第27話 ゴーレム対ゴーレム

 ――まずい! 

 先手をとれ! 動け! 

 自分で自分を叱咤しながら、俺は一番手前の男に全力で突進した。ゴーレムの長い腕を伸ばして思いきり振った。

 短剣を出しかけていた男は、よこ殴りのこぶしと衝突し、吹きとばされた。とばされた身体が、かたまっていた後ろの仲間に激しくぶつかり、何人も倒れた。

 そこに、ほんの少し隙間ができた。


「シェラ!」

 俺は、ひと声かけると、シェラの手をつかみ、その隙間に突っ込んだ。

 俺の身体に数本の短剣が差し込まれたが、固いゴーレムの皮膚で弾き返した。

 シェラは、呪文を唱え俺の背中から自分の身体にかけて、魔力の防護盾を張った。盾は不完全ながらも、突っ込んできた物体を妨害し、その速度を下げることができる。


 俺は、長い腕を思いっきり振りまわした。

 左右からせまってきた男たちは、片腕のひじやこぶしに勢いよくぶつかり、簡単に弾きとばされた。

 棍棒を振りおろす正面の男に、一瞬早く魔力を込めた手刀を突き刺す。指が相手に食い込み骨に当たった。男はガアッと声をあげ引っくり返り、背中を地面に激突させた。


 囲みを抜けると、シェラを肩に担ぎあげ、防御壁の出入口まで飛ぶように走った。

 出口側の通路は、入口側と違って騎士など検問係はおらず、一気に駆け抜けた。


 防御壁を抜けて、ホッと気をゆるめたときだった。

 目の前を、巨大な手がふさいだ。

 俺はかろうじて避けて、シェラを放り出し、転がった。

 シェラは悲鳴をあげ、地面に落ちた。腰を打ったらしく、土の上でもがくだけで、立ちあがれない。


 地響きをたてて、三体の大型ゴーレムが俺を取りかこんだ。巨大な腕をかいくぐって、シェラのもとへ駆け寄ろうとした。

 隣のゴーレムが素早く横に動き、俺を行かせまいと、立ちふさがる。

 横に飛んで、ゴーレムの足をよけ、走りかけたところに、三体目のゴーレムの手が俺の顔面を打った。

 激しくのけぞった。さらに後ろから別のゴーレムのこぶしが背中をなぐってきた。

 俺は、前に弾き飛ばされた。手をつく間もなく、顔を下にして地面の砂利の上をがりがりと音をたてて滑った。


 起き上がろうとしたが、上からゴーレムの足が俺を踏みつけた。2体のゴーレムが、交互に俺の頭や背中を激しく踏んだ。

 首筋から背中にかけて、ぼこぼこと体内で何かが破裂するような嫌な音がした。つぶれた頭の端にはみでた眼から、シェラがもう一体のゴーレムに捕まえられ、上に持ち上げられるのがみえた。

 頭がまた踏まれ、がぼっという音とともに、耳と口から黄土色に赤の混じった液体が吐き出され、俺の意識が途切れた。


 ピンポーン。

 暗闇のなか、また、頭のなかで音がした。

 ピンポーン。

――憑依体に8割以上の損傷が発生しました。

 ピンポーン。

――主存在ビエラの初期設定により、憑依対象を最接近距離の同質体に変更します。

――魂魄本体を、最接近距離の同質体に転送します。

――転送にともなって、負債が増加しました。ポイントが消費されます。

――借り:350  貸し:290

――転移第六期 純益:-60 負債:+60

 ピンポーン。


 俺は、眼を開けた。俺の意思に関係なく視界が動いている。眼の前に、大型ゴーレムの背中がみえる。

 これは、いったい?

 ザク、ザクっという足音が規則的に響き、俺の足と手が動いている。

 手足も踏まれてつぶれたのでは? 

 だが、両手、両足の感覚がある。ぐるりとまわりをみてみた。

 息をのんだ。前方を2体の大型ゴーレムが歩いている。俺とシェラを襲ってきたゴーレムだった。

 まさか?

 下をみると、地面が、やけに遠くにみえる。

 横や正面をみる。視点が高く、道端に茂る木々が上からみえ、遠方の森林地帯のひろがりまで見渡せた。

 手のひらと両足をみた。以前より、ひとまわりも、ふたまわりも大きい。

 まちがいなかった。俺は、襲ってきた敵のゴーレムのなかにいた。

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