第19話 シェラとの旅立ち

 それから、三日間待っても、シェラの従者たちは現れなかった。

 シェラの顔色が、だんだん悪くなっていった。従者たちがどうなったのか、彼女にも想像はついたのだろう。

 四日目の朝、シェラは、何かを決めた表情で、ゴーレム室をかたづけていた俺の前へ来た。


「姉上の従者たちは、来ないかもしれない」

 俺は、壊れたゴーレムの身体を拾い集め、なるべく元の形になるよう、床に並べていた。持っていたゴーレムの腕を置き、シェラの次の言葉を待った。

「王都に戻ろうと思うの……」 

 俺は、そのまま何もいわず待った。


「いっしょに、護衛として来てほしい。……わたしだけでは、たぶん王都まで、たどりつけない。……それに、ビエラ姉さまも、王都にいるかもしれない」

 俺は、舌が動かしやすくなり、高い音も出せるようになった喉を動かし、答えた。

「俺も、どうしようかと思っていた。ここで、動かないままでは、何も解決しない。何かしなければと思っていた」

 シェラの顔が明るくなった。

「王都までの道なら、案内できるわ。ここには何度も来てるから、目立つ街道じゃない、裏の道も、いくつか知ってる!」


 俺とシェラは、王都への旅の準備を始めた。

 俺はゴーレムだから、基本、食事は要らない。暑さ・寒さも感じないから、衣服も必要最小限でよい。この世界のモラルにかなった服を、数枚持っていくだけだ。

 シェラは、ビエラの家のなかを、探し回り、倒れた棚の下に散らばっていた食材をみつけ、日持ちのするものを選んで、バッグに入れた。

 シェラのバッグは、魔法がほどこされていて、バッグの実際の容量の4倍ぐらい、入るようになっていた。

 便利なバッグだといったら、ビエラの魔法具の倉庫(ここも内部はぐちゃぐちゃだった)から、肩ひもの長い、同じような魔法(収納魔法というらしい)のほどこされたリュックをみつけてきて、俺に渡してくれた。


 俺は、旅の間にシェラを守るための武器を探した。

 これも、俺はみつけることができず、シェラがゴーレム用の剣を探してきた。長い両手剣だったが、俺の今の身長は、優に2mをこえる。手の長さも、片手でだけで1m半はある。振ってみたが、何も問題なく、むしろ、少し短く感じたくらいだった。

「魔法具の倉庫の金属製の箱のなかにあったの。ふたがゆがんで開けにくかったけれど、なんとか、細い板を隙間につっこんで開けたら、なかに、鞘に入った剣が並べてあったの」

 シェラは、そのなかから、ゴーレム用と思われる長い剣を選んだという。

「それと、剣の柄をみて……。コウヘイという文字が刻んである。きっと、ビエラ姉さま、コウヘイに渡すつもりで、これをつくったんだと思う……」


 俺は、剣を鞘から抜いてみた。両側に刃があり、日本刀のような文様はなく、銀白色で、鈍いつやを放っている。部屋の隅に積み重ねた折れた木材の棚の一部を拾ってきて、切ってみた。

 あまり力を入れていないのに、スッと切れた。幅もあるし、切るだけでなく、叩きつける使い方もできそうだ。


 俺は、丈夫そうなひもをさがしてきて、腰に剣を鞘ごとくくりつけた。が、歩くと、意外にじゃまになったので、背負ったリュックのなかに突っ込み、リュックの口をほんの少し開け、そこから剣の先を出し、盗られないよう、鞘とリュックの肩ひもをむすびつけた。

 準備を終えた俺とシェラは、あと1日、従者たちを待ってから、王都へ向かうことにした。


 出発の日、家の外に早めに出ると、俺は、シェラが出てくるのを待った。

 2階建ての家を見あげた。こちらの世界に来て、ずっと暮らしてきた家だ。

 ビエラをみつけたら、必ず、ここに帰ってくる。元の世界に戻るときは、この家から転移する。

 俺は、そう決めていた。

 シェラとともに林のなかに入ると、すぐに、ビエラの家はみえなくなった。

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