第24話 ナーダの市場

 シェラはフードをかぶり、従者としてゴーレムを連れている魔法使いを装って、アーチ形の入口をくぐった。


 都市に入る検問を通るとき、俺は、激しく緊張した。ゴーレムでなかったら、どっと汗をかいていただろう。

 が、意外にも、検問では何もなかった。

 シェラがみつけた、ビエラが軍をやめたときの退役兵士証明書を門番にみせたのだが、チラッと一瞬みただけで、すぐに通してもらえた。


 シェラに聞くと、ここみたいな辺境の都市では、門番に鑑定などの魔法能力のある者は、配置されておらず、もっぱら、人相風体で判断されるそうだ。身分証明書は、簡単に偽造できるので、あまり信用されておらず、持ってないよりはましという程度だそうだ。

 シェラは、身なりのきれいな魔法業を営む女性で、ゴーレムを持つだけの財力があるということで、問題ないと判断されたらしい。


 簡単に入れて良かったが、それでいいのだろうか、これだと、変装のうまい者なら、自由に出入りできるぞ。 

 俺がぶつぶついっていると、シェラは笑って、辺境は、どこもそんなもの。――王都や重要な拠点となる地域の都市なら、高い金を払って、鑑定魔法を使える者を雇うが、ほとんどの都市では、そんな余裕はないという。


 ぶ厚い防御壁を通り抜けると、広い通りに出た。馬車や荷車が、砂埃をあげながら、歩行者を気にせず、走っている。

 俺の数センチよこを、馬に乗った兵士が、通り過ぎた。馬の汗のにおいがムッと鼻につく。シェラは、道のわきに、あわてて俺をひっぱった。

 高速の移動体が我がもの顔で道路を暴走するのは、元いた世界と変わらないみたいだ。


 広い通りをそのまま歩き続けると、広場に出た。広場の中央では、都合のよいことに市場が開かれていた。

 元の世界の、インドや中東のバザールというのに似ている。食べ物、衣料、武器、道具、敷物、家具、雑多な商品が、ごちゃごちゃと入り混じった状態で売られている。商品の種類による区画分けなど、まったく行われていない。某雑貨チェーン店の、屋外拡大版といったら、わかりやすいだろうか。


 俺とシェラは、さっそく食料と飲み水を買った。魔法で生成された水なのか、試しに飲んでみると、ほんの少し酸味があり、おいしかった。喉の渇きをいやすには、ちょうどよい味だ。


 食料を手に入れたあと、俺は、武具を探した。

 ゴーレムであっても、強い魔物には、簡単に皮膚をけずられて、そこから魔力が漏れてしまう。薄くて丈夫な防具が必要だった。

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