第29話 ゴーレムマスター
施設の前に、シェラが乗っているはずの馬車が運ばれてきた。
馬車を引っ張ってきた馬たちは、広場の端で休んでいるようだ。
俺は、ぐっとつばを飲み込んだ(ゴーレムにはつばがない――負荷のかかった喉がうなるような音をたてた)。
シェラは、降りてくるだろうか?
馬車の
女性兵士が馬車を降り、地面のうえに立つと、また、馬車の内側に話しかけた。今度は、かなり張りあげた声を出している。
馬車の内側から、答える声がした。
聞きなれた声――シェラだ‼
声のあと、シェラが姿をみせた。ゆっくりと、少しふらつきながら馬車を降りてきた。
みるかぎり、どこにもケガをしている様子はない。
俺は、ゴーレムのなかで快哉を叫んだ。
が、降りてきたシェラの悲痛な表情をみて、一気に気持ちがしぼんだ。
今まで泣いていたのか、涙の筋が何本も、下まぶたから頬、首筋にかけて残っている。泣きはらしたあとだとはっきりわかる、真っ赤な眼で、前方の何もない空間をじっとみている。
捕まってから、何かひどい目にあわされたんだろうか?
みたところ、縛られてはいない。が、拘束のための魔法を、何かかけられているかもしれない。
シェラの後から、深いフードで顔を隠した魔法使いらしき人物が降りてきた。前を行くシェラに話しかけると、シェラの手をとり、シェラと並んで歩き始めた。
シェラたちが、簡易宿泊所の前で止まる。
魔法使いが、かぶっていたフードを脱ぎ、背中に投げ下ろした。フードの下から、しわの多い、中年の女性の顔が現れた。
一瞬、ビエラかと思った。まとっている雰囲気がよく似ていたが、よくみると違った。日焼けした化粧のない顔。口を固くむすび、ひきしまった表情は、いかにも軍人らしい、毎日を厳しい規則にしばられて生きている人間の顔だった。
とがった顎と鷲鼻を持つビエラの、ある種の不気味さを漂わせている顔とは違い、このひとに頼っても大丈夫と思わせる顔。ゴーレムを何体も一度に操れる、膨大な魔力を体内に宿している、トップレベルの魔法使いに違いなかった。
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