第22話 タイガーベア

 ピンポーン。

――害獣処理ポイントが加算されました。

――借り:300  貸し:305

――転移第二期純益:+5 負債:-5

――転移帰還ポイントを越えています。帰還しますか?

  はい。いいえ。 で回答してください。

――回答のない場合は、主存在ビエラの初期設定により、自動的に転移帰還します。


「あっ!」

 俺は、驚いて声をあげた。このお知らせには、なかなか慣れない。これは、神さまの出納係本人の声なんだろうか。

「どうしたの?」

 シェラが振り返って訊いてきた。

「いや。なんでもない」

 シェラには、まだ打ち明けない方がよいだろう。

 俺が、ポイントが増えるごとに転移帰還するかもしれないと思ったら、不安がつのるだけだ。シェラの家族やビエラの安否がわかるまで、このことは、いわないでおこう。


 俺は、小さな声で、頭の中の問いかけに答えた。

「いいえ」

――回答を了承しました。

――主存在ビエラの初期設定により、純益を、魔力強化・人体変成の割り当て標準ポイントに達するまで、蓄積します。

 ピンポーン。


 その後、何度か魔物に襲われた。ウサギに長い牙と二本の角がはえたような魔物が、数回、襲ってきた。こいつらとは、シェラも戦い、簡単に処理できた。

 やっかいだったのが、虎と熊をあわせたような、でかい魔物だった。そいつは、全身が虎のような縞模様の毛皮で覆われていたが、頭は、熊のそれだった。

「こいつは、毛皮が厚いの! 気をつけて」

 シェラも、焦った顔で忠告してきた。


 俺は、剣を抜き、すかさず切りつけた。

 熊虎に剣が当たった瞬間、ガクンという衝撃が両手、両肩にはしった。切ることは切れたが、皮の表面を薄く切っただけだった。内部の肉には届いていない。切った感触では、柔らかい皮の層が、二重三重に熊虎の全身を覆っているようだった。

 熊虎は、うごきも早く、俺のゴーレムの身体に体当たりしては、鋭い爪で、胴体に傷をつけてゆく。つけられた傷から、少しづつ魔力が漏れてゆくのがわかった。


 ――これは、まずい。燃料である魔力が底をつくと、ゴーレムである俺は、動けなくなってしまう。

 何か、良い方法はないのか……俺は、熊虎の攻撃を剣で受けたり、紙一重で爪を避けたりしながら、考え続けた。

 こいつの皮は厚い。……が、切れないことはないはず。

 俺は、剣の試し切りをしたときのことを思い出した。固くぶ厚い木片が、たやすく切れた。あのときは、どうやっていたんだろう。少なくとも、怪力で力まかせに切ったのではない。


 俺は、熊虎をよけながら、力を抜いて軽く振ってみた。振った時に、一瞬、微量だが、魔力が剣に流れた。

 そうか、無意識に魔力をこめていたのか。

 軽く剣を握り、切るイメージを明確に頭に描いて切れば、剣をふった時に、魔力がこめられるようだ。ただ、力むと、逆に魔力の流れが途切れてしまうみたいだ。

 試し切りをした時のように、何も考えず、軽く自然にふる……よし、わかった。


 熊虎は、俺が考えているあいだにも、何度も突っ込んできていた。見た目は小さな口にみえるが、ねらった獲物にぶつかる直前に、あごがはずれたかのごとく、大口を開き、ぎざぎざの重なった歯で、俺を噛み砕こうとする。

 俺は、熊虎の臭い息を顔に受けながら、最小の動きでよける。が、奴の爪が、また腕や胴体を引っかいてゆく。腕に受けた一撃は意外に深く、体液が魔力とともにこぼれ出る。


 シェラが悲鳴をあげる。

 一瞬で切り返し背後から襲ってきた熊虎に、俺は振り返りながら地面を蹴り、勢いのまま、真横から剣を振りぬいた。

 すっと、軽く振り切れた。熊虎の伸ばしていた両腕の肘から先が吹っ飛んだ。熊虎が、かがんだ俺の上を通り過ぎ、頭から地面に突っ込んだ。俺は、すかさず熊虎の後ろ足の腱に切りつける。振りまわす尾をよけながら、もう一足の腱も切った。

 熊虎は立とうとするが、立ちあがれない。激しく全身を動かすが、はいずることしかできない。


 俺は、ゴーレム特有の低い唸り声をあげ、首を限界まで伸ばし振りまわされる熊虎のあごを回避しながら、何度も何度も腹や腰に切りつけた。

 剣に魔力を流すこつを、完全につかめた。すっと、毛皮の下まで剣がとおってゆく。切りつけた何ヶ所からは、噴水のように血が噴き出していた。

 熊虎の動きは、徐々に鈍くなり、やがて動かなくなった。 



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