第34話 ゴーレムの始動

 1時間後、リンダと弟子たちは、戻ってきて、さっきとまったく同じ位置に、同じメンバーがついた。

 ――ふたたび詠唱を始める。

 しかし、ゴーレムには、何の変化もなかった。リンダの額には、大粒の汗が浮かび、水滴となって頬をつたい、あごの先から滴り落ちている。弟子たちも、同じように汗だくだった。


 俺は、大型ゴーレムのなかで、前のめり(心理的にだ)になって、リンダたちとゴーレムの様子をみていた。

 ようやくといって良いだろうか? 台に横たえられたゴーレムの身体の中心部、へそのあたりから、緑黄色の暖かい光が漏れ始めた。

 やがて、光は、ゴーレムの身体全体に広がり、ゴーレムの内部に、魔力が蓄積されていくのがわかった。

 魔力は、どんどん溜まっていき、ゴーレムの身体にあふれんばかりになった。だが、ゴーレムは動き出さない。

 リンダが眉を寄せ、詠唱をこなしながら、しきりに首をひねっている。


「おかしい。――なぜ、動かん?」

 詠唱に加わっておらず、離れた場所から見守っていた、年輩の弟子のつぶやく声がきこえた。

 どうも、この段階になっても、動き出さないのは、異常な事態らしい。ビエラのゴーレムは、やはりビエラにしか始動させられず、ビエラにしか操れないのだろう。

 それに、あれは、俺や伯父の魂を呼び寄せ入れるために作られたものだ。誰かの魂を入れなければ、動かないのではないだろうか?


 と、ふいに俺の一部が引っぱられた。

 なんだ? 

 ……まるで、誰かに手をつかまれ、ぐいぐい引かれているような感覚だった。俺の魂の一部は、糸のように細くなって台の上のゴーレムに吸い込まれた。


 ――いったい、どういうことだ!

 俺は、めまいがした。大型ゴーレムと台上の等身大ゴーレムが、常人の眼にみえない、魂の糸でつながっていた。

 なんだろう。眼が四つに増えたようだった。大型ゴーレムと等身大ゴーレムの身体に、同時にとりついてしまったのか? だが、そんなことが可能なのだろうか? ビエラなら知っているかもしれないが、何処にいるのか、皆目わからない。

 現状は、大型ゴーレムと等身大ゴーレム(コウヘイ)にまたがって、俺の魂は、存在しているようだ。


 リンダたちが、詠唱をやめた。

 リンダが、くやしそうに、疲れでしゃがれた声で、

「今日は、ここまでね。明日、もう一回やって――」

 リンダは、最後までいえなかった。

 コウヘイ(ゴーレム)が、むくっと起きあがったのだ。

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