走った。

 ゴーレムは、倒れた側の肩も破損しており、片腕が動かなくなっていた。

 ゴーレムの振り回す、残った手をかいくぐり、いまだに音を発し続けている喉を蹴った。

 ぐしゃっという音がして喉の部分に、ひび割れとへこみができた。が、まだ音は止まない。もう一度、力をこめて蹴った。また、ぐしゃっと音がして、そこに穴があいた。

 ――音が止まった。


 ゴーレムの顔を覗くと、額の魔法陣が鈍く光っている。

 やはり、これがあるおかげで、ゴーレムの知能が向上し、兵士を見分け、シエタ兵のみ殺してまわっていたようだ。


 魔法陣から漂い出る、魔力の流れを感じた。それを追ってゆく。

 と、背中をみせて逃げる魔法使いらしき男の姿があった。

 ――あぶない!

 男の逃げる前方にシェラがいた。まだ、音の影響が残っているのか、俺の方をみて、ぼんやりと立っている。


 男は、シェラをみると、何かを叫んだ。呪文のようだ。

 シェラが倒れた。男は、シェラを肩にかつぎあげると、シエタ兵の固まっている出口に突進する。


 俺も追うが、あと一歩のところで、追いつけなかった。

 男はシェラに刃物を突きつけ、人質にしてシエタ兵を制し、出口を走り抜けた。

 魔法兵に、これほど動きまわれる体力が、あるはずがなかった。身体強化魔法を使っているのだ。

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