第25話 防具を買おう
武器屋が一か所に集まっているわけではないので、複数の店をまわるのに、かなり時間がかかってしまった。
胸と腹をおおう防具、手首に着ける籠手ぐらい、簡単にみつかるだろうと思ったが、シェラは、そうではなかったらしく、とっさの時に命を守るものだから、高価であっても良いものをと、安い武具の前で立ち止まる俺をぐいぐい引っぱっていく。
市場の反対側の端に、俺の腰ぐらいの背丈の子供が店番をしている、包丁や短刀を台の上に並べている店があった。
シェラは、その前で立ち止まり、包丁を手にとり、じっとみている。
料理用の刃物も、ついでに購入しとこうというつもりかな。
俺は何気なく、店番の子供をみた。
ハッとした。子供ではなかった。顔には多数のしわがあり、なにより口から顎にかけて、ふさふさした灰色のひげがあった。
小人? ドワーフというやつか?
シェラが、小人に話しかけると、小人は奥に引っ込み、何か図の描かれた布を持ってきた。
シェラは、布を受け取ると、俺の腕をひっぱった。
「彼の店には、良い武具があるそうよ。すぐ近くだそうだから、行きましょ」
どうやら、貰っていた布は、店までの行き方を書いたものらしい。
幸い、小人の店は広場からすぐ近くだった。
広場から南に伸びた大通りを少し歩き、横道にそれた。
一歩踏み入れただけで、空気が違うのがわかった。土の上に、線路でよくみかける枕木のような形の板が、びっしりと、敷きつめられている。道の両端には、四角や丸型、星型など、さまざまな形の鉢植えが並んでおり、どの鉢からも、つやのある、みずみずしいたくさんの葉が広がっている。さっきまでのホコリっぽさが嘘のように、落ち着いた湿り気のある空間が続く。
大通りから入って、10歩ほど歩いたところに、壁全体に斧や剣の描かれた店があった。客が入ってきやすいようにか、細長いアーチ型のドアが、開けっぱなしになっている。
シェラといっしょに入ると、猫耳の中年の女性が出てきた。
耳がネコの耳だ!
またしても、俺は、茶色の髪に隠れている耳の根元がどうなっているか、みてみたくなった。
「いらっしゃいませ。何をお探しでしょう?」
猫耳が、声をかけてきた。
シェラが持っていた布を渡すと、ああ、とうなずいて、
「市場に出ている主人の紹介ですね。質の高い防具をお探しですか?」
俺達がうなずくと、
「こちらへ――」
すだれをくぐり、店の奥の部屋へ案内された。ちいさな部屋いっぱいに、木でできたマネキンのようなヒト型が立ち並んでいる。それぞれに兜や防具が着せられている。
部屋をひとまわりした。
すると、
「これにしましょ!」
シェラが、籠手と、胸から腹にかけての防具を身に着けたマネキンにとびついた。
鉄製の籠手と革製の防具で、武具の地肌と同じ色で、細かく魔法陣が描かれている。ゴーレムの鈍い神経でも、強い魔力を宿していることがわかる。が、防具も籠手も、細く小さかった。
「良い品だと思うが、小さすぎる。――無理に着たりしたら、腹や肩回りがきつくて、我慢できないんじゃないか?」
「そう思うでしょ!」
シェラが、防具を取り上げ、俺のゴーレム体に着せた。
と、みるみるうちに、防具は伸び広がり、俺の身体に合う、ちょうどよい寸法になった。
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