第28話 宿泊地で

 意識が戻る直前、聞こえた声を思い出した。

 ビエラが、ゴーレムが破壊されるという、もしもの時のために、俺という魂が別の身体に移れるよう設定しておいてくれたのだ。

 ゴーレムが近くにいて助かった――というか、襲ってきた奴らなのだが。

 あぶなかった……。

 魂が滅びる前に、移ることができた。ホントに運がよかった。


 俺の前をゆく2体の大型ゴーレム、そのあいだに挟まれて、馬車がゆっくりと走っている。

 あっ! 俺は小さな声をあげた。

 馬車の屋根の上に、俺の元のゴーレムの身体が、くくりつけられている。踏まれたために、胴体と頭がひしゃげて、ぺしゃんこになったカエルの死体のようだった。

 あれでは、容易なことでは治らないだろう。ビエラに会えたら、あやまらなければならない。


 いまは、手足の感覚はあるが、このゴーレムを思い通りには動かせなかった。魂が移っただけで、完全な憑依まではできていないようだ。

 ゴーレムの魔力とうまく同調できていない。ただ、指先のみ、かすかに動かせた。わずかずつだが、動かせる範囲が拡張している? 少しずつ、同調が進んでいるのだろうか?


 一日中歩き続けて陽が沈む頃、防御壁のない、ナーダの半分ぐらいの規模の小さな都市に着いた。


 俺たちゴーレムと一台の馬車は、街の中央の広場に向かった。

 広場につくと、敷地いっぱいに軍のテントが張られ、魔法軍の兵士たちが、せわしげに動きまわっている。

 魔法軍の駐屯地になっているらしい。

 防壁のないところは、軍に依頼して、魔物や魔獣から守ってもらっているようだ。


 食料や飲料水の樽を積んだ荷馬車が、土煙をたてながら、走り回っている。俺たち3体のゴーレムの歩いている前を、シュッと横切ってゆく。

 道いっぱいに広がる、工兵と思われる魔法兵と、軍隊にモノを売りに来た商人や、荷物を運ぶ人夫たちをかき分け、ゴーレムのために用意されていただろう、地面のむき出しになった、空いた区画に着いた。


 俺は、2体のゴーレムと並んで、直立不動で立つその姿をまねて、同じ姿勢で立った。

 立ちならぶ俺たちの前に、馬車が止まった。と、さらにその横に、2台の荷馬車が止まった。

 合流した魔法軍の荷馬車だろう。荷馬車には、食料や水樽、何かわからない木製の棒や重なった板など、雑多な道具類が、荷台いっぱいに、ぎゅぎゅうに詰め込まれている。くくりつけた縄の間から、はみだした小口の荷物がこぼれ落ちそうだった。


 馬車の扉が開き、将官らしい男が降りてきた。乗せられているはずのシェラは、降りてこなかった。

 俺は、心臓を締めつけられたような気持ちになった。シェラは殺されてしまったのだろうか? ゴーレムに持ち上げられていた最後の姿が目に浮かんだ。殺されて、あの場に埋められてしまったのだろうか?


 馬車から降りた男が、近寄ってきた兵士のひとりに、話しかけた。何か、指示を出しているらしい。

 指示を受けた兵士は、後ろに従っていた部下らしい兵士と、荷馬車のまわりに集まって待っていた人夫に、大声で呼びかけた。

 人夫たちは、どっと荷馬車に取り付いて縄をはずし、荷物をどさっと地面に降ろした。いっせいに、開梱をはじめた。


 指示を受け、どこかへ走り去った部下が、工兵の一団を引き連れて戻ってきた。

 工兵たちは、地面に広げられた、おそらくは宿泊用の資材を、組み立て始めた。要所要所で魔法をもちい、柱と柱を接着したり、布を伸ばし、屋根の部分にあたる長い板に巻きつけたりしている。

 重いモノを持ち運ぶときは、ゴーレムにやらせればよいと思うのだが、誰も俺たちには、手伝う指示を出さなかった。軍用ゴーレムは、建築や土木作業には、使わないのかもしれない。


 思ったより短い時間で、長方形の、屋根と壁が細長い板とベージュの布で覆われた、簡易宿泊施設が出来上がった。

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