第39話 婚約準備
いよいよ婚約披露の日が来た。
クーデターで国王と王妃が幽閉されているので、反乱軍の幹部とミール王国の皇太子とお供を呼んだだけの、小規模なパーティーとなるようだった。
俺の大型ゴーレムの方の身体を、リンダの弟子たちが、念入りに掃除していた。
ホコリや塵が、ゴーレムの身体に付くので、定期的に掃除をしているが、それに加えて、今回は婚約パーティーの護衛として、会場の四隅に立つことになっている。
来訪したミール国の重鎮たちに、汚れたゴーレム体をみられたら、何をいわれるかわからない。――王女殿下に恥をかかせるわけにはいかないと、俺のわきの下や指の間、足裏のみえないところまで、力を入れてこすっていた。
静かな部屋には、モップと大型ゴーレムの肌のこすれ合う音だけが、ざざざ、ざざざと響いている。
「王女殿下、大丈夫かな?」
弟子のひとりが呟いた。前からシェラのファンだと公言している、あの若い弟子だった。
「大丈夫じゃないだろ。女性蔑視の国に嫁ぐんだからな」
「婚約の話、断れないのかな?」
「断れるわけがない。ミールの奴らが怒って、戦争になりかねん」
「わかってるんだけどさ……」
若い弟子は、溜め息をつくと、ふたたび俺の身体を拭き始めた。
年輩の弟子は用を足してくるといって、部屋を出たが、トイレには行かず、中庭に幾列もならんでいる、濃い緑の葉がまぶしいくらいに光る、観賞用の低木の茂みに潜りこんだ。
茂みのなかには、枝を打ち払って、ひと一人がしゃがみこんで座れるくらいの空間が作ってあった。
男は、ふところから、たたみ込んだ布切れを取り出し、足下の地面に広げた。その布には、複雑な魔法陣が描かれていた。
男は、小声で呪文を唱えた。
魔法陣のうえに、ぼんやりとした人の顔が浮かび上がっていた。
「公爵さま、遅くなりました」
男は、眼の前に浮かんでいる存在に、声をかけた。
「大丈夫だ。……それで、今日の婚約披露パーティーは、開かれるのか?」
「予定通りです。ミール王国の者たちも、到着しました」
「今回の反乱――。私は、ミールが黒幕とみている。陛下が、周辺諸国にはなった密偵たちは、いまは、私の方へ情報を送ってくれている。ミールは、北のアルカナとも繋がっているようだ。どうやら、豊かなわがシエタ王国を、分割統治する妄想にかられているらしい」
公爵――シェラの義理の兄であるグリム公爵は、険しい表情で続けた。
「パーティーの会場は、王宮の第三会議場で間違いないな?」
「間違いありません! 反乱軍の主だった者たちが参加することも確認しております」
「よし、ほかの密偵にも、伝えておいてくれ。パーティーに乗り込む。宴たけなわで、油断しているときに、侵入する」
「わかりました。いよいよですね」
「いよいよだ。失敗はゆるされない。――頼むぞ」
グリム公爵は、奥歯を強く噛み締めた決意の表情で、魔法通信を切った。
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