第17話 転移ポイント

「従者たちは、どうしたんだ?」

「追手がせまってきたとき、わかれたの。自分たちが残って、防ぐからって……」

 つまり、この娘を逃がすために、囮になったのか。だとすると、もう生きてはいまい。俺は、家のなかの惨状を思い浮かべた。数人で、どうこうできるような相手ではなかった。それに、生きているなら、この家にもう着いているはずだ。


 シェラは、気丈に話を続けた。

「待っていれば、ここに来るはず……。わかれるとき、ここで落ち合うと、決めたの」

「わかった」

 俺は、反論しなかった。この世界に来たばかりの俺が、憶測で語れるようなことではなかった。この世界の兵士や騎士や、ゴーレム以外の魔物にも、まだ出会ったことがない。家の破壊の惨状だけみて、敵の情報もないのに、判断できることではなかった。


「シェラがここに来た時、どうなってたんだ?」

「わたしとサディがここまで来た時、ビエラ姉さまの家のなかで、外まで響く大きな音がしてたの。この山全体に響き渡るぐらいの音だった。わたしを抱えて、ここまで登ってきたサディが、わたしを林のなかに隠して、家の内部に入っていった」


 シェラは、肩と、組み合わせた手を震わせながら、話し続けた。

「わたしは、サディの注意を無視して、林から出て、家の内部を覗こうとしたの。何かが壊れ、つぶれるような音が、何度も何度も響いてきた。――わたしは家の裏にまわって、窓から覗いたの。なかは、もうもうとホコリが舞って、何もみえなかった。ただ、ゴーレムの衣装の縞模様が、ホコリの隙間から、チラチラとみえた。――その時、わたしの後ろに、何かが立ったの。窓から覗くのに夢中になっていたわたしは、気づくのが遅れた。振り向くと、姉さまのとは違う大型のゴーレムが、掴みかかろうとしてた」


 シェラは、また首のないゴーレムをみた。

「サディは、わたしの悲鳴にすぐさま反応して、窓を破って出て助けてくれた。相手のゴーレムの指を折って、わたしをかかえあげ、林のなかに逃げ込んだの。――相手のゴーレムは、大きすぎて狭い木々の隙間を通れなかった。しばらく腕をふりまわしながら、低木や下生えの雑草を踏み荒らしたあげく、あきらめて去っていった。ほっとしてサディをみたら――首が……」


 シェラは、泣きそうになった。が、ぐっと唾を飲み込んだ。

「あのゴーレムに後ろから、首をつかまれたのに、そのまま、わたしを抱えて逃げてくれたの。首がとれても、わたしを離さず、走って……。たぶん、限界だったんだと思う。わたしが腕から降りると、そのまま倒れてしまった。わたしの魔力をそそごうとしたけど、ビエラ姉さまのようにはできなかった――」

 そのあと、俺が探しに来るまで、怖くて出てこられなかったらしい。結局、ビエラがどうなったのかは、わからないままだった。


 疲れた様子のシェラを、部屋の隅に案内し、そこの毛皮の上で休んでもらった。

 シェラはすぐに寝てしまった。無理もない、王都からここまでの道中で、疲れ果ててしまったのだろう。


 その時だった。

 ピンポーン、とインタホンのような音がした。

 俺は、あたりを見まわした。音を鳴らすようなものは、何もない。

 ピンポーンと、また鳴った。

 俺は、頭のなかで、それが鳴っているのに気づいた。


 誰かの声が響いた。

――人命救助のポイントが加算されました。

――借り:300  貸し:320

――転移第一期純益:+20  負債:-20

――転移帰還ポイントに到達しました。帰還しますか?

 続けて、頭のなかに声が響いた。

――転移帰還ポイントに到達しました。帰還しますか? 

  はい。いいえ。で回答してください。

  回答のない場合は、主存在ビエラの初期設定により、自動的に転移帰還します。







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