第38話 シェラの決心
驚いたリンダは、あわてて腕から飛び降りた。動転しているのか、俺を制止する呪文を唱えることも忘れている。
シェラと王妃も、こちらをみて固まっていた。王妃には、恐怖の表情が浮かび、シェラは、眉をよせた怪訝そうな顔で、俺をにらんでいる。
俺は、ゆっくりと歩き、シェラの前に立った。
――本当に、それで良いのか?
たずねたつもりだったが、喉を通り抜ける空気のヒューヒューという音と、口腔内に押し出された空気の振動による、うなるような音しか出ない。
シェラは、黙って、俺を見上げている。俺とシェラは、ひと呼吸するあいだ、にらみあった。
俺が、そのまま動かないので、シェラは首をかしげた。
「なに、見つめあってるの?」
驚きから回復したリンダが、鋭い声で問いかけてきた。
俺は、ギギっとくびをまわし、リンダに対してうなった。
リンダは、青ざめて一歩下がり、初めて気づいたように呪文を唱えた。
俺の、ゴーレムの身体全体に、強い負荷がかかった。ビエラの魔法ほど強力ではないが、腕や足に、透明な何かが巻きついているようで、のろのろとしか動かせない。
シェラが、王妃の止めるのを振りきって、立ち上がり、俺の眼をのぞき込んだ。何かをみつけようとしているようだった。
が、悲しそうな表情で首を振り、リンダに顔を向けた。
「ミールの皇太子との婚約を受け入れます。……伝えてください」
リンダは、俺が動かないのを確認すると、ドアを開け、見張りの騎士に、何事か囁いた。おそらく、シェラの説得に成功したことを伝えたのだろう。
騎士は、見張りをリンダにまかせ、通廊の奥に走っていった。
しばらくして戻ってくると、騎士は、ふたたびドアの前に立った。
リンダは、シェラと王妃を部屋に残し、動けるよう魔法を解除した俺を従えて、部屋を出た。
しばらく、黙って歩いていたが、
「王女殿下のいうことは、信じてなかったけど、王女殿下の言葉に反応して、自律的に動くことがあるのね。どういう仕組みなのか……ビエラ師匠が居れば、よかったんだけど」
俺に話しかけたのかと思ったが、リンダは、前を向いたまま、すたすたと歩いてゆく。どうやら、ひとり言のようだ。
「ミールか……軍の魔法兵同士の交流で行ったけど、嫌な国だった。女性、平民、亜人、皆、奴隷のように扱われていて……。二度と行きたくないな……」
リンダは、ゴーレム室に戻ったあとも、憂鬱な顔をくずすことなく忙しく動きまわり、弟子たちも、リンダの不機嫌を感じ取り、声をかけなかった。
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