第41話 脱出開始
俺は、各テーブルに料理や皿や酒杯を配りながら、シェラの様子を窺った。
辺境伯が台の上に立ち、両国の王族のあいだで、婚約が成立したことを、喜ばしいことだと延べた。そのあと、ミール使節団の重鎮と思われる太った初老の男が、同じように婚約を祝い、末永く両国が良い関係であることを願うと延べ、杯をかかげて一気に中身を飲み干した。
それに呼応するかのように、会場中で飲み食いが始まった。
ミール皇太子とシェラが台にあがり、挨拶をする。盛大な拍手の音が響く。この世界でも、両手を打ち合わせる動作の意味は、あまり変わらないらしい。
ミールの皇太子は背の高い、かん高い声の持ち主で、興奮しているのか、早口で勢いよくしゃべり、何をいっているのか聞きとれなかった。
シェラは、こわばった表情で、二言三言、しゃべると、あとは、台の奥に引っ込み、皇太子と辺境伯が、これからのシエタ王国とミール王国の発展について話すのを、黙って眺めている。
俺には、シェラが、少しも楽しんでいないようにみえた。このまま、婚約を進めていいとは思えなかった。シェラのために、俺にできることはないのだろうか?
その時――。
会場の外で、誰かが叫んでいるのが聞こえた。
耳を突き刺すような爆発音!! 閉まっていた出入口が吹き飛び、どっとシエタの兵隊が突入してきた。
俺は、まわりをみた。入ってきたシエタ兵に、皆、注意が向いている。
――よし!
俺は、シェラと国王、王妃がいる部屋の北側の台に近づいた。
台の上の者たちは、突入してきたシエタ兵に、気をとられている。
いまが、チャンスだった。
俺は、台の上に跳びのった。
気づいたミールの皇太子が、俺に向かって手を伸ばした。俺は、手をはねのけ、皇太子を突き飛ばし、強引にシェラに近づいた。
シェラがこちらをみて、大きく眼を見開いた。
「――行こう!」
俺は、シェラの手を握った。
シェラは、一瞬、迷った表情をした。が、すぐに真一文字にくちびるを引き結ぶと、王と王妃の方に振り向いた。
「――行きます!」
王と王妃は、何もいわず、うなずいていた。
俺もギギギと音をさせながら、王妃たちに向かって、頭をさげた。
ミールの皇太子が、何か叫びながら、俺に向かって、抜いた剣を振り下ろした。
俺は、片手で剣をつかみ、刃を折り曲げながら、剣と皇太子を振りまわした。
無謀にも、皇太子は剣から手を放さず、その場に踏ん張り続けようとした。
俺は、剣と剣を放さない皇太子もろとも、宙に持ち上げ、台の下に放り投げた。台の下は、突入してきたシエタ兵たちで埋まっている。皇太子は、兵たちに気づかれ、もみくちゃにされ、みえなくなった。
皇太子の相手をしているあいだに、辺境伯とミール使節団の団長らしき太った男は、姿を消していた。
俺は、台の上にあがってこようとしているミール使節団の護衛兵たちを、振りまわす腕と足蹴りとで、叩き落とした。
会場内は、シエタ兵が、徐々に優勢になっていき、辺境伯の私兵や傭兵は、床に倒れ伏して、動かなくなっていた。
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