第21話 モンキーボア

 俺は、シェラを肩に乗せたまま、走り始めた。シェラが悲鳴を上げて、俺の頭にしがみついた。指をひっかけやすいのか、耳とあごを強くつかんでいる。

 後ろの生き物たちも、速度をあげて、俺たちに迫ってきた。

 このままでは、追いつかれてしまう。


 俺と同じくらいの身長の岩と、太い根が盛り上がった大木に挟まれて、道幅が狭くなっているところに出た。

 俺は岩の後ろにシェラを急いでおろすと、迫ってくる魔力を持った生き物を迎えうった。

 猿と猪を合わせたような魔物が、4匹、目の前に現れた。顔は猪なのに、四肢は猿のように器用で、足でも木の枝をつかんでいる。枝から枝へ飛び移って、かなりのスピードで、俺たちを追ってきたようだ。


 最初の1匹が、斜め前の木の枝からジャンプして、襲いかかってきた。

 俺は、背中の剣を抜くと(鞘に入っていなかったかと思えるほど軽く抜けた)、横にふった。

 軽くふったつもりだったが、猪猿の伸ばした両手と首が、いっきに切断され、残った身体ともどもふっとんだ。


 先頭が倒されても、臆すことなく、2匹目と3匹目がつっこんできた。

 2匹目を、剣の背で叩き落とし、3匹目の牙が、俺ののどに届く寸前で、剣をあいだに入れた。剣と牙のぶつかるキンという音と、俺の眼をねらった爪がとっさにかがんだ俺の頭にあたる、ゴンという音とが同時に響いた。

 剣をそのまま突きあげ、柄でそいつのあごをはじきとばした。


 その時には、4匹目が俺の足に爪をたて噛みついていた。

 噛みついたまま足をひっかき、全身の重みを牙にかけ、俺を転倒させようとした。

 残念ながら、ゴーレムの俺は、噛みつかれても、針でついたほどにしか痛みを感じない。これは俺が魔力神経を持つ特殊なゴーレムだから感じるので、通常、ゴーレムは痛みをかんじない(ビエラからの豆知識だ)。


 4匹目の背中に、思い切り剣を突き刺した。貫通した剣が地面にまで突き刺さる。

 叩き落とした2匹目が、起き上がって突進し、俺の胴体に突っこんだ。俺は、こぶしを握り、そいつの頭を両側から、挟むようになぐった。あっと思った瞬間、ぐしゃっと頭がつぶれた。人体変成で人体化が進んでも、ゴーレムとしての怪力は衰えていなかった。逆により強くなったようだ。魔力強化の影響だろうか?

 人間と対する前に、こいつらと当たってよかった。力の加減を間違えると、簡単に人を殺せてしまう。


 シェラが、駆け寄ってきた。

「大丈夫? 血がでてる」

「いや、血じゃない。体液だ」

 シェラは、それでも、バッグから包帯のようなものを取り出し、猪猿の牙のくいこんだ辺りに、ぐるぐる巻いた。

「外傷を治癒する魔法がかけられてる魔布よ。微量だけど魔力を供給して治すものだから、ゴーレムにも効くの。サディにも以前に使って効果があったから……」

 シェラは、爪を受け止めた俺の頭にも、その布を巻いた。頭のてっぺん近くなので、見えないが、けっこうえぐられていたらしい。


 シェラは、死んだ猪猿の胸のあたりに、湾曲したのこぎり状の歯を持つナイフを差し込み、ナイフを激しく上下に動かし、何かを取り出していた。

「それは、なんだ?」

 シェラは、驚いた顔で、返事を返した。

「知らないの! 魔石よ。どの魔物にも、こいつが入ってるの。このモンキーボアの魔石は手に入れにくいから、高く売れるわ」

「詳しいんだな」

「王宮にいても、それくらいは知ってる。冒険者になりたかったのよ」

 シェラは、魔石を全部抜き取ると、バッグに入れた。

「換金できたら、お金を渡すわね。買いたいものがあるなら、ビエラ姉さまに渡しちゃだめよ。姉さま、すぐ魔法の道具や材料に使ってしまうから……」


 シェラは、立ち上がった。

「また、魔物が襲ってくる前に、できるだけ進みましょ。サディと登ってきたときは、あんな上級の魔物には会わなかったの。道に張られた魔物除けの結界が消えてるせいだわ。ビエラ姉さまが、時間をかけて張ったのに。自然に消えることはないから、誰かが消したんだ……」

 シェラは、くやしそうにいい、歩き出した。


 俺も、シェラのすぐ後ろについて歩き出した。シェラは、興奮して疲れを忘れているようだ。今度、ふらついてきたら、説得して、また肩に乗せよう。

 俺は、まったく疲労を感じなかった。ゴーレムの良いところだった。

 ピンポーン。

 また、頭のなかで音がした。

 ――害獣処理ポイントが加算されました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る