第16話 王都の反乱

「そうだ。ビエラに作られてから、自律して行動している」

「そう、ビエラ姉さま、長年の夢をかなえたんだ。何もいわなくても、勝手に動いて料理や掃除をしてくれるゴーレムが欲しいって、以前からいってた。せっかく優秀なゴーレムを作れたのに……」

 シェラは、また泣きそうな顔をした。


 俺は、なぐさめようとシェラの腕に手を置いた。

「……ありがとう。でも、重たいな」

 ゴーレムでなかったら、俺は真っ赤になっていただろう。あわてて、手をもとに戻した。

 俺は、ここに着いたときのことを、話すよう、うながした。

 シェラは、か細い声で、絞り出すように話し始めた。


「王都で、魔法兵の反乱があったの。父上と母上は、反乱軍に捕まってしまった。わたしは、嫁いだイリーナ姉さまの家へ行っていて助かったの。グリム公爵――姉さまの夫が、あわてた様子で帰ってきて、姉さまの飼っている子犬を見せてもらっていたわたしに、すぐ逃げるよう、従者をつけてくれたの」

 俺は、一瞬、台に載せている首のないゴーレムに眼を向けた。

「――サディは、護衛としてわたしの出かけるところには、どこにでもついてくるの」

 俺の疑問を感じたのか、少女はすぐに答えた。

「ビエラ姉さまとは、王城で魔法の勉強をしているときに知り合ったの。王宮内には、いろいろな派閥があって、ビエラ姉様は、そのどれにも属していなかったから、わたしから、魔法を教えてほしいと頼み込んだの」

 俺は、王城とか王宮とか、シェラが当たり前のように話す聞きなれない言葉を聞き、困惑するしかなかった。

「待ってくれ。父親と母親が軍に捕まったって。……シェラの親は、重要人物なのか?」

 シェラは、目を丸くした。

「ビエラ姉さまから、聞いてないの?」

「兄弟のことや、王宮で魔法の技術顧問をしていた話は聞いているが、友人のことは、何も聞いてないぞ」

「ゴーレムだものね。しかたがないか……。わたしの父上は国王なの。だから、母上は王妃さまね」

 俺は、混乱した。と、いうことは、シェラは王女なのか? 王女なら、お供のひとりぐらい、いてもよさそうなものだが。

 俺のゴーレム顔の表面がゆがみ、まぶたが限界まで開き、眼の穴が大きくなったのをみて察したのか、シェラは続けた。


「わたしは、元々、単独行動が好きなの。だから、姉さまのところに行った時も、サディしか連れていかなかった。世話係のアンナは、ついていくといい張ってたんだけど。こっそり抜け出したの。――アンナも一緒に連れて行けばよかった」

 シェラは、また泣きそうな顔になった。

「前々から、魔法兵が不満を抱いてるという噂はあったの。……貴族の正規兵の盾にされているって。正規兵側は、魔法という強力な力がふるえるのだから、前線で戦うのは当たり前といって取り合わなかった。――父上も、正規兵を息子に持つ貴族のいうことを信じて、何の対策もとらなかった」

「魔法兵の不満がたまっていたとしても、何かきっかけがないと、反乱なんか起きないだろ?」

 俺は、元の世界の、いろいろな国の歴史を思い浮かべながら、訊いた。


「はっきりとしたきっかけは、わからないの。ただ、北の小国、アルタナの神聖騎士団が、いきなり攻めてきて――小競り合いになったんだけど、騎士団と戦った魔法兵に、大勢犠牲者が出たの。なぜか、その場に正規兵がいなかった……」

「北の国境の辺境伯、グラン伯爵は、援軍を正規兵の北の駐屯地であるモエラ城に要請したんだけど、正規兵は来なかった。……使者の着くのが遅かったから、間に合わなかったというんだけど、その使者が行方不明で見つかっていないの。その戦いで、親しかった魔法兵の友人がケガを負って帰ってきて、詳しい話をしてくれた。――友人は一応、くらいは低くても貴族で、部隊の後方にいたから、助かったっていってた」 


 なるほど。シェラは黙っているが、似たようなことが過去に何度もあったのかもしれない。その溜まりに溜まった不満が、爆発した。

「反乱軍に、リーダーはいるのか?」

「グラン辺境伯と何人かの北方の領主、魔法兵団の団長と副団長、この人たちが、集団で率いているという話だった。――こういうことも、逃亡中に、グリム公爵のつけてくれた従者たちから聞いたの。彼らは、魔法の素養があって、近距離なら情報の交換を伝達魔法で、できるようだった――」

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