第40話 婚約パーティー

 ゴーレム室に、パーティー用の正装をしたリンダがやってきて、3体の大型ゴーレムと等身大ゴーレム(コウヘイ)を連れ出した。

 会場には、別の魔法使いが連れてきた軍用大型ゴーレムが一体待っており、リンダのゴーレムと合わせて4体の大型ゴーレムが、会場の四隅に立ち、護衛の任を果たすことになっていた。


「よう! ひさしぶりだな」

 ゴーレムを連れてきた魔法使いが、リンダに声をかけてきた。

 耳からあごに大量の髭をはやした黒髪の中年男だった。

 ニヤニヤして、どこから手に入れたのか、すでに酒の入った金属製の丸く細い杯を持っている。

「ランガか。――ミールとの国境の守備についていたのではなかったのか?」

 ランガと呼ばれた男は、酒をぐいと煽りながら、

「――なに、ずっと前に戻ってたのさ。部隊長の命令でな」


 リンダは、眉をよせた。ランガとは、ビエラのもとで、ゴーレム魔法をともに学んだ仲だ。昔は、ひょろひょろとした痩せた、自信無げな奴だったが、大型ゴーレムを扱うようになってから、態度が大きくなった。

 ビエラ師匠も、あまりの傲慢さに、こいつの指導をあきらめて、別の部署に配置換えさせようとした。だが、有力貴族を親戚に持っていて、結局、ゴーレム部隊から出せなかった。


 こいつに生半可な知識を持たせると、重大な事故を起こしかねないと、ゴーレムの生成や加工の魔法は教えず、中級程度の操作魔法しか教えていなかったはずだ。

 こいつは、反省もせず、そのことを、ずっと不満に思っていたようだ。


「俺のゴーレムをみたか?」

「まだよ」

 リンダはランガのゴーレムには、興味がなかった。ビエラ師匠ならともかく、それ以外の人間で、この国で、自分が作ったゴーレム以上のものを作れるものはいないと信じていた。ランガ風情に作れるわけがなかったから、みにいく必要もなかった。


 ランガは、また、杯をあおった。飲みすぎると、護衛任務に支障をきたす――注意するか迷っていると、盛大なげっぷとともに、くさい息を、吐きかけてきた。

「俺のゴーレムは、あんたらのモノとは、まるで違う。いまのうちにみとくんだな」

 リンダが、臭い息から逃れようと後ろを向いた隙に、ランガは、いなくなっていた。


 くやしいが、いまのひと言で、ランガのゴーレムに興味が出てきた。

 リンダは、目的のゴーレムが立っている会場の西側の隅に向かった。ランガのゴーレムが割り当てられた場所だ。


 一見すると、リンダたちが作るゴーレムと同じタイプにみえる。ビエラ師匠が作り始めたゴーレムのタイプをビエラ型とすると、これも同型に入るだろう。

 違いは、リンダたちのゴーレムが上下の衣服を身に着けているのに対して、下半身にズボンしか身に着けていない、あと、額に小さな魔法陣と、そのうえに眼のような印が描かれているところだろう。


 魔法陣からは、強い魔力が感じられる。額にあるということは、ゴーレムの知能を高める働きがあるのかもしれない。

 ランガが独自に工夫したものだろうか? いや、奴にそんな才能はなかった。ビエラ師匠やリンダのやっていることを、なぞっているだけだった。自分で魔法の工夫をしたところなど、みたことがない。


 シエタ王国以外で、ゴーレム魔法が、特に盛んなのは、ミールだ。西の国境警備をしているときに、ミールから魔法技術を得たのだろうか? 奴の実家は中央貴族で、裕福だったはず……金にあかせて、本来なら国外に出せない魔法技術を、こっそり買い取った可能性もある。


 リンダは、弟子と一緒に入口近くに待たせていた「コウヘイ」を呪文で呼んだ。「コウヘイ」には、弟子に命じて給仕服を着させてある。ほかのゴーレムより細身だし、人間の給仕に混じっても、目立たない。


 魔法軍の反乱で、王宮に務めていた召使いたちは、ほとんどの者が逃げ出してしまった。人手不足に悩まされている給仕頭から、疲れ知らずのゴーレムを、何体か貸してほしいと頼まれていた。


 リンダの支配下にある等身大ゴーレムは、すでに他の作業用に、貸し出してしまっていて、使えるゴーレムは、「コウヘイ」しか残っていない。

 あれから観察していたが、王女殿下に接しない限り、異常な行動を起こすことはないようだ。明確な指示さえ出していれば、パーティでの給仕ぐらいなら、問題ないだろう。


                  *


 俺は、リンダに呼ばれて、パーティー会場のなかに入った。

 王女殿下のファンだといっていた若い弟子も一緒だった。リンダは呪文を唱え、俺の頭の内部に、彼女の声が響いた。弟子の指示通りに動けという命令だ。

 俺は、命令に従うフリをする。

 リンダの弟子は、会場の端っこにある料理エリアに入ると、料理係に混じって、器にスープや煮物をついで、客に手渡しながら、俺に料理を盛った大皿を、各テーブルに配るよう指示した。

 ゴーレムの扱いはさすがに慣れていて、俺の目線に入るように、身体をそのテーブルに向けさせ、人差し指で示した。おかげて、間違うことなく、各種料理や酒、お手拭きを各テーブルに配ることができた。


 各テーブルに料理と酒が行き渡った頃、入口の方で、ざわめきが起こった。

 ミールの皇太子とシェラが、並んで入ってきたのだ。その後ろに、ミールの国旗を掲げた使節団が、ぞろぞろと続いている。

 シェラの入場したのとは反対側の、別の入り口から、国王と王妃がやはり並んで入ってきた。

 手は縛られていないが、似合わない礼服を着た険しい顔の、ひと目で軍人とわかる者たちが、それぞれの背後についている。 



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