第18話 人体変成

 これは、元の世界に帰れるということだろうか? ビエラは、約束通り、負債ゼロになったとき(表示によると、20ポイントの利益も出ている)、帰還できるように魔法で設定しておいてくれたらしい。

 ……どうしよう。

 俺は、シェラをみた。本当に疲れ果てて眠っていて、少し苦しそうな息をする音だけが聞こえてくる。


――転移帰還ポイントに到達しました。帰還しますか?

――回答のない場合は、自動的に転移帰還します。

――帰還までの、カウントを始めます。


 俺は、焦って叫んだ。

「いいえ!」

 まだ、帰るわけにはいかなかった。


――回答を了承しました。

――主存在ビエラの初期設定により、第一期純益を、人体変成、魔力強化に割り当てます。


 人体変成? 俺は何のことだか、わからなかった。

 と、俺の身体がひかり始めた。身体全体が熱くなり、何かが身体のなかをめぐっているのが感じられた。

 ひかりがおさまると、心なしか、身体が暖かくなったような気がした。

 俺が帰還を拒否した場合に、そのときに得ている利益分を何に使うかも、ビエラは決めておいたらしい。

 おそらく、ビエラ自身がかせいだポイントはビエラに、俺のかせいだポイントは、俺の方に役立つようにしてくれていたのだろう。


 魔力強化はわかるが、人体変成とは? 

 ビエラがいない今、訊くことができない。人体とあるから、ゴーレム体である俺には、あまり関係がないものかもしれない。ゴーレムから自分の身体に戻った際に、役立つようなものなのかも……。


 急に、眠気が襲ってきた。

 ゴーレムであっても、日に一時間は、睡眠をとらなければならない。ビエラによれば、睡眠の必要ないゴーレムも作れるが、より知性の高い、細かい動きのできるゴーレムにしたいため、ビエラの製法で作るゴーレムは、宿らせた魂とつなげられる魔力神経を持ち、その調整と発達のために、睡眠を必要とするそうだ。

 それ以外にも、ビエラのゴーレムは体液を持つ(これも魔力神経の維持に関係しているらしい)など、他の魔法使いの作るものとは、かなりちがっているらしい。

 今のような危い状況では、眠りたくなかった。

 が、しかたがない。俺は、そのまま、眠りに入った。

 

「コウヘイ! コウヘイ!」

 誰かの呼ぶ声がする。腹から叩かれているような振動が伝わってくる。

 眼を開けると、シェラが、立ったまま眠っていた俺の服をめくり、むきだしになった腹を、何回もたたいていた。

「コウヘイ! 朝だよ。それと、少しやせてしまってる!」

 一時間睡眠のはずなのに、今回は、もっと長く寝てしまったようだ。夕方だったはずなのに、朝になっている。


「ああ、すまない。もっと早く起きる予定だったんだが……」

「それより、昨日よりやせてるよ。大丈夫?」

 やせている? ゴーレムだから、やせたり、太ったりはしないはずだが。

 俺が理解していないことがわかったのか、シェラは、小さな声で呪文を唱えた。

 床に水たまりができた。ビエラも使っていた、水たまりを鏡替わりにする、あの魔法だ。


 水たまりに映った姿を見て、驚いた。通常の人間の三倍ぐらい太かった首や、ずん胴だった腹まわりが細くなり、より人間に近い体形になっている。身体全体の表面の色も、青味が薄れ、黄色味が入り、うすい黄緑色になっていた。

 あっ、人体変成。……そうか、こういう変化が起こることだったのか。

 ゴーレムの身体が、より人間に近くなることだったのか。


「大丈夫?」

 もう一度、シェラが訊いてきた。

「大丈夫だ。身体に異常はない。ポイントを得た影響みたいだ」

「自律型だと、人造ゴーレムにも負債がかかるんだ。負債を越える利益ポイントも有効なんだね。初めて知った!」

 シェラは大きな目をさらに大きくして、声を上げた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る